【現地取材】東京理科大生、サッポログループとビールの需要予測を疑似体験

【現地取材】東京理科大生、サッポログループとビールの需要予測を疑似体験

物流の重要性やダイナミズム知ってもらう狙い、今年で3回目

サッポロホールディングス(HD)と傘下の物流企業サッポログループ物流は7月25日、東京都内のサッポロHD本社で、経営の視点を持ってサッポログループの物流改革を進められる人材の育成を目指す社内大学「サッポロ ロジスティクス★人づくり大学」(ロジ大)と東京理科大学が連携し、同大の現役学生が物流実務を疑似体験する教育プログラムを開催した。

同プログラムは今年で3回目。将来の社会を担う学生たちに物流の重要性やダイナミズムを知ってもらうとともに、ロジ大のメンバーにも若い人と交流することで刺激を与えるのが狙いだ。

参加した学生らはサッポロのビール製品に関する売り上げなどのデータ・情報を調査・分析して将来を予測する専門家「アナリスト」に扮して需要予測を体験した。2023年の実際の販売や出荷のデータを踏まえ、今年の4月に販促のための特別な製品を投入した結果、通常の製品の出荷がどの程度変動したかを見積もった。その後、実際のデータといかに乖離があったかを確認した上で、その理由を推察。需要予測の難しさと醍醐味を味わっていた。

1回目は予想外の出来事で「第3のビール」製品の需給がひっ迫することが判明したのに対してどのように製品を手配するかを議論。2回目は特売のキャンセルによるサワー商品の在庫過多を回避するための方策を検討した。毎回、異なるシチュエーションに臨んでもらっている。サッポロとしては、より実際に起こり得る状況を体験してもらいたいとの思いがある。


サッポロのロジ大メンバーと東京理科大の現役学生が協力して需要予測に挑んだ

「カニバリゼーション」を考慮

この日のプログラムは、学生13人とロジ大受講生が参加。双方のメンバーが交わって6チームに分かれ、需要予測に挑んだ。

冒頭、ロジ大学長を兼務しているサッポログループ物流の田島一孝社長があいさつし、「ロジ大の受講生にとっては、学生の皆さんのアイデアや着眼点などを新たな気づき、発見につなげられることがある。一方で学生の皆さんは、実際の企業活動の中で行われている現実の業務課題に対して、日々学んでいる知識や研究成果がどこまで、どのように通用するのかというようなことを、実際に近いところで検証できるのではないかと思っている。お互いが良い刺激を受けているということが、このプログラムが好評を博していることにつながっているのではないか」と語った。


田島社長

続いて、サッポロビールのSCM部担当者が、組織体制などを説明。ビール製品の需要予測は週単位で3カ月先まで行っており、毎週見直していることや、生産計画も併せて3カ月先まで作成していることなどを紹介した。

サッポログループの酒類とグループのポッカサッポロの食品・飲料は共通の需給計画システム「SCPlannning」を活用している上、昨年5月にはAIを活用した需要予測をスタートさせ、新商品やギフトといった、同システムでは見積もることが難しい領域を担当していることを報告した。

続いて、実際の需要予測を開始。西日本エリア限定で、定番商品の「黒ラベル」に関し、西日本エリア限定で、人気漫画「進撃の巨人」のキャラクターを印刷した特別のデザイン缶を4月に発売したのに伴い、この期間中に通常の黒ラベル(350ml缶)がどの程度出荷されるかをグループごとに予測し合った。その際、各グループは同社内で似たような商品を販売することで、別の商品の販売にどの程度影響するかという「カニバリゼーション」の発生を考慮した。

最後は、各グループで実際の出荷状況と予測にどの程度差があったのかを確認した上で、なぜそのような予測をしたのかや、予実乖離の原因はどこにあるのかを分析、発表した。


各グループで熱心に議論


予測の理由などを報告

各グループからは、「進撃の巨人缶を投入したことでカニバリゼーションが発生すると想定、その後は進撃の巨人の宣伝効果が薄まり、徐々に通常缶の出荷が落ちていくと予測したものの、黒ラベルのブランドの強さがあったことなどから思ったほどは出荷が減らなかった」「ゴールデンウイークで通常のトレンドよりも出荷が増えることを加味できていなかった」など、細かな分析が聞かれ、参加していたサッポログループの従業員らからも驚きの声が上がっていた。

最後にサッポロビールのSCM担当者から、需要予測は原料の手配から仕込み、缶などの資材手配、製造、在庫、配送までサプライチェーンの起点となる重要な過程であり、類似商品の有無や発売時期、CM、小売店での特売、販促イベントなど多様な要素を考慮する必要があると説明。実際に予測を体験した学生らが真剣な表情で聞き入っていた。

最後に、東京理科大創域理工学部経営システム工学科の石垣綾教授がプログラムを振り返り、「答えのないものに答えを出していくという観点からデータを解析し、授業をしている。このような機会をいただけるのは願ってもないことで本当にうれしい。大学の中では(需要予測のような機会は)提供できないので非常に感謝している」と述べた。


石垣教授


参加者で記念撮影

(藤原秀行)

nocategoryカテゴリの最新記事