多様な業務のデジタル化に大きな可能性を指摘
月刊ロジスティクス・ビジネス(LOGI-BIZ)編集部は6月27日、東京都内で初の読者交流イベント「LOGI-TECHサミット2019」を開催した。
出席したスタートアップ企業の関係者らは、人手不足などの課題が山積している物流業界の苦境を逆にチャンスと捉え、変革への熱意と独自性を武器にして社会貢献を果たしたいとの決意を口々に語った。
ロジビズ・オンラインでは2回にわたり、イベントの模様を報告しており、今回は後編を掲載する。なお、各登壇者の発言詳細はLOGI-BIZ8月号(8月1日発行)で紹介する。そちらもぜひご一読いただきたい。
※この場を借りまして、サミットに登場いただいた各位とご来場いただいた皆さま方、サミット開催にご協力いただきました皆さま方にあらためまして厚く御礼申し上げます。
熱気に包まれたサミット会場「CROSS DOCK HARUMI」(東京・晴海)
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既存フォワーダーがスタートアップと連携
サミットには、日本郵船でテクノロジー担当責任者を務める鈴木英樹経営委員技術本部デジタライゼーショングループ長が登場。「シリコンバレーが描く輸送の未来」について知見を紹介した。
鈴木氏は、米国では最近、物流を変革する「フレイトテック(Freight Tech)」への投資が隆盛を極めていると指摘。「(物の流れが)見えない」「非効率」「ブラックボックス」という3つのワードがスタートアップ企業やベンチャーキャピタルの間で盛んに話されていることに触れ、「そこに目を付けた新たなプレーヤーたちが続々とフレイトテックの世界に参入してきている」と語った。
現在はフレックスポートといったフォワーディング業務のデジタル化を推し進めているスタートアップ企業が登場しており、パナルピナやDHLなど大手も自前で手掛ける部分に加え、革新技術を手にしているスタートアップ企業と組んでいる姿を明らかにした。「既存のやり方でビジネスを構築しようとはしない、新しい世代の台頭によって物流の世界が大きく変わり始めている」と期待を寄せた。
フォワーディングの世界のデジタル化について語る鈴木氏
倉庫マッチングはグローバル規模で注目集める
続いて、倉庫の空きスペースと保管を希望する荷物のマッチングをインターネットで行っているsoucoの中原久根人代表取締役が「オンデマンド倉庫はどこまで来たか」とのテーマを掲げて登壇。
同社も手掛けている倉庫のマッチングサービス「オンデマンドウエアハウジング」は既にグローバル規模で非常に注目され、投資額も急増しているとの見方を示した。具体的なケースとして、米FLEXEや英Stowgaがニーズを獲得して成長している姿を明らかにした。
日本を見ても、四季が明確に存在し、商品需要の変動が大きいことなどから、柔軟に倉庫面積を変えられるマッチングサービスを展開することで物流不動産の利用効率化を後押ししていけるとの見解を示し、同サービスの存在意義を強調。「オンデマンドウエアハウジングはこれまでよりもずっと柔軟なロジスティクス戦略を可能にする」と意気込みを見せた。
マッチングサービスの利点をPRする中原氏
ブロックチェーンで情報を連結
その後は、日本パレットレンタル(JPR)傘下で伝票電子化を担うTSUNAGUTE(ツナグテ)の春木屋悠人代表取締役が「ブロックチェーンのインパクト」について語った。
春木屋氏は、多くのPC間で情報を迅速に共有できるブロックチェーン(BC)技術を取り上げ、「期間短縮」「コスト削減」「リスク削減」「信用向上」というBCの特性を発揮することで物流にとどまらず、金融や教育、人事といった多様な領域で業務負荷軽減などの成果を挙げることができると力説した。
昨今の物流業界に押し寄せる労働力不足などの荒波に立ち向かっていくためのアプローチとして、さまざまなプレーヤーが運ぶ荷物などに関する膨大な情報を、サプライチェーンをまたいで共有できる基盤の構築を明示。そうした壮大な目標達成を目指す上でBCはうってつけの技術と指摘した。ツナグテとしても情報基盤とさまざまな物流事業者らが展開する共同輸送などのプラットフォームが連結するよう後押ししていくことを明言し、「日本の物流をより『働きたい』と思える環境にしたい」とプレゼンテーションを締めくくった。
ブロックチェーン活用の可能性を示す春木屋氏
“オールドエコノミー”はサービスに磨きを掛けて生き残る
講演の最後は、“タクシー王子”とも呼ばれるクシー最大手、日本交通の川鍋一朗会長が登場し、「オールドエコノミーの生き残り戦略」を紹介した。
川鍋氏は、創業家3代目社長として古参従業員らの反発に遭いながらも資産売却や人員削減などの変革を進め、黒字体質への転換を果たした経緯を紹介。その後、タクシー配車アプリをリリースして多くのユーザーを獲得するなど、DX(デジタル・トランスフォーメーション)も積極的に進めてきたことをアピールした。
ウーバーやライドシェアの普及を待望する声も多い中、「プロがプロの機材を積んだ車を走らせることの良さをこれから分かっていただけるはず」と述べ、サービスに磨きを掛ければ生き残ることは可能との見解を示した。
「最終的にはタクシーがラストワンマイルを支えることになると考えている」との持論を披露。少子高齢化が今後も進むことが確実な中、人や物の移動を支え続けていくことに強い意気込みをのぞかせた。
プロドライバーたちの矜持を示す川鍋氏
デジタルトランスフォーメーションは形から入るべし
最後に、共同物流などを積極的に推進する大塚倉庫の大塚太郎会長、トラックと荷物のマッチングサービスを拡大するラクスルの松本恭攝社長CEO(最高経営責任者)と日本交通・川鍋氏の3氏が参加して「デジタルイノベーションのロードマップ」に関するパネルセッションを行った。進行役はLOGI-BIZ編集発行人の大矢昌浩が務めた。
大塚氏は、自社を含めて物流子会社という存在はいずれ世の中からなくなってしまうとの強い危機感を覚え、外販拡大などの改革を積極的に推進してきたことを説明。「一つのことで全てを変えられるわけではないので、社内で『ジャブの連打』と言っている通り、本当に細かいことの積み重ねで新しい文化をつくってきた」と強調した。
物流業界の現状に対しては「実運送や庫内作業を効率化するだけではなくて、そこで使われている紙伝票や電話、ファクスなどの情報をデジタル化する必要がある。そのために大塚倉庫はデジタル連携に会社を捧げている」との思いを吐露した。
松本氏は、主なカバー範囲の運送分野のデジタル化について「徐々にデジタルに慣れてもらう。まずは通常の運行管理のところでデジタルを使い業務を効率的する。それによってその先にある配車のデジタル化やマッチングに踏み出せるようになる」と指摘。情報をデジタル化するという大塚氏の意見に賛同した。
新たなサービスを展開していく上でのポイントとして「あまり将来をバラ色には考えず小さなテストを重ね、ブレークイーブンまでにどれだけの運転資金が必要なのか全て計算し、将来から逆算して経営していくことが大事」と語った。
川鍋氏は、DXを円滑に進めていくポイントとして、自身の経験から「案外、形から入るのがいいんじゃないか。役員たちを私服にしてiPhoneを持たせ、名刺のデザインも変えて少しでもデジタルの空気を吸わせるのが近道ではないか」と分析した。
パネルセッションに登場した(左から)大塚、松本、川鍋の各氏
(藤原秀行)