第34回:2026年も米中貿易戦争の緊張が続くと予想する
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ビニシウス氏(ペンネーム):
世界経済や金融などを専門とするジャーナリスト。最近は、経済安全保障について研究している。
根深い構造的対立は残る
今年10月末、韓国で実現したトランプ大統領と中国の習近平国家主席による米中首脳会談は、世界経済を揺るがしている貿易戦争において、「一時休戦」の道筋を示す重要な節目として世界中の注目を集めた。約1時間40分にわたる会談の結果、両国は一定の相互譲歩で合意に至ったが、その深層には両国の根深い構造的対立が色濃く残されており、火種は消えておらず、日本をはじめ他国は決して楽観視できない結果に終わった。
今回の首脳会談における合意内容は、世界市場に一時的な安堵をもたらしたが、本質的な問題解決には至っていない。両国が取り交わした具体的な譲歩は以下の通りだ。まず米国側は、中国からの輸入品に対する追加関税の一部を引き下げた。これは、トランプ政権が合成麻薬フェンタニルの流入阻止を理由に課していた20%の関税のうち、10%分を撤廃するという実質的な譲歩だった。トランプ大統領は、中国が違法薬物のフェンタニル対策で協力するとの見通しを示し、関税引き下げの理由に挙げている。
一方、中国側は戦略物資のレアアース(希土類)鉱物および磁石の輸出規制導入を1年間暫定的に停止するという譲歩を見せた。レアアースはハイテク産業に不可欠な素材であり、世界の供給の大部分を中国が独占しているため、この輸出規制は米国への強力な切り札となってきた。さらに、中国は米国産大豆などの農産物の購入を再開・拡大することでも合意した。この「関税引き下げ」と「戦略物資の輸出規制延期」を交換したディールの裏側には、両国の戦略的な思惑と制約が垣間見える。
トランプ大統領は、中国が打ち出したレアアース輸出規制の完全撤回を強く望んでいたとみられる。これは、米国のハイテク産業と軍事産業にとって、レアアースの安定供給が死活問題となっているためだ。しかし、実際に引き出せた譲歩は「1年間延期」という限定的なものにとどまった。これは、中国がレアアースという強力な外交上の「切り札」の温存に成功したことを意味する。
米国側は厳しい状況に追い込まれる中、課税済みの関税の一部引き下げという実質的な譲歩を強いられたことになる。これは、中国が米国からの要求(レアアース輸出規制の完全撤回)を限定的なものに抑え込み、逆に米国から譲歩、すなわち関税の引き下げを引き出すことに成功した。つまり、今回の会談は中国の実質的な勝利と評価できる。トランプ政権は強気の交渉戦術を用いながらも、結果的には中国に譲歩を強いられる形となり、トランプ大統領の代名詞とも言える関税政策の行き詰まりを露呈することになった。
そして、今回の会談で最も重要な点は、中国のレアアース規制の猶予期間がわずか1年間しかないという事実だ。これは、1年後には再び規制が導入される可能性が残され、今回の会談が問題の根本解決ではなく、単なる時間稼ぎに過ぎないことを意味する。中国は、この1年間の猶予期間を利用し、経済のさらなる内需シフトや、他国との外交関係強化を進める可能性が高い。一方の米国も、この期間を利用してレアアースの供給網の多様化を加速させることを求められるだろう。
従って、今回の会談で貿易戦争は、表面上は一時休戦という形で終わったが、両国の構造的な対立が解消されない限り、冒頭にも述べた通り、収束は到底望めず、今後も継続していく公算が大きい。来年、レアアース規制の猶予期限が迫るころには、再び両国間の緊張が高まる可能性も否定できない。世界は2026年も引き続き、米中の攻防を意識せざるを得ないようだ。
(了)



