日本大・鈴木教授らが学問体系確立目指す、活動第1弾で懸賞論文募集へ
賃貸物流施設市場の現状を学術的な立場から分析し、より社会に貢献できる施設の在り方を考察・検証する研究機関「日本物流不動産学研究所」(NBF)が今年9月に発足した。時間を掛けて“物流不動産学”と呼べる学問体系を日本できちんと確立し、市場の健全な発展に貢献していくことが究極の目標だ。
NBF代表(アカデミックチェア)に就任した鈴木邦成日本大教授は「アカデミックな視点から物流不動産を見ることによって、逆に新たなビジネスの可能性が出てくるのではないか。いずれは大学に『物流不動産学部』が設立されるくらいに認知度を高めていきたい」と意気込みを語っている。
第1弾となる本格的活動として、今秋をめどに物流不動産に関する懸賞論文の募集を開始し、優秀なアイデアを表彰する方向で準備している。「物流不動産学」の確立に向けた一歩にしたい考えだ。
関係者の自由な議論に期待
NBFはイーソーコが立ち上げをサポート。現在は本社機能も同社内に置かれている。より機動的に活動の輪を広げられるようにしたいとの鈴木氏らの思いから、組織の形態は一般社団法人などではなく、株式会社としている。
鈴木氏は日本SCM協会の専務理事などを歴任。ロジスティクスに関する著作は多数に上り、物流業界の地位向上とサプライチェーンの最適化実現のための発言も積極的に行っていることで知られる。
2016年にはイーソーコの大谷巌一会長と共著で、物流不動産に関する解説本『すぐわかる物流不動産~倉庫から物流センターへと進化したサプライチェーンの司令塔~』(白桃書房)を出版。物流不動産の実務を詳しく紹介した点などが評価され、17年度の日本不動産学会賞を受賞した。かねて物流不動産の動向に強い関心を抱き続けている。
鈴木氏によれば、研究所の設立自体は数年前から構想を温めていたという。先進的物流施設が首都圏を中心に続々と供給され、eコマースなどの事業者が積極的に活用している現状を踏まえ、このタイミングでの研究所立ち上げとなった。鈴木氏自身は物流施設市場に関し、インターネット通販の成長などを受け、2025年までは新規供給が現状から横ばい程度で続くとみており、研究所が果たせる役割は小さくないとみている。
現状では研究所を創設して間もないこともあり、物流不動産学として取り扱うテーマなどはまだ明確に絞り込んでいない。鈴木氏は「私が何か強くこわだりを持って進めていくというよりも、いろんな方々が活発に、自由に議論する中で体系ができあがっていくのが理想」との考え方を示している。物流施設開発を進める上で課題となっているポイントなどを十分見極めた上で、物流不動産学として何を明確に示していくかを固める方向だ。
景観の定義などテーマは自由に
鈴木氏は今後研究のテーマとなり得る具体的な事例の一つとして、物流施設の景観を挙げる。同氏は「例えば夜間の景観に配慮していくことは形によってはセキュリティー確保のためにも必要だと思う」と指摘。最適な都市整備を図るとの視点から物流施設の最適な景観の定義や確保のための手法といった点を議論していくことに意欲を見せた。
他にも理想的な物流施設のスペック、建築デザインの在り方、老朽化施設の建て替え・リニューアル促進、人材育成などがテーマになるとみられる。不動産としての側面と、物流機能から見た側面の両方から多様な事柄を自由に取り扱っていく見通しだ。
論文は現状で今年11月から来年2月の間募集することを想定しており、関係者に応募を呼び掛けていく。NBFは「物流不動産の知識と実務の普及と浸透を図り当該領域の高度化を促進」「物流不動産業界の研究の成果を業界活動に反映」の2点を目標に掲げており、物流施設の高度化などに関して独創的なアイデアがあれば積極的に公開していきたい考えだ。
(藤原秀行)