大和ハウスがオンラインセミナー、早急な省力化・省人化加速の必要性指摘
大和ハウス工業は6月18日、「withコロナにおける物流サプライチェーンの今後を考える」と題したオンラインセミナーを開催した。
同社で物流施設開発の陣頭指揮を執る浦川達哉取締役常務執行役員と、同社グループのフレームワークス・秋葉淳一社長CEO(最高経営責任者)、アッカ・インターナショナルの加藤大和社長、資本提携しているHacobuの佐々木太郎社長CEOとGROUNDの宮田啓友社長がスピーカーとして参加した。
セミナーでは参加者が新型コロナウイルスの感染拡大を受け、物流施設でスタッフが業務中に「3密」となるのを回避しソーシャルディスタンスを維持するためにも物流ロボットなどの先進技術活用が強く求められていると指摘。外出自粛に伴うeコマース利用急増にもAGV(無人搬送機)をフル回転させ、人力では処理しきれないほどの量もこなせたと成果を示し、物流現場の省力化・省人化を加速させていく重要性を訴えた。
「非接触化」「非属人化」「非ブラックボックス化」がキーワード
宮田社長は「以前は物流ロボット導入を検討する企業の大半が生産性の改善、すなわちどれだけ少ない人数で作業を行えるかという観点で考えられていた。この2カ月、特に緊急事態宣言が発令されたのち、問い合わせや相談はBCP(事業継続計画)の観点からいかに『3密』の環境を回避していくかということに重心が移ってきている。企業は環境改善を積極的に行っていかないと、安全配慮義務違反になる可能性がある」と解説。
その上で、物流施設の環境が大きく変わってきていると説明し、「新しいテクノロジーを使って(物流施設内の)ソーシャルディスタンスを実現し、『3密』を避けるような環境づくりを早急に提案、実現していきたい」と力説した。
佐々木社長は「感染への恐怖が社会的なトラウマとなっており、恐らくワクチンが開発され、集団免疫を獲得したと言われ出しても、なかなか(恐怖は)取り除かれないのではないか。これまでのやり方に疑問を持ち、変えていくという動きが強くなっていくのではないか」と予想。
今後はコロナの危険を避けるため、ロジスティクスでは従業員同士が密接に交わらない「非接触化」、特定の人がいないと業務が遂行できない状態から誰でもこなせるよう変革する「非属人化」、荷物の動きなどを見える化する「非ブラックボックス化」がキーワードになると持論を展開。「サプライチェーンの構造を変える時、実際にどこで何が動いているかをデータで把握できないと、柔軟に生産の場所を変えていくのは難しくなる。データを取得するためにも非ブラックボックス化が重要」と分析、デジタル化の推進をアピールした。
加藤社長は「海外でもフルフィルメントセンターで危険な状況にあるとかなり情報が広まっていて、人が集まりにくくなってしまっている。時短勤務やオペレーションの組み替えなどいろんな工夫をして現場を回していかないといけない状況が続いている」と解説。物流の需要面でもネット通販の利用が爆発的に増え、コロナ感染拡大前の3~4倍まで入出荷や在庫の量が膨らんでいることから、AGVやマテハン設備を組み合わせて、この1~2カ月は何とかしのいでいると明かした。
秋葉社長は「感染症に対する警戒意識がものすごく高まることで、オフィスやショップで過ごす時間が減っていく。その結果、オムニチャネル化がさらに進んでいくだろう」と予想。併せて、「接触機会をどうやって減らすかがポイント。われわれはロボティクスを使う側の人たちが設備導入をどれだけ短い時間でできるかをソフトウエアの部分でどうお手伝いしていくかが重要になる。AI(人工知能)や言語処理などをどのように活用して業務を非接触でできるようにするか進化させないといけない」との問題意識を明らかにした。
浦川取締役は「一番大きかった問題がやはりサプライチェーンの見直しだ。スーパーや生協の需要が急激に増え、特に冷凍・冷蔵関係の商品が非常に増加している。BTS型ではなく冷凍・冷蔵のマルチテナント型を先行して建設することに要望が出てきている」と紹介。得意の物流施設開発に冷凍・冷蔵需要の拡大を反映させることに強い意欲をのぞかせた。
「2000人に相当する力をAGVで出せた」
加藤社長は千葉県市川市で運営に携わっている米スポーツ用品大手ナイキの基幹物流センター「The DUNK(ザ・ダンク)」の現況に言及。入出荷を担当するAGVを500台以上導入しており、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う需要急増にも何とか対応することができたと解説。「想定しているキャパシティーの何倍もオーダーが来て、人手であればこなせないくらいのボリュームを取り扱うことができた。2000人くらいのマンパワーに相当する力を出せた」と成果をアピールした。
宮田社長は「これからの物流施設に求められる要素は、変化に対していかに柔軟に対応できるか、適応力だと思う」と持論を展開。「特にEC中心としたビジネスでは想像も付かないオーダーがなだれ込んでいる。『3密』を避ける環境を整えないと企業の姿勢が問われる。固定的な設備ではできることが限られるだけに、 突発的な物量に対応できる策を施すことがとても重要になっていくだろう」と展望した。
浦川取締役は、冷凍・冷蔵倉庫内では常温倉庫と異なり、低温下で作動する自動フォークリフトなどの設備がまだ整っていないと懸念を示しつつ、「常温のマルチテナント型物流施設でも、まだまだAGV稼働に適した作り方ができていない。ウィズコロナ、アフターコロナの姿も意識して、お客さまと物流施設を作り込んでいきたい」と述べ、自動化・省人化に配慮した物流施設のモデル創設に強い意欲を見せた。
佐々木社長は「コロナ感染拡大前は、DX(デジタル・トランスフォーメーション)の導入が必要だと理解はしているが投資対効果をどう計算しようか、というところで止まっている企業が、コロナでもうそんなことは言っていられない、実行段階に移さないといけないようになったというのが世の中の共通認識になってきた。それには小さな成功体験が重要。リモートワークもコロナでなかば強制的にやったらできるようになった。以前はできないと思っていたこともテクノロジーを使えば可能になるということをこの数カ月で多くの方が体験した」と指摘。デジタル化に対する意識も変化しており、推進は現実的になってきているとの見方を明かした。
「コロナ禍で物流データの価値と必要性がますます高まった」
最後に顧客へのメッセージとして、佐々木社長は「ロジスティクスの最適化は物流と商流をつなげていかなければならない。商流と物流の情報をひも付ける環境が必要であり、そうなれば全社でサプライチェーンがデジタル化していく。一緒に仕掛けたいという方がいらっしゃったらぜひお声掛けいただきたい」と表明。
加藤社長は「コロナが起きたことで物流の省人化、オペレーションの組み方、AGV使い方を考えざるを得なくなり、ここ2~3カ月は新しい使い方を必死に考えた。ある程度新しい使い方を構築し終わり、今後さらにどう伸ばしていくかというフェーズに来ている。コロナ前には想像できなかったくらいの生産性を達成できた。3PL事業者やマテハンメーカーなどとノウハウを共有し、もっとレベルアップした物流改革ができればいいなと思っている」と述べ、ロボットなどを活用した生産性向上をさらに推し進めていく姿勢を鮮明にした。
宮田社長は「今回のコロナ禍で物流データの価値と必要性がますます高まったと思う。将来を考えた時、会社の垣根を越えてどう進めていくかが求められている。個社でデータを使って最適化しても効果は限定的。官民合わせてデータ活用を早急に進めないと個別最適の域を超えない。もはや人の奪い合いをしている状況ではなく、1つの施設の中でロボットや働き手をシェアリングするプラットフォームが必要になってくる」とPR。ロボットや輸配送などを必要な時に必要なだけ利用できるサービス形態「Logistics as a Service(LaaS)」が有効との考えをにじませた。
秋葉社長は「最終的にはどうやって消費者のニーズに応えていくかが重要なこと。業界や企業の垣根を超え、協力できることは協力してやりましょうということが明らかになった」と参加者の発言内容を踏まえて総括した。
最後に浦川取締役は「恐ろしく変わっていくのがオフィスの働き方だろう。既に郊外へのオフィス移転や面積縮小の動きが起きている。物流センターの中にオフィスを置いたり、本社機能を移したりすることはできる。シェアリングやゾーニングが物流施設でも求められる」と解説。参加者の意見を反映させた新たな物流施設を生み出していきたいとの決意を示した。
(藤原秀行)