ドライアイスを代替する冷凍保冷剤を開発
総コストを10分の1に抑制してCO2も削減
物流資材メーカーのワコンが、ドライアイスを代替する冷凍用保冷剤を発売した。一般的な冷凍室で凍結するため専用設備は不要、すぐに運用を開始できる。トータルコストをドライアイスと比べて約10分の1、従来の冷凍用保冷剤の約3分の1に抑制する。外食チェーンやスーパー、食品卸などが相次いで導入に動いている。 (本誌編集部)
新技術で凍りやすさを追求
ドライアイスの品不足と価格高騰が続いている。ドライアイスは石油の精製過程で発生する炭酸ガスを原料にしている。しかし、国内の製油所はガソリン消費量の減少を受け、操業停止が相次いでいる。メーカーは毎年のように値上げを繰り返し、夏の繁忙期には大口ユーザーに出荷制限をかける状況にある。
低温物流とりわけマイナス10℃以下の冷凍輸送に与える影響は深刻だ。最近では店舗の営業時間が短縮し、閉店後の無人の店舗に「置き納品」することが増えて、冷凍車での納品にもドライアイスを使うようになっている。ドライアイスの代わりにマイナス25℃の冷凍用保冷剤を使うこともできるが、相応のイニシャルコストを覚悟しなければならない。何より、保冷剤の管理で作業負荷が増えてしまう。
冷凍用保冷剤を凍らせるにはマイナス20℃程度の一般的な冷凍庫ではなく、マイナス35℃以下の冷凍庫が必要だ。過冷却と呼ばれる現象が起こるため、凝固点より十分に低い温度でないと凍らないからだ。拠点内に場所を確保して200Vの電源工事を施した上で、専用の冷凍庫を導入することになる。
その設備投資費用、スペースコスト、電気代に加え、従来の保冷剤は凍結に2日近くかかるため、実際の使用量の2倍の保冷剤を用意しなければならない。超低温設備は排熱も強烈で、夏場の作業環境を著しく悪化させる。そのため冷凍用保冷剤の使用は諦めて、ドライアイスを使い続けている現場が多い。
しかし、ドライアイスの品不足は慢性化する可能性が高い。足元でも新型コロナワクチンの輸送に大量のドライアイスが使用されており、品薄に拍車がかかるのは必至だ。ドライアイスの消費量はそのままCO2排出量としてカウントされる。環境対策の観点からも新たな保冷手段の登場が待たれていた。
今年7月、物流資材メーカーのワコンはドライアイスに代わる冷凍用保冷剤「キプクル(KIPUCUL)」を発売した。元は家電製品の分野で液晶技術を応用して開発された蓄冷材を、冷凍用保冷剤として商品化した。過冷却現象が起きないため、通常の冷凍庫に荷物と一緒に保管しておけば凍結する。
キプクル特設サイトはこちらワコンの西田耕平社長は「特別な設備を必要としないので昨日までドライアイスを使っていた現場でも今日からキプクルに切り替えられる。マイナス35℃の冷凍庫を使えば凍結は8〜13時間で完了する。同じ保冷剤を毎日使える。保冷剤の在庫を従来の半分に削減できる」という。
同社の試算によると現在、1日当たり350㎏のドライアイスを使用している現場では年間約1050万円をドライアイス代に投じている(100円/㎏として計算)。キプクルを導入すればその費用が不要になり、キプクルの購入費と作業費等を含めてトータルコストを年間約110万円に抑制できる。従来の冷凍用保冷剤を使用した場合の年間386万円と比べても約3分の1で済む。
既に複数の外食チェーンがトライアルを済ませて採用を決めた。大手食品卸や物流会社からも注文が入っている。各地のネットスーパー、食品ECからの引き合いも相次いでいるという。
近畿2府3県の7つの生協で構成するコープきんき事業連合は昨年、「ドライアイス削減研究会」を組織した。ワコンもメンバーとして加わってキプクルの運用実験を重ねてきた。近くその検証結果をまとめる予定だ。
低温物流を早く安く清潔に
ワコンの創業は1951年。段ボール箱の製造から出発し、創業家出身の西田社長が経営を引き継いだのを機に物流ソリューションに事業領域を拡大した。2008年には関西国際空港に拠点を置いて輸出梱包事業を開始、さらに現在は保冷コンテナの開発をはじめとする温度帯管理にドメインを広げている。
昨年9月に折り畳みコンテナ型の保冷ボックス「クールワン」を発売した。壁面に高性能の発泡ウレタンを充填、ボックス内の気密性を保つ構造上の工夫によって、高い保冷性能を実現した。組み立て・折り畳みに要する作業時間はわずか9秒。工程の自動化も可能で、常温の折りコンと一緒にハンドリングできる。
クールワンはオリジナルの保冷製品を併用することで一つのBOX内を3温度帯にすることが可能
発泡スチロール製ボックスにドライアイスや保冷剤を入れる従来の方法は、保冷性能が低く、ボックス内の温度が不安定だ。アルミ生地を使ったソフトタイプの保冷ボックスも繰り返し使用すると断熱材が摩耗して性能が落ちる。水洗いができないという問題もある。クールワンは使用を重ねても性能の劣化がなく、洗浄もできるので衛生面でも優れている。
ハンバーガーチェーンなどを展開する外食大手は昨年、セントラルキッチンでカットした玉ねぎの鮮度と食感を維持したまま店舗に届けるために、玉ねぎの納品用ボックスをすべてクールワンに切り替えた。その効果を確認して今年はキャベツ用にも導入を決めた。また、ネットスーパー大手の物流センターでもクールワンは正式採用された。箱の内部に間仕切りを設けることで、3つの異なる温度帯の商品を一つの箱で配達している。
西田社長は「クールワンは保冷ボックスの進化系。新たなスタンダードに育てたい。さらにクールワンとキプクルを組み合わせて、早く、安く、清潔な低温物流を実現することでお客様のビジネスを支援する。箱を売るのではなく、温度を売る。それがわれわれのビジネスだ」と意欲を見せる。
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