みずほ銀行産業調査部が中期的な国内需要縮小予測受け提言
みずほ銀行産業調査部はこのほど、「日本産業の中期見通し―向こう5年(2019―2023年)の需給動向と求められる事業戦略」と題するリポートをまとめた。
この中で物流業界について、国内の需要は人口減少などの影響で中期的に縮小していくことが見込まれる中、「日系物流企業が海外需要の取り込みにより成長を実現していく戦略の方向性は不変」と予測。
グローバル企業や海外の現地企業から確実に受注していくため、優良企業のM&Aなどを駆使することが必要との見方をあらためて示した。その実現に向けては、グローバル全体でITシステムを活用し、業務の標準化を進めるよう訴えた。
併せて、国内事業はトラックドライバー不足の深刻化などを考慮し、生産性向上が不可欠と強調。同業との物流共同化や先進技術活用へ積極的に取り組むことへの期待を示した。
内需のトラック輸送は年率1・1%減を見込む
リポートは、国内外の需給動向を予想。この中で内需はトラック輸送量が18~23年度の年平均成長率が消費関連は0・5%、生産関連は0・9%、建設関連は1・8%のいずれもマイナスを見込んでいる。人口減少や製造拠点の海外シフト進行、民間住宅投資の縮小が重しになるとみており、23年度の総輸送量は年率1・1%減の41億4000万トンになるとの予想をはじき出している。
宅配便はeコマースの市場拡大が追い風となり、同時期に年率2・7%で増えると予想しているが、BtoBについては総じて厳しいとの認識が示された格好だ。
国内トラック輸送量の推移(トン数、みずほ銀行産業調査部作成)※クリックで拡大
半面、グローバル需要の海運を見ると、海上コンテナの貨物荷動き量が欧州航路の西航(アジア→欧州)は18~23年度で年平均2・1%、東航(欧州→アジア)が1・5%、北米航路の東航(アジア→北米)が2・4%、西航(北米→アジア)が0・3%のいずれもプラスと推計。米国の対中制裁関税が貿易に影を落とすとみられるものの、全体としてはプラス基調を堅持すると見込んでいる。
一方、成長が続くアジア域内の航路は4・3%で、17年実績や18年見込みと同水準の成長が持続するとのシナリオを想定している。中国との結び付きが強まることもプラスに働くもようだ。
グローバル需要の内訳(海上コンテナ貨物荷動き量、みずほ銀行産業調査部作成)※クリックで拡大
陸送分野については、米国内のトラック輸送量が18~23年の年平均増加率が1・6%とみており、底堅い景気で安定的な国内需要が引き続き見込まれると指摘。欧州は英国のEU(欧州連合)離脱といった懸念材料はあるものの、緩やかな経済成長を背景として、中東欧諸国が伸びをリードするほか、アジアからの輸入増加なども手伝い、1・2%増の伸びを見込んでいる。
中国は生産年齢人口の減少などが経済成長に影を落とすため、伸び率は4・7%で、17年実績(10・3%)からは減速するものの、諸外国と比べれば引き続き高い水準にあると見込んでいる。
グローバル需要の内訳(海外トラック輸送量、みずほ銀行産業調査部作成)※クリックで拡大
新興国では地場企業と連携し物流高度化を提唱
中期的な予測からは、日本国内の需要の伸びが海外より低いことが見込まれている。こうした状況を踏まえ、リポートは主に日系のフォワーダー、3PL事業者が進むべき方向性を提案している。
成長が際立つ海外の物流企業は、大規模なM&Aと買収後の統合作業(PMI)徹底を代表的な成長手法にしていると分析。日系物流企業は収益性が海外勢力から劣後しているとして「プレゼンスを向上させていくためには、増加が期待される海外需要の取り込みを行うとともに、収益性の改善を着実に図っていくことが必要」と指摘している。
貨物量の確保には日系だけでなく海外の日系企業獲得が鍵になるため、「日系物流企業がグローバルトップを目指すのであれば、大規模なM&Aも選択肢として考慮に入れるべき」と強調。先進国ではこうした手法が有効と提唱した。
一方、アジアなどの新興国は高品質な物流へのニーズが今後増えると予想されるため、「日系物流企業は複数の地場物流企業をパートナーとして組織化し、効率的な輸送ネットワークを構築するなど、既存の物流ノウハウを活用して現地の物流高度化を行う余地が大きい」との見方を示した。
同時に、アジア発やアジア域内の物流需要を勝ち取るには、大手海外物流企業と手を組むことも有効と解説。海外事業強化を進めるに際しては、全体としてITシステムを通じたグローバルベースでの業務標準化が奏功すると予想している。
国内事業は、昨今広がっている物流の共同化を受け「物流効率化のみならず、相互補完によるサービスの総合化を通じて荷主のサプライチェーン全体の捕捉に役立ち、アウトソースニーズの着実な取り込みにもつながる」との考えを示した。AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)などの先進技術活用についても、他社と連携しつつ継続的に対応していくことを呼び掛けた。
(藤原秀行)