【独自】公取委・優越的地位濫用未然防止対策調査室 山本室長単独インタビュー

【独自】公取委・優越的地位濫用未然防止対策調査室 山本室長単独インタビュー

「Gメン」で荷主の問題行為を未然防止する

公正取引委員会は今年5月、独占禁止法で禁じている「優越的地位の濫用」を未然に防止するため、関係事業者への立ち入り調査などを担う「優越Gメン」制度を発足させた。政府は民間事業者が取引の中で労務費や原材料費、エネルギーコストの上昇分を適切に商品価格やサービス料金へ転嫁できる環境を整備し、賃上げにつなげていくことを目指しており、同制度もその一環だ。

優越Gメンの重点調査対象の中には「荷主と物流事業者との取引」も含めており、物流サービスの適正な取引徹底へ目を光らせていく構えだ。公取委は併せて、5月に「荷主と物流事業者との取引に関する調査結果」を公表。この中で荷主641社に法律抵触が疑われる行為があると注意喚起文書を送付、19社には立ち入り調査に踏み切ったと発表した。

優越Gメンが所属する公取委事務総局の「優越的地位濫用未然防止対策調査室」の山本慎室長がこのほど、単独インタビューに応じ、優越Gメンの活動などを通じ、物流サービスの取引適正化促進へ引き続き荷主企業の対応に注目していく姿勢を強調した。主なやり取りを紹介する。


インタビューに応じる山本室長

「関税の立て替え払い、常識で考えてもおかしな話」

――公正取引委員会で「優越Gメン」の体制が創設されました。その狙いを教えてください。
「昨年12月27日に内閣官房の『新しい資本主義実現本部』事務局と関係省庁が、労務費、原材料費、エネルギーコストの上昇分を適切に商品価格やサービス料金へ転嫁できるよう後押しするために取りまとめた『転嫁円滑化施策パッケージ』に基づき、今年2月に公正取引委員会に優越的地位濫用未然防止対策調査室が新設されました。その執行を強化する狙いから5月に『優越Gメン』を発足させました。室長の私を除いた調査室のメンバー全員(取材当時16人)が優越Gメンということになります。関係事業者への立ち入り調査や書面調査を担当します」

――「未然防止対策」ということは、違反の摘発ではなく防止が主な役割なのでしょうか。
「われわれ調査室の役割は文字通り『未然防止』です。実際に起きてしまったことは審査局が担当します。その2つを両輪として、法律に抵触する恐れのある行為に対して事前に注意を促し、実際にアウトの場合には判定を下すところまでできるのが公取委の強みだと考えています」

――物流業は重点調査対象に入っていますね。
「独禁法の『物流特殊指定』が2004年に告示されてから既に長い時間が過ぎていますが、依然として問題が残っている。取引が厳しいという情報が様々なチャネルから入ってきています。われわれとしても、まだまだウォッチしていかなければいけない分野だと考えています」

――5月発表の「荷主と物流事業者との取引に関する調査結果」では、荷主641社に注意喚起文書を送付し、19社に立ち入り調査を行ったことが公表されました。
「これまでも物流の取引については毎年のように調査してきましたが、今回初めて例年の書面調査にプラスして立ち入り調査を実施しました。調査によって判明した具体的な問題事例も公表しました」

――公表事例の1つとして、通関手続きで発生する関税・消費税を物流事業者に立て替え払いさせているというケースも挙がっていました。
「これまで関税の建て替え払いは物流業界内では以前から問題視されていたそうですが、われわれはあまり認識していませんでした。今回、情報に接したので、こういうことは問題になる恐れがあるということをきちんと言った方がいいだろうと判断し、公表事例の中に入れさせていただきました。本来は納税義務のある人が自分で納めるべき税金を他人に払わせているということですから、常識で考えてもおかしな話です」

――事業者がサービスとして進んでやっている面もありそうです。
「そうした事業者もいるとは聞きますが、本当に事業者が望んでやっているかどうかは分かりません。立て替え払いをすることで手数料を受け取ったり利息を付けたりするなり、事業者側が直接的な利益を得て、双方が納得しているのであれば分かりますが、実際の事例に接した限り、そうしたことはなさそうでした。スーパーの従業員派遣と似たような話に感じました」
(編集部注・公取委の「大規模小売業告示」では、大規模小売業者が納入業者に従業員を派遣させたり、小売業者側が雇用する従業員の人件費を納入業者に負担させたりすることを禁止行為に挙げている)

――今回の調査で他にも発見はありましたか。
「40~50年前に契約した運賃をそのまま現在まで据え置いているという事例も衝撃を受けました。まさに高度経済成長期の水準を維持していたわけですから、さすがにこれはやり過ぎだろうと感じました」


5月発表の「荷主と物流事業者との取引に関する調査結果」(公取委発表資料より引用)

物流事業者からの期待に応えていきたい

――具体的な事例公表まで踏み込んだのは、公取委の決意を感じます。
「先ほどお話した転嫁円滑化施策パッケージなどに基づき、取り組みをよりきちっとやっていくという、公取委の組織としての意思決定といいますか、積極的に説明していこうということですね」

――しかし、どこからが運賃の買い叩きに当たるのか、はっきりしません。
「確かにカルテルのような横並びの不正と違って、買い叩きは『縦』の関係ですから明確な線引きが難しい。そのため、われわれとしては事例を挙げたり、Q&Aで示したりしています。今年2月には『労務費、原材料費、エネルギーコストの上昇に関する独占禁止法Q&A』を発表しました」

――個別の支払い運賃が買い叩きに該当するかどうかはどうやって判定されるのですか。
「対価について両者の間で十分な協議は行われているのか、他の取引と比べて差別的ではないか、原価を下回っていないかなど、総合的に判断されることになりますが、明らかにコストが上昇しているのに一切交渉に応じないとか、運送事業者が値上げを要請しているのに何も回答することなく料金を据え置いたままでいるといった行為は、問題になる恐れがあります」

――今回の立ち入り調査の対象となった荷主19社はどのような基準で選んだのですか。
「詳しくはお話しできないのですが、やはり労務費や原材料費、エネルギーコストの上昇分を転嫁することを拒否したと疑われる荷主です」

――調査を受けた荷主側の反応は?
「公取委の職員が東京から直接乗り込んできたことにかなり驚かれたようです。インパクトはあったようです。どこも高位の管理職が対応に出てくれて、真摯に受け止めてもらえたと感じています」

――5月公表のような詳細な調査は今後も続けられますか。
「まだ正式に組織で何か決定したわけではないので、現時点では断定的に言えませんが、普通に考えて、ここで改善されたからもういらない、というようにはならないような認識ではいます」

――調査に対する一般の反応はいかがですか。
「これまで物流の調査はあまり注目されることがなかったのですが、今回はわれわれが想定していた以上に関心が集まっています。物流事業者からの相談も増えており、それなりの反響もあったようです。その期待に応えられるように努めていきます」

(大矢昌浩、藤原秀行)

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