流通経済大がスポーツイベント運営のロジスティクスでシンポジウム

流通経済大がスポーツイベント運営のロジスティクスでシンポジウム

経験者から「予定外の事態発生は当然」の持論も

 流通経済大は2月1日、東京都内で「スポーツとロジスティクス」と題する特別シンポジウムを開催した。

 今年のラグビーワールドカップや2020年の東京オリンピック・パラリンピックを控え、アスリートや観客、報道関係者など関係者が多岐にわたるスポーツイベントのロジスティクスをどのように運営・管理していくべきかに焦点を当て、実際にスポーツイベントに携わっている担当者らが意見を出し合った。

 出席者からは、多様な関係者が集まるスポーツイベントでは予定外の事態が起こるのが当然と捉え、事前の計画を綿密に立て過ぎず、ある程度は臨機応変に対応していく心積もりを取ることが重要との持論が相次ぎ出された。


シンポジウム会場の様子

 シンポジウムは冒頭、20年の東京オリンピック・パラリンピック大会の準備業務に加わる大会組織委員会輸送局の及川勝利ロジスティクス部長と、東京都オリンピック・パラリンピック準備局大会施設部の松本祐一輸送課長が登壇し、大会の物流に関して基調講演した。

 両氏は12年のロンドンオリンピックの際、交通量の抑制と公共交通機関の利用促進による混雑緩和のマネジメント「TDM」への協力を広く市民らに要請したことを紹介。

 首都圏も20年の大会期間中に首都圏で大規模な交通渋滞や鉄道の混雑が見込まれると予測。各企業に計画的な休暇取得、テレワーク・時差出勤の積極導入などで協力を呼び掛けていることを説明した。

 併せて、物流についても発・着荷主の双方に配送の時間や経路の変更、共同物流実施による台数抑制といった方策を今後も求めていくことをあらためて示した。

「英国人は失敗ではなく『学習した』と言う」

 続いて行ったパネルディスカッションは、両氏に加え、ラグビーワールドカップが開催される岩手県釜石市で大会の推進本部事務局主幹などを務める増田久士氏、鹿島アントラーズFCの鈴木秀樹取締役事業部長、スポーツ用品販売のゼビオホールディングスの中村孝昭副社長執行役員、苦瀬博仁流通経済大教授が参加。コーディネーターは同大の矢野裕児教授が担った。

 増田氏はワールドカップに向けた観客輸送手段などの準備状況を説明。「英国人は何かトラブルがあっても絶対失敗とは言わず、ラーニング(学習した)と言う。その経験がレガシー(遺産)にもなる。多少のことはあってもいいかなくらいの意識に変化していけばお客さんの方の考えも変わってくる」との持論を展開した。

 鈴木氏はサッカーの国際大会への参加経験などを言及。「(元監督の)ジーコに16年のブラジル・リオデジャネイロ五輪の際に問題はなかったのかと尋ねたら、いろんな人種と国の人間が集まってくるんだから問題がないわけがないとの考え方だった。海外の試合でも事前に決めたレギュレーションをきっちり守るのは日本くらい。もちろん綿密な運営計画を立てた時点で素晴らしいことであり、トライするのが結果的に何か残ることにつながるのではないか。何とかなると思う」と前向きな見方を示した。

 中村氏はスポーツイベント運営の経験を踏まえ、「スポーツのロジスティクスの経験がスポーツする側にフィードバックされることで大会運営の進化、レベルアップとなり、社会の中でスポーツが存在する価値が高まる。兵站がスポーツの価値向上につながる」と強調した。

 松本氏は企業で納品の時期を大会前後にずらすことなどを推し進めてもらい、「そもそもの物流量を減らしていくことも考えている。その成果は物流の効率化という形で大会後も残していきたい」と説明。

 及川氏は大会関連の資材などを一時保管する倉庫の確保に苦労していることなどを明かした。さらに、物量の事前予測が難しく、「過去の大会ではこれくらい運んだからということで、その量に見合うだけの人員やトラックを用意せざるを得ない。ある程度バッファーを確保することも大切」と述べた。

 苦瀬氏はTDMの理念と概要を解説。「人間はチケットの数しか来ない、選手の数も分かっている。その上で、例えば気温が上がれば水を飲む量が変わるが、そこまで精密に予測しないといけないのか、そんなにナーバスにならなくてもいいじゃないかと思う。それくらいの感覚で行かないと、物を運ぶこと(を無事に済ませるの)は難しいのではないか。大ざっぱでもいいから事前の計画を立てた方がいいし、その点を多くの企業や国民の皆さんが受け入れていただけることを期待している」と語った。

(藤原秀行)

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