ascend・日下社長、内閣府プロジェクト参加の狙い説明
運送事業者の業務デジタル化など物流領域のDX促進を目指すスタートアップのascend(アセンド)は、内閣府の国家プロジェクトに参加し、運送業界で需給のバランスに応じて運賃が上下する「ダイナミックプライシング(運賃料金制)」の研究開発を進めている。実際の取引データをAIが分析し、実態に即した運賃を自動的に提示。運送事業者と元請けの運送事業者や荷主企業と適正な水準で設定できるようにするのが狙いだ。
ascendの日下瑞貴社長がこのほど、ロジビズ・オンラインの取材に応じ、内閣府の国家プロジェクトに参加した背景などを語った。日下氏はAIという先進技術で客観性のあるデータを示せるようにすることで、荷主などとの価格交渉力が依然弱い運送事業者をサポートしたいとの思いを吐露。トラックドライバーの長時間労働規制が強化される「2024年問題」を1つの好機と捉え、「運送業界自身が運賃をサイエンスに則って合理的に設定していけるようぜひ後押ししていきたい」と意気込みを語った。
日下社長(ascend提供)
数千万件の取引データ活用へ
ascendが参加しているのは「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」が推進する国家プロジェクト・第2期スマート物流サービス・物流のビッグデータ利活用の研究開発領域。「運送業界におけるダイナミックプライシングエンジンの構築」の実証実験事業者に同社が採択された。
ダイナミックプライシングは需要と供給のバランスに応じてサービスの価格を変動させるもので、ホテルや航空業界などで導入が進んでいる。
内閣府のプロジェクトは今年12月までの期間中、数種類の求貨求車システムの取引データを活用し、荷物の発送・到着の地域、荷物の種類など、運送サービスごとの価格設定を、幅を持たせる形でAIが算出するエンジンの開発を目指している。AIが提示する価格の下限値は諸費用を考慮した「コストベース」、上限値は収益を十分確保できる「バリューベース」でそれぞれ算出することを念頭に置いている。
運送業の実態に即した価格設定を自動的にはじき出すことで、運送事業者らが「適正な価格」を判断できる有力なツールにしたい考えだ。
プライシングのイメージ。右は国土交通省が作成した「標準運賃」(ascend提供)
日下氏は内閣府のプロジェクトに名乗りを挙げた背景として、運送事業者が荷主との交渉力の弱さ、プライシングするスキルの不足、持っている情報の品質の低さの3点が原因で弱い立場にならざるを得ず、適正な運賃を収受できていないと指摘。そうした窮状を先進技術による公正なプライシングにより、変えていきたいとの狙いを明らかにした。
その上で「プライシングのエンジン開発に当たっては、いかに大量の『教師データ』と呼ばれる、AIの学習を促進するデータを獲得できるかが非常に重要なポイントになる。複数の(求貨求車サービスの)プラットフォームのデータを頂戴し、活用することで、各社の状況に左右されない、一定程度公平性を持ったデータの形成ができるのではないか。ここに国が進めるプロジェクトの大きな意義がある」と語った。取り扱うデータは数百万件のレベルになるとの見通しを示した。
また、ascendとして、運送事業者向けに業務効率化を包括的に支援するシステム「LogiX(ロジックス)」を提供するなど、支援サービスを通じて運送業務の実態を把握している点を最大限生かし、プライシングのエンジン開発では最低限の利益を確実に確保できるようにすることに自信を見せた。また、プライシングでは荷物の積み下ろしなど荷役の部分もサービス料金を示し、対価をきちんと受け取ることができるようにする環境の整備に努めたいとの構想を明らかにした。
プライシングの仕組みが確立できた後の展望として、「外部環境が悪化する中、運送業界がしっかりと自分たちで詳細なデータに基づきプライスをコントロールしていくことができれば、荷主企業とも十分対等な関係で話をしていけると思う。私たちもできるんだ、という意識の積み重ねが業界を変えていくと思う」と解説。プライシングのエンジン開発後、様々な場面で有効活用されるよう普及活動への意気込みを示した。
(藤原秀行)