日野自動車・小木曽社長会見詳報(前編)
日野自動車は10月7日、トラック・バス用ディーゼルエンジンの排出ガスや燃費の性能に関する認証申請で長年不正行為を続けていた問題で、国土交通省からの是正命令を受けて策定した再発防止策と社内処分に関する記者会見を東京都内で開催した。同社の小木曽聡社長らの発言内容の詳報を全3回に分けて掲載する。
会見の冒頭に謝罪する小木曽社長(中央)ら日野自動車関係者
人財尊重と正しい仕事を実践する経営改革を行う
▼冒頭発言
小木曽聡社長:
「当社の認証不正問題により、ご心配とご迷惑をお掛けしているステークホルダーの方々にあらためておわびを申し上げる。先ほど、国土交通省からの是正命令に対する再発防止報告書を提出してきた。本日はその内容も踏まえ、このような不正を二度と起こさないために日野自動車が取り組んでいく3つの改革についてご説明させていただく」
「8月2日に公表させていただいた通り、当社ではエンジンの排出ガスや燃費に関する認証申請において、約20年にわたる広範囲の不正が行われていたことが判明している。複数機種で排出ガス規制値の超過ならびに燃費性能の諸元値(カタログデータ)との乖離がある。また2016年には、国交省からの認証試験における不適切事案の有無を調査指示いただいたことに対しても虚偽の報告をし、襟を正す機会にも関わらず、さらに不正を重ねてしまったことは極めて重大と認識している」
「また、8月2日に問題を公表した後、国交省からの立ち入り検査において、排出ガス劣化耐久試験に関する追加の不正行為が判明した。これらの問題を、受け止めとしては、経営が現場に寄り添えず、法令順守や健全な職場風土の醸成がおろそかになり、あるべきクルマづくりを見失ってしまい、型式指定の申請プロセスにおいて長期に渡って不正を行ってしまったと理解している。その結果、お客様をはじめとしたステークホルダーに多大なご迷惑をお掛けした経営としての責任を重く受け止め、猛省している。厳正な対処を行った上で二度と不正を行わないための改革を行っていく」
「今回のことを重く受け止め、当社の経営を担う者としての責任をこのようにした。私、小木曽は報酬減額50%を6カ月、そして私以外の常勤取締役および不正に関係する部門を担当していた技術開発本部長、このうち4人については辞任、それ以外は資料に記載の通り。また、過去20年の代表取締役の方、および本件への関与が指摘された元役員の方へは報酬の一部返納を要請していく」
「今回の問題に対して特別調査委員会や国交省からいただいた指摘に加えて、自社で行った分析を反映し、あらためて原因をまとめた。①経営の問題②職場風土の問題③広い意味でのクルマ作りの問題――という3つの大きな問題があると認識している。これらの問題に対する真摯な反省を基に、二度とこのような不正を起こさない会社に生まれ変わるべく、社長である自身をはじめとする経営層が率先垂範で全社の変革を敢行していく」
「1つ目は人財尊重と正しい仕事を実践する経営改革を行う。2つ目は人財尊重を中心に据えた組織・風土の改革。最後の3つ目は新しい日野のクルマづくりのための構造改革を行う。また、これらの改革の礎となる価値観を真ん中に書いてある『HINOウェイ』として新たに策定した。全ての日野の社員が大切にすべき価値観と在るべき姿を取りまとめたものがHINOウェイ。経営層だけではなく、中堅若手に加え海外のメンバーも参画して議論を重ね、策定した。右側に書いてある、「誠実。貢献。共感」という基本方針を核に進めていく」
(図はいずれも日野自動車開示資料より引用)
「3つの改革についてご説明する。1つ目、①経営改革は、二度と不正を起こさないための経営のあり方から見直しをして、人財尊重と正しい仕事を実践する。経営層のメンバーはお客様、社会のお役に立つということを起点として、現場、職場をよく見ながら人に寄り添う、ここに示すような行動を徹底していく。自分や経営層が職場に頻繁に赴くとともに、役員の執務エリアもオープン化し、経営層が従業員から評価される仕組みも導入していく」
「こういった行動を経営層から現場まで徹底し、みんなでお客様と社会のお役に立つために、組織体制も変更する。左側の従来は縦割りのセクショナリズムにより、横のコミュニケーションが不足していた。新しい体制では、事業軸と機能軸の連携を図り、大部屋化、即断即決ができる縦横の十分なコミュニケーションを通じて、機能を超えて関係者が目的を共通し、一緒に考え、一緒に走る体制を実現していく」
「全社レベルでの正しい仕事を確実に実践していくために内部統制システムと経営監督機能の強化を図る。自浄作用が働くよう内部監査の体制充実、実効性の外部評価も行っていく。業務プロセス、規定類、マニュアルデータ管理の再整備と運用徹底によって、全社での業務マネジメントの適正化を進めていく。また、取締役会の監督機能の強化に向け、外部機関による実効性の評価や事業目標達成中心から企業経営基盤強化への議論へと重点をシフトしていく。また、取締役会の活動そのものも人財育成や職場風土に対して、実際の職場に赴いたり労働組合と対話したりすることなどを行って確認していく。不正を許さず、風化させることがないようコンプライアンス意識の確立に努める。二度と同様の問題を起こさぬよう、今回の問題を理解するための対話の場の設定や社内に常設施設を作り展示を行うとともに、今回の問題を定期的に振り返る機会を設定する。全社にコンプライアンスファーストの意識を確立するための外部専門人材の登用や経営層、従業員の意識向上のための取り組みも続けていく。これが1つ目の人財尊重と正しい仕事を実践する経営改革。トップである自分自身が先頭を切ってぶれずに行動し続け、また覚悟を持って示していくことで、全社がお客様と社会のお役に立つことを起点とした、これらを実践できるよう改革を継続していく」
「改革の2点目は人財尊重を中心に据えた風土改革。日野で働く全員がお客様と社会のお役に立つことが自身の仕事であるとの認識を持ち、風土改革に取り組む。これまでの社内の風土は、資料の左側にある通り、やや自社、自組織、自分を中心としたことが目的となり、今回の問題の背景にもなっていると思う。今後は右に示すように、お客様、社会のお役に立つという目的が共有された組織風土を目指す。外向きで現地現物、主体的、双方向で挑戦の意欲を持ち、チームワークを持って助け合いをするような1人1人の意識と行動の変革を目指していく。下にある、皆でお客様に向き合い、協力し合う文化、主体性と能力を引き出す人作りに取り組んでいく。お客様視点の意識醸成に向け、お客様の現場や販売会社、異業種の企業との積極的な交流を推進する。組織の縦横斜めと対話・協力し合う文化の土台として、社内における相互理解を深めるための労使間の対話の機会の増加や、不正発覚以降、活動を続けている風土改革チームによる階層別の対話会、私と社員の対話の機会を拡大して、あらゆる方向での対話や人のつながりの活性を図っていく。また、心理的安全性を保つ職場づくりとしてハラスメントの撲滅活動、パワハラゼロ活動を推進する」
「人作りを支える施策、人事制度として、手挙げ制度によるプロジェクト参画など、1人1人の挑戦意欲を高める機会、制度を拡充するとともに、キャリアデザインと連動したローテーション施策の運用を強化する。従業員がいきいきと働く機会の創出と環境整備の推進として、技能員も含めてITツールを全員に支給したり、職場環境を改善したり、スキルアップ教育を行ったり、人づくりへの積極的な投資を行っていく」
「改革の3つ目は、二度と不正を繰り返さないための仕組みを構築する具体的な取り組み、新しい日野のクルマ作りのための構造改革。(1)のクルマ作りのプロセス再構築・再定義があるべきプロセスの正しい運用だ。みんなで車を作る体制の確立に向け、中心となるチーフエンジニアの役割を再定義する。従来の開発は分業に基づくハンドオーバーで行われており、その中でもチーフエンジニアは開発フェーズだけの受け持ちとなっており、実際の開発も各専門部署に任されていたため、それぞれの機能が自部署の都合の中に閉じこもっていた。今後はチーフエンジニアを中心に皆で思いを共有し、協力し合って車を作る体制に変えていく」
「(2)のプロセス再構築は、身の丈に合ったプロジェクトの規模や、企画から量産を見据え品質保障部門が参加したり、既に実施済みだが開発と法規認証の分離により牽制機能を強化したりしていく。(3)の外部の目を入れた品質保証システムにおいては、製品の品質を確保するため、開発や認証品証プロセスが的確に運用される仕組みを構築するとともに、外部の目による実効性のチェックを導入していく。(4)クルマ作りの大前提となる工期をタイムリーに把握し、正しく解釈し、開発プロセスに取り入れる体制、仕組みを確立していく。下にあるソフトウェア管理についても、担当者間で連携して開発管理するプロセスを策定・運用し、強化していく」
「これらの改革は多岐に渡り、簡単なものではないと認識している。しかし私達は不正により、全てのステークホルダーの皆様にお掛けしたご迷惑を決して忘れることなく、経営層から従業員の1人1人の仕事が社会に密接につながっていることを心に刻み、二度とこのような過ちを繰り返さない企業を目指していく。また、トップである自分自身が日々の実践、行動を続けることで全社改革への覚悟を示し、社会への責任を果たしていくことを目指していく」
経営側の法令順守の優先順位が少しずつ低かった
▼質疑応答
――4人が辞任する理由は。社長が続投する理由は。
小木曽社長
「常勤の取締役については、特に不正が起きている期間に担当していた方、在籍していた方は直接的な、法的な関与は一切認められていないが、会社の中でこれだけの大きな問題が起きていた時に、それを見つけたり、対策したりすることができなかったという経営としての責任ということを鑑みて辞任という形になっている。繰り返しになるが、ここで言う皆川、久田、中根の3人の取締役は辞任。長久保は取締役ではなく政務役員だが、不正が発生した職場の管理監督をする役割だったので同じく辞任した」
「私自身は代表取締役社長となったのが昨年の6月からで、問題への対応を進めている時期だったから、そのタイミングも考慮したこと、および私自身は今お客様、ステークホルダーに掛けているご迷惑を少しでも早く対応する、もしくは少しでも早く小さくするために本日説明をさせていただいた内容を中心に陣頭指揮をしていくべきではないか、これが責任を果たすことではないかということで、このような対応をさせていただいている」
――過去の代表取締役などにも報酬の一部返納を要請しているが、ここについての考え方も聞きたい。これまでの調査委員会の報告では、不正が20年間ですごく根深さを感じているが、直接的な不正の関与というのは明らかになっていなかった。何らかの不正の関与が明らかになって、こういう形での、一定の経営責任を考慮して要請しているのか。
小木曽社長
「調査委員会の豊国も踏まえて、再度しっかり検証した。その結果として、過去の役員の方も含めて現役と同じように直接的な関与はなかった。なので法的な責任はない。一方で、現役の辞任とか報酬減額と同じように当時の経営層としてこの問題を摘出して防ぐことができなかったということから、過去の方に対しては報酬の一部返納ということを要請させていただくことを決めている」
質問に答える小木曽社長(中央)ら
――2001年以降、トヨタ自動車出身の経営陣が御社の経営トップを務めてきたが、それにもかかわらず、なぜエンジンの開発設計のプロセスを監督できなかったのか。
小木曽社長
「調査報告書、そしてわれわれで様々調査してきた。いろいろ調べた結果、大きくはやはり経営側がいわゆるコンプライアンスだとか法令順守ということに対する優先順位が少しずつ低かったこと。やはり組織風土の問題、またクルマ作りがかなり分業になっていたこと。そして流出防止のところが弱かったこと、これが日野の問題として見つかっている。残念ながら、これらに対して今回の問題の発覚というか、これは自ら見つけて調査を始めたことではあるが、今回に至るまで、ここまでのことに気づくことができなかった。やはり職場にかなり根付いていたことに対し、トップの経営層だけで見つけることが結果的にできていなかった。それが許されるということではないかもしれないが、そういった状況だ」
――過去の代表取締役らへの一部返納要請だが、一部とは具体的にどの程度か。対象の人数は。代表取締役とそれ以外の役員で内訳は。
小木曽社長
「返納要請だから、われわれが決めるのは目安で、こちらについては今までの事例とか、この内容について様々、多面的に検討して、一部外部の方のアドバイスもいただきながら、適正な金額レベルを想定して要請をしているが、数字については公表を控えたい。対象は11名。これは元役員の方へ返納の要請という形なので、細部については公表を控えさせていただきたい」
会見する小木曽社長
型式指定再取得の見通しを申し上げるのは難しい
――8月2日の会見で、社長が3カ月をめどに過去の方の責任も考えていきたいと説明していた。前倒しした理由は。
小木曽社長
「やはりわれわれ、不正という大変大きな問題を起こしている。8月2日の時点ではやはりこれ、なるべく早く責任に対する対応の明確化と、これからどのように会社が向き合っていくべきか、併せて、今回起こした不正に対して、もちろん流出防止のような再発防止はやってまいったが、いわゆる調査委員会で指摘されたような企業風土とか組織と一定の部分についても、どうやっていくか。8月2日の時点ではこの大きなものを、3カ月をめどでやりたいと申し上げた。まだ調査報告書をいただいたばかりだと思う。でも一方で、やはりこの大きな問題に対してのけじめをつけて次に向かっていくというのは、やはりあの世の中にかけてるご迷惑に鑑みて対応していく意味でも、また私たち、われわれの社員と次に向かってスタートしていくためにも早い方がいいのではないかということで、対応を進めていた。あとは、ちょうど是正命令の回答期限がほぼ9月9日から1カ月となった時に、10月9日だった。国交省からもご指導いただいた内容というのは、調査委員会、そしてわれわれがやらなければいけないことだと、ほぼ方向性が位置していたので、少しみんなで力を合わせてこのタイミングでやったということ」
――3月から半年以上経っており、加えて調査報告書が出てから、国交省からさらなる問題の指摘があるなど、ちょっとバタバタしていたように感じるが、この間の対応についてはどのように総括されているのか。それも含めて遅かったり拙ったりした部分があると思うが、そういった辺りの責任は社長をはじめ、ないのか。
小木曽社長
「3月のタイミングについては、やはり不正の可能性および排ガスの規制値のオーバーの可能性があったので、確認の試験と調査を行って、その時点で分かったことについて、なるべく早くということで公表させていただいた。この時点では再度の性能の確認耐久評価も全ては終わっていなかったが、全部終わってからまとめて問題を言うのではなく、分かった部分をなるべく早くご説明をするということで、3月4日に一部の部分について公表させていただき、これが過去いつから行われているかという部分と、建機用エンジンも含めて、どの範囲まで性能に問題があるかというのは引き続き調査した。結果、8月に公表したタイミングはちょうど5カ月かかるが、過去20年にわたり、もしくは建機も含めての、劣化耐久を含めた性能確認をするのは実は5カ月かかった。この間、調査委員会の活動も非常にタイトな密度で、われわれも協力しながらやって、何とか8月ということ。この8月の調査報告の内容に基づいて国交省がわれわれ々の監査に入り、1カ月監査し、全ての結果を踏まえて、是正命令をいただいた。期限の1カ月で、本日、報告をするとともに、8月2日の時に3カ月と言っていた内容を少し前倒しして報告したということ。なので、日程としては、ほぼほぼ、なるべく最短でということでやってくるということになったと認識している」
「そもそも、それだけ広範囲の機種と長い期間にわたって不正が行われ、性能上の問題があったこと、本日のスライドでも冒頭、ご説明させていただいたことそのものが非常に重大な問題と認識している。足元は今の現役のメンバーで問題をとにかく自ら摘出した後、徹底的に調べて正していくが、結果としては3月から10月、半年プラス1カ月かかっている。想定に対して何かが遅れたわけではないが、これだけの期間を有する大きな問題だったと認識している」
報道関係者が詰め掛けた会見場
――8月22日に小型エンジンの不正が見つかったと公表した。こういうことは3月の段階で、中型大型以外のものも調べれば分かったのではないか。
小木曽社長
「実は、過去の認証のデータを、データベースから全部ひも解いて、認証の試験データを見てきたが、残念ながら8月22日のものについては、試験で2回要る部分が全部2回やれていなかったということを見つけることが、順番に調べていく中でできずに、実際8月22日になってしまったということ。これ自身はご指摘いただいてるように、少しでも早く、本来であれば8月の2日までに見つけなければいけなかったことだと考えている」
――組織風土の改革など、いろいろ取り組みはこれからだということだが、一方でまだエンジンには型式指定が取り消されたままのものがある。生産や事業を通常に戻していく上で、再指定取得のスケジュールをどう考えているか。
小木曽社長
「型式の新たな申請と型式指定をいただけるかどうかは、国交省さんの方が決めていくことなので、そちらの指導に従って対応していこうと思う。私達はやはりこの再発防止を徹底的に実行していって、新たな認証の申請、認可をいただけることができるように進めていくということなので、私達から日程を申し上げることはなかなか難しいと考えている。1つ1つ、今日ご説明した内容を進めていくということが最終的に再開につながるのではないかと考えている」
――社長の認識としてはまだしばらく時間がかかるということか。
小木曽社長
「繰り返しになるが、私どもの方からスケジュール感をやはり今は申し上げる立場にはないと思っている」
(後編に続く)
(本文・藤原秀行、写真・中島祐)