【残念ながらラスト!】選ばれる物流会社のポイントと4つのビジネスモデル・最終回

【残念ながらラスト!】選ばれる物流会社のポイントと4つのビジネスモデル・最終回

その4:本業拡大モデル

タナベコンサルティング 土井大輔 ストラテジー&ドメインコンサルティング事業部 本部長代理 兼 物流経営研究会 リーダー

厳しい時代でも生き残っていける「強い物流企業のつくり方」にフォーカスした前回連載が好評いただいた、タナベコンサルティング土井大輔氏。シーズン2は残念ながら今回が最終回です。

事業をサステナブルなものにするための4つのビジネスモデル、ラストは本業を拡大していくことに主眼を置いたものとのこと。実例をベースにした土井氏の提案は、原材料価格や燃料費、人件費の高騰、地政学的リスクの継続など経営環境が厳しさを増す中、活路を見いだせるヒントになると信じております、ぜひご活用ください!

※タナベ経営のホールディングス化・社名変更により、著者は2022年10月1日より「タナベコンサルティング」に所属しています。なお、本連載は当初、「全6回」とお伝えしていましたが、都合により「全5回」に変更させていただきます、何卒ご容赦ください。

復習はコチラから


土井氏(タナベコンサルティング提供)

事業のすべてを“人財”に振り向ける

本連載の第5回はノウハウを活かした高収益ビジネスモデルの1つとして、「本業拡大モデル」について事例を交えて紹介します。

<本業拡大モデル>
当ビジネスモデルのコンセプトは“自社の費用科目を外販する”ことです。

具体的には、自社で取り組んでいる福利厚生や人材育成、物流現場で活用しているWMS(倉庫管理システム)やマテハン(マテリアルハンドリング)、ロボットなどを自社以外に外販するモデルです。自社で取り組むことで実績・成果を創り、その成果を裏付けとして他社に紹介することができます。

今回の事例から学ぶべきポイントは、“物流は人財で成り立つ”からこそ、“人財・環境整備に投資する”ことを有言実行されている点です。実際に人財が大切と言いながら育成や制度・仕組み、環境整備への投資を後回しにしている物流会社を見ることがあります。しかし、今回の事例で取り上げるC社は、事業創造の視点、投資、経営者の時間まで、すべてを人財に向けていると言っても過言ではありません。“商売”という視点だけではなく“貢献価値”、“環境・風土の善循環”、“誇り・使命感の醸成”という視点でも学んでいただきたいと考えます。


本業拡大モデルイメージ(著者提供)

<事例C社>
同社は創業約60年で、祖業は飼料工場の構内請負です。物流事業を中核として“地域の課題を解決するために”事業を生み出し、ポートフォリオモデルを構築しています。

同社社長の経営思想として上位概念に置いているのが、“存在意義の追求”です。今でいうとパーパス経営です。会社の存在意義と社員個人の存在意義の重なる部分を増やしていく。そのためには、社員各自の強みを活かして活躍の場を増やすこと、そして周囲のメンバーと良い関係を築くことができる環境整備が必要であり、それが経営者の仕事であるという考えです。

同社の“本業拡大モデル”事業は複数あり、すべて“社会課題の解決”と“社員が働きやすい環境の整備”といった視点から生み出されています。

1つ目は、海外からの実習生を受け入れて活躍の場を生み出している、協同組合を活かした「協同組合設立×物流事業」のモデルです。人口減少と高齢化が加速する中で「協同組合」を設立し、海外から技能実習、特定技能、留学生を受け入れて活躍の場を生み出しています。

具体的には、自社で整備工場や農業などを用意しています。さらに、自社グループのみならず他社での活躍も促進することで、地域の課題解決に貢献しています。物流の現場では、組織が硬直しやすい傾向にあるため、“多様性を尊重し、成長を支援し、個人の特性を活かしながら組織力を強化する”ことにも繋がり、社員の意識改革、定着率の向上、紹介採用にも効果があります。

2つ目は、自社のWMSなどシステムを外販する「DX事業」です。同社は長年、自社開発WMSを保有したり、物流シミュレーションソフトを活用した提案を実施したりしていましたが、さらなるデジタル化で効率化と環境整備を行うために、近年システムインテグレータ(SI)企業やシステム販売商社と資本提携しました。物流現場を知っているシステム会社のシステムは実用的であり、信頼性も高まります。自社グループのDX実装だけではなく、自社以外のシステム開発や業務改善などの外販も推進しています。

3つ目は、従業員が活用するフィットネスを外販する「メディカルフィットネス事業」です。医療機関においては緊急性の高い病気や保険適応内サービスの優先度が高くなる傾向があります。同事業では介護難民のためのリハビリと社会復帰するためのリハビリにフォーカスして展開しています。理学療法士・インストラクターなど専門人財も確保しているため、法人に対して“健康経営アドバイスサービス”を提供しています。グループ内の健康経営を推進し、福利厚生と同時に外部へのサービス提供(90%以上は外販)を実現している“本業拡大モデル”です。

4つ目は従業員が活用する保育園を外販する「企業主導型保育事業」です。県内最初で最大規模の企業主導型保育事業です。認可外であることを活かして特徴あるカリキュラムを実施したり、企業と提携したりしているため、“自社の福利厚生として”打ち出すことができ、常に満員状態です。また、物流事業の顧客である地元スーパーと協力し、在庫や廃棄予定の商品を「子ども食堂」「農業への肥料」などに提供することで循環モデルを構築。今後も拡大する見込みです。

同社は人財育成を最重要項目として位置付けています。また人財育成が“ブランディング”と“事業推進”に繋がっています。同社のHR戦略の一部を紹介します。

◆リクルート委員会
テーマ:採用ブランディング活動、RPAを活用した応募状況の分析や採用サイトの改善
毎月約40名を採用し、毎週入社式を実施しています。

◆人財成委員会
テーマ:人財育成と定着維持・向上、社内教育制度の運営、次世代幹部の研修
人事部門と総務部門を中心とした約20名で隔週実施しています。

◆環境整備委員会
テーマ:既存の制度、現場の環境改善、定着向上策、福利厚生などについて改善提案
人事部門と総務部門に加えて各事業所から選抜された約20名で隔週実施しています。

自社の課題は他社も同様に困っている場合が多くあります。是非、自社の取り組みを外販する検討をしてみてはいかがでしょうか。外販することを想定しておけば、進め方・つまずくポイントなどを体系化し、ノウハウにすることができます。我々、経営コンサルタントと同じです。

自社にノウハウを蓄積していきましょう!

(了)

◇タナベコンサルティングからのメッセージ:「物流経営研究会」とは

タナベコンサルティングでは、日本全国の「ファーストコールカンパニー(顧客から一番に選ばれるサステナブル企業)」の先進事例、成功事例を研究。ゲスト企業による実践型講義・現場視察から成功談・失敗談を踏まえた現場の“リアルなポイント”を学べるよう努めている。同じ志を持つ多種多様な参加企業・参加者との情報交換も可能な場として運営している。

「物流経営研究会」では、“選ばれる物流会社を研究する”ことをテーマに、DHLサプライチェーン、丸和運輸機関、ハマキョウレックス、大塚倉庫、シーアール物流、BeingGroup(ビーインググループ)などの現場を視察し、情報交換会や自社プレゼンを行っている。https://www.tanabekeiei.co.jp/t/lab/logistics.html

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