準備組織にVC27社など参加、福利厚生充実で人材確保・定着目指す
一般社団法人VCスタートアップ労働衛生推進協会は6月30日、スタートアップやベンチャーキャピタル(VC)で働く人を対象とする健康保険組合「VCスタートアップ健康保険組合」を立ち上げると発表した。スタートアップ従業員向けの健康保険組合は国内で初めて。
このほど、設立準備委員会を組成し、申請に向けた取り組みを本格的に始めた。既にVC27社とスタートアップ330社が推進協会の会員として参加しているという。VCはANRI、ドローンファンド、インキュベイトファンド、コーラル・キャピタルなどが名を連ねている。2024年中の正式発足を目指し、今後厚生労働省への設立申請など準備を加速させる。
推進協会は健保組合を開設することで福利厚生を充実させ、人材の確保・定着につなげて起業の活性化やスタートアップの成長をサポートしていきたい考えだ。従業員の健康増進を後押しし、国の医療費削減に貢献することも目指す。併せて、保健事業や組合運営に関わる業務を電子化してDXを促進することも念頭に置いている。
(いずれも推進協会提供)
政府が6月に閣議決定した「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画 2023改訂版」でも、スタートアップ支援の施策の一環として、スタートアップ向けの健康保険組合設立を打ち出している。
推進協会は健保組合設立の背景として「スタートアップ企業はフレキシブルで裁量に任せた勤務形態が多く、働きやすさが強調されており、働き方や福利厚生などの観点で人材の採用や定着に尽力している。しかし、従業員の健康増進や疾病予防という産業保健の観点や人的資本経営の観点では、大企業と比較すると手厚い体制が整えられているとは言い難い環境」と指摘している。スタートアップの関係者からは、仕事の時間が不規則なことなどから体調面でも不安があるとの声が聞かれる。
推進協会によると、創業間もない企業でも年1回の健診受診や社会保険の加入が義務付けられており、従業員が50人以上になると産業医の選任やストレスチェックの実施も求められる。しかし、成長を重視するため、健康増進などの業務に関し、経営陣が兼任していたり、人事労務担当が1人で業務をこなしたりしているケースが多いという。
推進協会は昨年12月、VCとその投資先のスタートアップの産業保健・労働衛生水準の向上を目指して発足。新型コロナウイルス感染拡大でワクチンがスタートアップに行き渡らない状況を改善するため、21年にスタートアップのための新型コロナワクチン合同職域接種を実施したメンバーが中心となって運営しており、より持続可能な形での産業保健体制の構築を視野に入れている。
現状では全国健康保険協会(協会けんぽ)に加入しているスタートアップが多いとみられるが、協会けんぽは保険料率が高めなことなどが指摘されている。推進協会は業務のデジタル化などで負荷を軽減し、保険料率を下げることを検討している。
設立準備委員会のメンバー、吉澤美弥子氏はツイッターのアカウントで「スタートアップで働く人の健康を支援できるよう、テクノロジードリブンな健保運営を目指します」とコメント。各種申請の電子化や健康増進を支援するデジタルヘルスサービスを展開していく考えを明らかにした。
(藤原秀行)