コロナ禍後の配送量増大カバー、冷蔵品提供も開始
酒類販売などを手掛けるカクヤスグループが、新型コロナウイルス禍で業務用の酒類販売が激減したのを契機に物流網の抜本的な見直しに注力している。経済活動再開による飲食店からの需要回復と一般家庭向けの利用拡大による配送量増大をカバー。グループのコールドチェーンのインフラを活用し、牛乳やヨーグルトなどの冷蔵品の取り扱いも開始し、「酒屋だけじゃない」機能の強化に動いている。
(この記事は「月刊ロジスティクス・ビジネス(LOGI-BIZ)」2024年6月号に掲載した記事を一部修正したものです)
カクヤスの店舗(東京都北区の王子店)
「物流企業」の表現も過言にあらず
カクヤスグループは1921年、東京都北区で個人商店のカクヤス酒店として誕生した。その後、酒類のディスカウントショップを展開するなど業容を広げ、現在は都市部を中心に酒類や食品などを販売する「なんでも酒やカクヤス」が主力の業態となっている。
店舗は東京23区に加え、横浜や大阪、福岡などにドミナント展開し、グループ全体で243カ所に上る(2023年3月末現在)。16年に現在の持ち株会社体制へ移行し、純粋持ち株会社のカクヤスグループの傘下で主要事業会社のカクヤスが店舗運営などを担っている。
業務用と一般家庭用で販売免許の種類が異なることなどから、酒類の販売事業者はいずれかに特化して商品を扱うのが一般的だ。しかし、カクヤスグループは両方を手掛けることで需要をより多く取り込めるとみて、業務用と一般家庭用のいずれも受注から配送まで自社で完結させる独自のビジネスモデルを確立、差別化に成功している。
業務用は配送センターにベンダーから納品してもらった後、カクヤスグループが大型トラックでチェーンの飲食店などをルート配送したり、個人経営の飲食店に小型の専用拠点から商品を納めたりしている一方、一般家庭向けは「なんでも酒やカクヤス」の店舗などから自社の従業員が無料で宅配している。
配送センターは各地に13拠点を設けている。このうち、マザーセンターと位置付けている東京・平和島の大規模配送拠点「平和島流通センター」には現在、利用が着実に増えているEC向けの商品を集約している。
一般家庭向けは店舗から半径1.2kmを商圏とし、細かく店舗を配置していくことで東京23区全域を網羅。埼玉や神奈川などの一部にも手を広げている。併せて、ビール1本からでも対応し、届ける時間帯は1時間ごとに設定するなど、配達する際の制約条件となり得る時間やエリア、ロットの縛りをいずれも取り除き、一般家庭のユーザーから支持を獲得している。
一般家庭向け配達は戸建て住宅やマンション、アパートだけでなく、公園や屋外のイベント会場もカバー。おつまみや軽食、お菓子、氷、ごみ袋などの日用品も取り扱っているため、お花見やバーベキューなどの際の買い出しの手間を省くことができると好評を博している。
年間の配達件数は約22万t、件数は約846万件(いずれも22年3月期実績)に上る。カクヤスのマーケティング部BtoCマーケティング課の荒川友希主任は「業務用と一般家庭用の2つの物流機能が高いレベルで併存しているのは酒類販売業界でも当社だけ。完全自社物流の『カクヤスモデル』を確立している。われわれは配達を中心とした物流企業と表現しても過言ではないと思っている」と物流網の機能に自信を見せる。
小型倉庫の開発加速
しかし、大半の企業と同じく、カクヤスグループも新型コロナウイルス禍のネガティブな影響からは逃れられなかった。コロナ禍前は業務用が売り上げ全体の7割強を占めていたが、外食業界が営業自粛を強いられたため販売が激減し収益を直撃、21年3月期から2年連続で営業赤字となった。
そこで、一般家庭向けの取り扱い拡充に注力。人気タレントを使ったテレビCMを打ち、食料品やペット用品、介護用品など酒類以外の品ぞろえを拡充。コロナ禍で外出が制限され“家飲み”が広がったことなどから注文を伸ばすことができた。
ただ、カクヤスグループとしてはいずれコロナ禍が落ち着けば業務用の需要が回復すると想定していた。これまで店舗は一般家庭向けに加え、個人経営の飲食店向けの配達も担ってきたが、コロナ禍突入で一般家庭向けの宅配に大きくかじを切り、需要を取り込めているところに業務用の配達需要が加わるとキャパシティーをオーバーし、店舗が十分対応できない懸念があった。
カクヤスグループとしてはコロナ禍後、大規模なチェーン店舗より個人経営の飲食店からの需要が先に回復してくると予想していた。そのため、業務用に関しては個人経営の飲食店向け配送をカバーする新たな物流拠点として、昨秋以降に専用の小型倉庫「SS(サテライト・ステーション)」の開発を加速。繁華街の付近などにSSを構えることで「ビール1本足りないのですぐに欲しい」といった少量の注文であってもクイックデリバリーを提供できるようにしている。SSは50を超え、順調に数を増やしている。
コロナ禍へ柔軟に対応してきた結果、カクヤスグループの物流体制は「三層物流」に移行してきた。一層目が配送センターからのチェーン店舗などへのルート配送、二層目がSSを生かした個人経営の飲食店向け即日配送、三層目がなんでも酒やカクヤスの店舗や一般家庭向け小型倉庫「DS(デリバリーステーション)」からの即日配送だ。
加えて、一部のエリアではなんでも酒やカクヤスの店舗に併設する拠点からウーバーイーツや出前館など外部のデリバリーサービスを生かして即配する「カクヤスEXPRESS」を提供している。
なお、現在はさらに歩みを進め、DSを全てSSに名称統一する準備を進めており、家庭用と飲食店用の在庫を備えるサテライト倉庫として稼働させていくことを想定している。物流ネットワークのレベルはさらに次の高みを目指そうとしている。
飲食店の利用が次第に戻り、一般家庭向けの販売も堅調を持続。三層物流がうまく機能していることもあって、24年3月期は増収増益を達成した。連結売上高は前期比12.6%増の1294億円、営業利益は約3.6倍の28億6700万円と過去最高を更新した。飲食店からの需要がいずれ回復すると確信し、コロナ禍の逆風下でも人員削減などリストラを実施せず配送のリソースを維持してきたことがここにきてプラスに働いている。
配送用に投入しているEV(電気自動車)(カクヤスグループ提供)
5月に北九州市内で開設した「小倉紺屋町 SS」。飲食店向けに酒類などを出荷する(カクヤスグループ提供)
牛乳瓶の回収にも対応
新たなチャレンジとして前述の通り、コロナ禍を受けて一般家庭向けの売り上げを伸ばすために店舗や自社ECサイトで酒類以外の品ぞろえを拡充しており、23年からは「お酒だけじゃない!カクヤス」を合い言葉にキャンペーンを展開している。宅配の利便性を感じてもらうため、お米や洗剤といった重くてかさばる商品を追加。併せて、1日を通して宅配の車両積載効率を高めようと、昼間に注文が多い傾向がある介護用品やペット用品を充実させている。
お酒のおつまみやご飯のおかずになるような冷凍食品の取り扱いも増やしている。それまでは常温の輸送がメーンで冷凍の配送インフラは整備していなかったため、全店舗のバックヤードに専用の冷凍ケースを導入して適温で保存できるようにし、配達用に独自の蓄冷材を開発するなど新規で積極的に投資した。
さらに今年4月には、なんでも酒やカクヤス店舗とECの両方で、牛乳やヨーグルトなどの冷蔵品の即日配送をスタートした。酒類などと同様、商品を1個・1本から1時間ごとの時間指定で受け付けている。
冷蔵品を届けるコールドチェーンはカクヤスグループ傘下で牛乳の配送などを手掛けている明和物産(東京都練馬区春日町)のものを利用。なんでも酒やカクヤスの店舗から明和物産に冷蔵品を注文し、明和物産が店舗に納品すると、店舗のスタッフが専用の保冷バッグに入れて配達している。
当初は冷蔵品11種類、プロテイン2種類を取りそろえて、首都圏の15店舗でスタートした。リターナブルの牛乳瓶はなんでも酒やカクヤスの店舗スタッフが店頭や配達時に回収している。ビールなどの瓶回収で培ったノウハウを生かしている。
荒川氏は「私自身、当社のコールセンターに配属されて数年間働いていた際、お客さまからの問い合わせで一番多かったのが『牛乳はありませんか?』というものだったと記憶している。当社のECサイトで検索されているキーワードを集計しても牛乳が上位に入っていた。以前から乳製品などのニーズは確実にあると感じていただけに、対応できるようになったのは非常にうれしい」と語る。
冷蔵品に関しては利用状況を見ながら、冷蔵品を受け付ける店舗を徐々に広げていくことを想定しており、やはりお酒のつまみになるようなものをそろえていきたい考えだ。 粗化氏は「常温、冷蔵、冷凍の3温度帯でそろえられれば、かなり細かくお客さまのニーズに応えられるようになる」と意気込みを見せる。冷凍、冷蔵の両カテゴリーの商品を同時に配送できる独自の保冷容器も開発済みだ。
昨今のドライバー不足は配送が重要な位置を占めているカクヤスグループとしても看過できない問題だけに、対策を進めている。郊外に構えていた大型の物流センターからトラックで商品をルート配送してきたが、小型の倉庫に移行していくことで個人経営の飲食店などとの間の距離を短縮し、軽バンやリヤカー、自転車などで届けられるようにして、大型・中型車両の運転免許がない人でも即戦力として活躍できる素地を作ろうとしている。
自転車で配達できるようにしている(カクヤスグループ提供)
昨年11月には店舗の配送スタッフ向けに、商品の最適な配送ルートを自動で振り分けるシステムの運用を試験的に始めた。スタッフが持つハンディターミナルに、注文が入った商品をどのように配送すれば最も効率が良いかを自動で判断、表示している。効果をチェックした上で、本格的に展開するかどうかを決める。配送ルート決めの負荷軽減が狙いだ。
カクヤスグループは25年3月期の重点施策の一つに「物流体制の強化」を掲げ、小型倉庫の展開拡大、リヤカーや台車などの配達手段拡充による人材確保などを打ち出している。物流拠点は10カ所増強する予定だ。「カクヤスモデル」にさらに磨きをかけようとしている。
(藤原秀行)