日本GLP・帖佐義之社長独占インタビュー(後編)
インタビューの前編記事:「千葉・流山は物流施設集積した『第2の三郷』に、機会あれば次のフェーズへ挑戦も」
日本GLPの帖佐義之社長はこのほど、ロジビズ・オンラインの単独インタビューに応じた。先進的物流施設の需要は今後も見込めるとして、年間1000億~1500億円程度の開発を継続したいとの意向を表明。積極的に取り組むことを基本としながらも個々の案件の収益性を厳選して開発するスタンスを堅持していく姿勢を強調した。
またGLPグループとして日本法人を設立してから今年で10周年となる歩みを「立ち止まる瞬間がないほど激動だった」と回顧。中長期的に目指す姿としてより高機能を備え、BCP(事業継続計画)にも目配りした次世代の物流施設開発を進め、物流業界と日本経済の発展に貢献することを挙げた。後編は今後の事業展開を中心に紹介する。
インタビューに答える帖佐社長
関西でも“流山”並みの大型開発に挑戦したい
―2019年の年初に、先進的物流施設は例年通り1000億~1500億円程度の規模で開発したいとの考えを表明していました。これまでの進捗はいかがですか。
「いつも申し上げているように、開発機会が多ければ多いほどうれしいですが、個々の案件の事業性を見極めなければならないし、何でもかんでも手を出せばいいというものではありません。当社の物流施設開発は積極的に、かつきちんと厳選するというアプローチなので、例年くらいの規模になりそうです」
「詳細はまだ申し上げられませんが、未発表の案件が今4~5件くらいあります。年間で考えればかなり早いペースで用地の仕込みが進んでいると感じます」
―供給過多の懸念は常にありますが、先進的物流施設への需要はどこまで続きそうですか。
「物流施設は不動産ですから、もちろんいろんなマーケットの波はあると思っていますし、どこかのタイミングで頭打ちになる可能性はあるでしょう。しかしそれはまだすごく先のことではないか。かねて申し上げている通り、供給が新たな需要を喚起している側面もあると思います。千葉・流山で当社が開発している物流施設のようにスケールの大きなものを造ったとしても需要は喚起できるとみています」
「それに加えて冒頭お話したように、当社は開発事業の採算をかなりコンサバティブにチェックし、収益性に優れた案件だけを厳選していますから、ある程度波が来たとしても十分乗り越えられるのではないか」
―需要はeコマースが引き続きメーンでしょうか。
「もちろんeコマースは伸びていきますが、eコマースの中で扱われているものはほとんどが日雑品です。食品や洋服、雑貨といったもののニーズはeコマースと実店舗のいずれもまだまだ強いのではないかと予想しています」
―先進的施設が必要となる物流効率化の余地も依然残されている?
「そう思います」
―関心のあるエリアはどのあたりですか。
「開発はいつも首都圏が全体の6割、関西が3割、その他のエリアが1割といった感じですし、これからもそうした比率が続くと思います。首都圏に加えて関西でも可能であれば、千葉・流山や神奈川・相模原のように大きなスケールのものに挑戦してみたいですね」
コンサル的営業が競争力の大きな源泉
―BTS型とマルチテナント型で開発の比重は今後どうなりそうですか。
「圧倒的にマルチだと思います。需要は旺盛ですから、まず先に物流施設を建ててからリースしていく方が事業効率としては良い。その結果、マルチ型が増えていくことになる。同時に、用地を押さえておけばお客さまのご要望を踏まえてBTS型に変えることもできます。当社はリース力に自信があるからこそ、そうした発想が可能になってくると言えるでしょう」
―そうした強いリース力の源泉は何でしょうか。
「物流会社出身の営業担当を何人も雇っていますから、単なる物流施設の営業というのではなく、お客さまの役に立つコンサルタントのような提案ができています。そこは強みなのではないでしょうか」
「当社としては別途コンサルフィーを頂戴するという考えは全く持っておらず、お客さまを当社施設に誘致する上で役立てるため、よりクオリティーの高い提案営業をしていこうとのスタンスを取っています。その中で当社子会社のモノフルが手掛けているサービスも取り込み、単に物流施設の床を貸す以上のさまざまな付加価値を提供することができます」
―コンサル的営業は具体的にどのような内容で行っていますか。
「まずは物流拠点の立地戦略から入り、最適な場所はどこなのかを見極めるお手伝いをしています。そこから庫内業務をどう効率化するか、配送網をどう構築していくかという点にも踏み込んでご相談に乗るようにしています」
―デベロッパーがコンサル的業務も手掛けるとなると、局面がもはや旧来の物流施設開発とは完全に変わってきたように思えます。
「物流施設はもはやコストセンターではなく、収益の基となるプロフィットセンターですから必要とされる条件の水準がかつてより格段に高くなっている。もちろん物流施設を使われる方々もプロですから、床だけ提供して後はご自由にお使いくださいというやり方もあるのかもしれませんが、やはりデベロッパーサイドからさまざまな提案ができた方が強みなのではないかと思います」
―昨今は災害が頻発し、物流施設もBCP(事業継続計画)への配慮が強く求められるようになっています。御社はそうしたニーズにどう対応していきますか。
「留意すべきポイントは複数ありますが、その中でかなり大きなウエートを占めるのが電力の確保だと思います。従来のバックアップ電源は非常時に建物の共用部分や事務所の部分へ電力を供給してきました。しかし今は倉庫の中にも電力を供給できるよう備蓄しておこうと考え方が変わってきています。庫内は自動化が進み、必要とされる電力量が増えていますから、非常時でもオペレーションを継続できるとなれば、物流を止めないという社会のための価値あるBCPになります。千葉・流山ではそうしたやり方を取り入れています。他の物流施設にも展開していきたいと思っています」
地元自治体と災害時の協力に関する協定を相次ぎ締結(写真は2018年11月、茨城県五霞町の染谷森雄町長と)
日本市場でのプレゼンスをさらに高めたい
―日本法人設立から今年で10年です。ずっと事業に携わってこられた歩みをどう振り返りますか。
「一言で表すと本当に激動でした。リーマンショックが起こり、プロロジスからわれわれがスピンアウトしてGLPを立ち上げ、Jリートも組成し、物流施設開発ファンドを始めて、と続けてきました。昨年はGLPがシンガポールで非上場企業となりました。立ち止まる瞬間がなかった10年間だったと実感しています」
―日本法人が「日本GLP」に変更となって1年半近く経過しました。これまで変化はありましたか。
「事業上の変化はそんなにありませんが、日本に根差して物流業界、ひいては日本経済の発展に貢献していくという気持ちを社名に表わしており、そうした意識は社員の中でどんどん強くなってきていると思います。同様に、お客さまからも日本の賃貸物流施設市場に強くコミットメントしていくという部分は認めていただけているのではないかと期待しています。日本では既に2兆円近い資産を保有していますし、投資を続けてよりプレゼンスを高めていきたいですね」
―日本GLPとして中長期的にはどのような姿を目指しますか。
「流山のような次世代物流施設を体現していくということですね。今までの物流施設にとどまらない、より効率性、利便性、多様性という機能を持たせたサービスを提供していきたい。あとは流山のプロジェクトのコンセプトで『Co-Solution(コ・ソリューション)』と呼んでいる通り、物流と人と地域の3者が共生し、お互い発展していくという構図をより広めていきたいと思っています」
―御社は数年前から新卒採用を実施されていますが、物流施設開発の業界を目指す人は増えていると感じますか。
「確実にそうだと思いますね。今の学生の皆さんは幼いころからeコマースに慣れ親しんでいますから、われわれの世代とは異なり物流を非常に身近に感じているようです。そういった意味で、いろんな学生の方が興味を持ってくれています。当社の事業は物流不動産という切り口ですが、一方で投資会社、ファンドマネジメント会社としての存在感が非常に強い。不動産の私募ファンドの業界団体が調査した結果でもGLPはファンドマネージャーとしても世界のトップ10にランクインしています。金融系の勉強をしている学生からは、そうした側面に対しても非常に強く興味を持っていただいています」
―金融の分野もより注力していきますか。
「よりファンドマネジメント業務に力を入れていきます。やはりこれだけの規模で開発投資を進めようとすると、全て自社のバランスシートでやるのは限界がありますから、他人資本を使い当社がマネージしていく方がより事業展開の幅が広がり、規模を大きくできます。昨年は6000億円規模の開発ファンドを立ち上げましたが、投資が終わればまた次のファンドの組成という運びになっていくでしょう。開発型の投資ファンドも保有資産が安定収益を生むようになれば、今度はインカム型のコアファンドというふうに形を変えて別の投資家から投資していただけるようにもなりますし、不動産事業とは少し違うベクトルですがビジネスの拡大機会はすごくあるとみています。そうなれば不動産市場のサイクルにあまり影響されない、より強固な経営基盤となっていくでしょう」
背景には「GLPならきっと、GLPならもっと。」のメッセージ
(本文・藤原秀行、写真・中島祐)