石破首相、トラックドライバーや運送会社社長と車座で会談

石破首相、トラックドライバーや運送会社社長と車座で会談

賃上げ実現へ「物流の常識根本から変える施策に取り組む」と決意表明

石破茂首相は3月14日、首相官邸で現役のトラックドライバーや運送会社社長らと車座で会談した。

首相官邸が公式サイト上で公開した動画によると、石破首相は席上、同日に開催した関係閣僚会議で現行の「トラック・物流Gメン」などを生かし、荷主企業が運賃・代金にコスト上昇分を適正に転嫁するよう促進していくよう指示したことを報告。

 
 

「実際にドライバーの皆様方が実感できる成果を得られるよう、今後とも政府として物流の常識を根本から変えていくための施策に、迅速に取り組んでいく」と述べ、トラックドライバーの確実な賃上げ実現に強い決意を示した。


車座の会談に参加した石破首相ら

車座の会談にはドライバーとしてボルテックスセイグン(群馬県安中市)の加藤研一氏と福山通運の田中咲衣氏の2人、運送会社経営者としてマキタ運輸(宮崎県都城市)の牧田信良代表取締役とフジトランスポート(奈良市)の松岡弘晃代表取締役の2人がそれぞれ参加。全日本トラック協会の坂本克己会長も出席した。

政府からは赤澤亮正経済再生担当相、中野洋昌国土交通相らが同席。進行役は国交省の鶴田浩久物流・自動車局長が務めた。

冒頭、石破首相は「重要インフラの物流を支えていただき、厚く御礼申し上げる」と謝意を表明。率直にトラック輸送業界の現状を伺いたいと呼び掛けた。

赤澤担当相がトラックドライバーの給与や運賃の現状を尋ねたのに対し、牧田氏は「南九州から消費地への農産品輸送は運賃の負荷が掛かるところ。飼料や肥料、農業資材の高騰で、生産者の方々と価格交渉をする環境になっていない。堂々と交渉できる環境にしていただきたい。今年あたり、大幅な賃上げをしないと(物価上昇に)間に合わない」と述べた。 

 
 

加藤氏は「国が標準的な運賃を示していただいたので、給料の状況は段階的に、少しずつ増えている」と歓迎。同時に、「長距離輸送に関わるドライバ―は、物流2024年問題の影響で労働時間の規制を受けて、長距離輸送の回数が減少し、実質、給料が下がっている。私の父親も同じ会社でトラックのドライバーをしていたが、そのころは走れば走るほど稼ぐことができた。しかし今は稼ぎたくても稼げない職種になってしまったのかなというのが実感だ」と胸の内を明かした。

赤澤担当相が、採用の状況について質問したところ、松岡氏は「約10年前からSNSに非常に力を入れ、特にYouTubeを活用したところ、ドライバーが応募にきていただけるようになった。今、社内にはYouTuberが少なくとも15人いる」と明かした。

「日ごろの長距離(運送の仕事)の姿をアップしたらどんどん応募が増えた。昨年1年間で従業員を650人、そのうちドライバ―だけで499人採用することができた。今は採用にあまり困っていない」と語り、トラック運送業界でもSNSを使った求人をすべきだとの見解を示した。

さらに、ハローワークでも求人内容を丁寧に記載するようにしたり、自社のホームページをしっかりと作り込んだりしたことも、応募増につながっていると明かした。

田中氏は、高校卒業後、福山通運に入社し、支援制度を利用して中型免許を取得、集配ドライバーとして働いているなどと自己紹介。「若い世代や女性が働きやすくなるためには、免許取得やキャリア形成を支援できる体制を業界全体で整えることが不可欠だと考えている。女性は柔軟な勤務体系や育児支援の充実で仕事と家庭の両立ができるようになる」と訴えた。

加えて、高速道路のSAに女性ドライバー専用の休憩室や仮眠室を整備したり、荷物を軽く取り扱いやすいものにしたりすることを提唱。政府が2027年度に導入を予定している大型トラックのオートマチック車限定免許についても「すごくありがたい。(免許取得の)負担が軽減される」と歓迎した。

 
 

中野国交相が、荷主企業に改善を求めることを聞いたところ、牧田氏は「商習慣の見直しをしっかりしていただきたい」と要望。具体例として、1日当たりの走行可能な時間が限られる中、客先でドライバーが慣れない場所で普段使っていないフォークリフトを用いて作業を強いられることを挙げた。また、トラックドライバーが法定の休息をするための場所が不足していることにも触れ、「路上に車を停めて休むしかない。そういう環境のところに人が集まってくれるかということがある。できれば立派なトラックステーションを作ってほしい」と切望した。

加藤氏は、自社で物流の効率化について荷主と協議しており、納品の予約システムを導入して荷待ち時間の短縮に勤めていることを紹介。その上で「システムを導入しても1時間近く待機することがある。また、荷主からの時間指定を受けた時、時間通りに到着するために早めに現場へ向かうが、周辺に待機場所が少なく、離れたところで待機せざるを得ない状況。計画的な輸送体制を荷主さんには築いてほしい」と求めた。

石破首相は坂本会長に対し、さらに賃上げをするためにはどうすればいいのか要望を尋ねた。坂本会長は「荷主に対してきちんと運賃を収受する環境はおかげ様でできつつあるが、賃上げの原資は荷主さんからいただくしかない。われわれも死に物狂いでやろうとしている。もうちょっと給料が足りない。業界は自助努力で無茶苦茶頑張る。トラックは日本経済の生命線だ」と主張。政府にも引き続き、運賃適正化を後押しするための支援を求めた。

石破首相は最後に「賃上げのために、価格転嫁のために必要なことをやらせていただく。商慣行はなかなか根深いものがある。荷主の方々の意識改革、行動変革のための施策を強力に進めていきたい。トラック輸送事業の魅力発信もできるお手伝いは政府としてもやっていきたい」と総括。

「実際にドライバーの皆様方が実感できる成果を得られるよう、今後とも政府として物流の常識を根本から変えていくための施策に、迅速に取り組んでいく。どうか業界におかれても、果敢な価格交渉、確実な賃上げを勝ち取るよう、政府としても荷主に働き掛けていくが、よろしくお願いしたい」とエールを送った。

(藤原秀行)※写真はいずれも首相官邸公式サイトより引用

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