第30回:中東リスクを真剣に考えるべき時
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ビニシウス氏(ペンネーム):
世界経済や金融などを専門とするジャーナリスト。最近は、経済安全保障について研究している。
代替手段の確保など不可欠
今年6月、中東情勢はイランとイスラエルの軍事的応酬の激化により一気に緊迫度を増した。米国はトランプ政権下でイランに空爆を実施、国際社会の注目が中東に集まった。この衝突は地域の不安定化を加速させ、日本企業にとっても無視できないリスク要因となっている。
トランプ大統領が停戦を発表し、軍事衝突は一時的に沈静化しているものの、イランが核開発の放棄を拒否する姿勢を崩さず、イスラエルや米国が再び空爆する可能性を示唆する中、日本企業は中東リスクを踏まえて慎重かつ迅速に対応する必要がある。
イスラエルはイランの核施設や関連インフラへの攻撃を繰り返し、イランも報復としてミサイル攻撃や代理勢力を通じた反撃を展開。そこにトランプ政権が介入し、イランの核施設を標的とした空爆に踏み切った。
今回の軍事衝突は、原油価格の高騰や中東地域への物流網の混乱を引き起こした。特に、ホルムズ海峡周辺での緊張が高まり、エネルギー供給の安定性が根本から大きく揺らいだ。6月末、トランプ大統領は「さらなる衝突の回避」を理由に停戦を発表したが、イランは核開発計画の継続を明言。イスラエルと米国は必要であれば再び軍事行動に踏み切る可能性を示唆しており、緊張は解消されていない。
日本はエネルギー資源の多くを中東に依存しており、特に原油の約9割を輸入している。イランとイスラエルの衝突がホルムズ海峡の封鎖や物流の混乱を引き起こした場合、エネルギー価格の高騰は避けられない。製造業や運輸業など、エネルギーを大量に使用する日本企業にとってコスト増を意味する。例えば、石油化学製品や輸送コストの上昇は、製品価格への転嫁や利益率の低下を招きかねない。
また、中東に進出している日本企業も直接的なリスクに直面している。建設、インフラ、エネルギー関連企業は、現地のプロジェクト遅延や安全性の問題に直面する可能性がある。現地での日本人駐在員の安全確保も課題となり、一部の企業は既に中東のおける駐在員の最小化を検討している。
日本企業にとって、中東情勢の不確実性は事業戦略に大きな影響を与える。まず、エネルギー供給の安定性を確保するため、調達先の多角化が求められる。日本は石油の多くをサウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)などに依存しているが、中東を覆う地政学リスクを考慮すれば、中東以外の地域への石油依存を強化することも一案だ。
危機管理体制の強化も不可欠だ。現地での情報収集やリスク評価を強化し、緊急時の対応計画を整備する必要がある。特に、ホルムズ海峡の封鎖や紛争の再燃に備え、物流ルートの代替案や在庫管理の最適化が求められる。企業によっては、サプライチェーンの見直しやリスク分散のための新たな投資を検討することもあり得よう。
イランの核開発をめぐる問題は未解決のままでイスラエルや米国が再び軍事行動に踏み切れば、中東全体の不安定化がさらに進む可能性がある。国際社会は国連や外交ルートを通じて緊張緩和を模索しているが、当事者間では全く歩み寄りが見えない。
日本企業にとっては、中東情勢の動向を注視しつつ、柔軟かつ迅速な対応が求められる。政府も企業と連携し、エネルギー安全保障や経済的影響の最小化に向けた支援策を強化する必要がある。例えば、戦略的石油備蓄の活用や、中東以外のエネルギー供給国との関係強化が有効な対策となり得る。
最後に、イランとイスラエルの軍事的応酬は、トランプ政権の空爆と停戦発表により一時的に落ち着いたものの、根本的な解決には見られず、日本企業にとっての中東リスクは依然として高い。エネルギー価格の高騰、物流の混乱、事業環境の悪化など、複数のリスクが顕在化する可能性がある。企業はリスク管理を徹底し、調達先の多角化や危機対応体制の強化を図るべきだ。政府と企業の連携を通じて、中東情勢の不確実性に備えた戦略が求められる今、迅速な対応が日本経済の安定に不可欠である。
(了)