日本企業の8割が「地政学リスク」重要視、でも4割が対応せず

日本企業の8割が「地政学リスク」重要視、でも4割が対応せず

PwC Japanグループ調査で意識と行動のギャップ判明

PwC Japanグループは7月12日、ある特定の国や地域で政治・軍事的緊張が高まることでその地域や世界経済全体に悪影響を及ぼす「地政学リスク」に関する国内主要企業の対応の実態調査結果を公表した。

海外で事業展開している企業の担当者のうち、「地政学リスクマネジメントは会社の経営戦略にとって重要」と答えた割合が全体の78・7%に上った半面、具体的な対応を尋ねたところ、「対応を取っていない」と回答したのが39・1%に達し、意識と実際の行動にギャップが見られることが明らかになった。また、対応を講じる上で必要なスキルを持った人材の確保などが課題となっている現状も浮き上がった。

調査結果をプレゼンテーションした同社地政学リスクチームリーダーの舟引勇氏は「単にカントリーリスクの延長線上と捉えて事象が起きてから対応を検討するのではなく、将来起こり得る地政学リスク事象を予想、経営陣自らが主導して取り組むべきだと強く認識する必要がある」と訴えた。

過去の経験は「サプライチェーンと調達戦略を調整」が最多

調査は今年3月、年商100億円以上または従業員500人以上の企業を対象に、主に経営企画や事業企画、リスク管理、海外事業に関する業務に就いている課長職以上の400人から回答を得た。このうち海外展開している企業の担当者は258人だった。

海外展開している企業の担当者のうち、ビジネスに関して地政学リスクが過去3年間で「著しく高まっている」としたのが17・1%、「やや高まっている」が51・9%で合わせて約7割に達した。日本のみで事業展開している企業の担当者はそれぞれ7・7%、37・3%だった。

海外展開している企業の担当者に、最も懸念される地政学リスクを3つまで選択してもらったところ、「貿易摩擦(米中間)」が17・5%で最も多く、「中国国内政治・経済の不安定化」(14・5%)、「ロシア・中国・北朝鮮などのサイバーアタック/サイバーテロ」(7・5%)、「保護主義政策(米国、欧州)」(同)、「中国の台頭による周辺国との軋轢(一帯一路、テクノロジー、南シナ海での領有権をめぐる対立など)」(同)といった項目が続いた。

過去に地政学リスクによる悪影響や損失を被った経験を有しているのは海外展開企業の回答者の56・6%(153人)を占めた。この人たちに、実際にどう対応したかを尋ねた結果(複数回答)、「サプライチェーンと調達戦略を調整」(24・2%)、「成長領域を別の国・地域にシフト」(14・7%)、「生産を別の国・地域にシフト」(13・0%)、「事業の撤退・売却」(11・7%)、「海外直接投資を延期」(9・5%)などとなった。

「専門スキル持った人材いない」がネック

海外展開企業の回答者のうち、地政学リスクマネジメントについて、自社の経営戦略にとって「とても重要」としたのが26・0%、「やや重要」が52・7%で約8割に及んだ。「重要ではない」は10・1%だった。

対応方法を問われたのに対し(複数回答)、「専任ではないが社内に対応チーム(部署)がある」は39・1%、「社外の専門家に依頼している」は12・8%、「社内に専任チーム(部署)を設けて対応している」は12・0%。同時に、「対応を取っていない」も39・1%存在した。

対応時のネックになりそうなものとしては(複数回答)、「専門スキルを持った人材がいない」が最多で31・2%。この後は「対応リソースがない」(20・2%)、「対応コストがない」(11・5%)、「社内での意見が集約できない」(9・4%)、「具体的に誰に依頼すればよいか分からない」(8・6%)などとなった。

(藤原秀行)

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