「物流機器ユーザーのニーズ・評価はよりシビアになっている」

「物流機器ユーザーのニーズ・評価はよりシビアになっている」

UBS証券 株式調査アナリスト 水野晃ディレクター

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UBS証券のマーケットリサーチ部門「UBS Evidence Lab」が行った通算3回目となる物流機器投資ヒアリング調査では、サンプル回答者数を130人と前回調査(110人)から拡大させるとともに、対象地域である米国・欧州・アジア(日本含む)の中でもアジア企業のヒアリングを充実させた。

具体的な内訳は公表できないが比率的には日本企業が高く、人手不足への対応が喫緊の課題となっている日本の各産業セクターにおける物流機器投資の計画・動向・認識を反映することができたと考えている。

その結果、物流機器やロボットといった自動化投資はこの1年間で8%強、向こう3年間でも年平均5%弱の投資成長率が確認されたことから、世界的にユーザーの投資マインドは強くなっているといえるだろう。

投資を増加させる背景・理由として「人手不足」を挙げたユーザーが40%台、また「既存設備が使いにくい」との回答も20%台後半と前回調査から10ポイント近く上昇。その半面、前回調査で最も多かった「処理能力の拡大」は50%を下回った。

これにはさまざまな要因が想定されるが、一つに米中貿易摩擦の影響から世界経済における先行きの不透明度合いを懸念しているユーザーが少なからず存在することも無関係ではないとみる。投資に対しては前向きである一方、米中問題などマクロ要因については静観するとのスタンスが処理能力の拡大に慎重な見方をもたらしていると考えられる。

逆に言えばユーザーの生産・販売には多少の余裕が出てきたとも捉えられ、この間に自動化投資計画をブラッシュアップさせて、優れた製品があれば積極的に取り入れようと吟味する意向がはっきりと感じられた。実際にユーザーの物流機器サプライヤーに対する評価基準は厳しくなっているもようだ。

前回調査からヒアリング項目に追加した「投資案件をキャンセル・遅らせた理由」では、これまで高いウエートを占めていた「資金調達」「費用対効果」が大幅に低下するなど、ユーザーの経営状況や投資環境は整備されているとみていいだろう。物流部門への投資プライオリティーは高まっていることを裏付けている。ただ世界経済の先行きに対する見方は各ユーザーで異なるため、自動化投資の行方を画一的・確定的に判断するのは難しい側面もある。

地域別の投資成長率では米国が12%と突出している。前回調査時は米アマゾンによる異業種買収“アマゾンエフェクト”の脅威からユーザーが保守的な見方を示した可能性があり、状況が落ち着いた今回は投資に向けて再び動き出したユーザー・案件が増えているケースも想定される。

他方、5%にとどまったアジアは中国の景気減速が影響した点は否定できない。ここ数年にわたって市場を席巻してきた中国系EC大手が収益面で苦戦していることも影響していそうだ。ただし域内全体での潜在需要は引き続き高く、とりわけ日本は物流業界などで自動化プロジェクトは極めて多い。これらを加味するとアジアにおける自動化投資のポテンシャルは、今回の調査結果をはるかに上回る水準にあるのではないだろうか。

総体的に足元のマーケットが落ち着いているため、ユーザーは投資に関する選択肢や方向性をいろいろな角度から見極めている状況だ。サプライヤーの変更理由でも従来のイニシャルコストに固執するのではなく、ソリューションのクオリティーや納期面を重視する傾向が把握できた。ユーザーに自動化のノウハウが徐々に蓄積され、サプライヤーの評価は一層シビアになってきている。

物流機器マーケットは引き続き堅調に推移していくと目される中、経験を積んだユーザーは価格とニーズのベストマッチを今まで以上に追求するだろう。これまではサプライヤーへの依存度が高かった物流機器投資。今後はユーザーが自社で対応できない部分にサプライヤーを起用する投資案件も増えて、プロジェクトの形態が多様化する可能性があるかもしれない。


UBS証券・水野晃ディレクター

(聞き手・鳥羽俊一)

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