データ活用が拓くサプライチェーンの新潮流
~標準化・リアルタイムデータ・AIで変わるダイナミックSCM~
データプラットフォームを開発するインターシステムズジャパンが2025年11月、強靭で効率的なサプライチェーン実現に向けたデータ活用をテーマにリアルセミナーを開催した。各界の識者が語った最新事例や課題解決に向けた施策について、誌面で再現する。(本誌編集部)
環境変化に挑むAIエージェント
KPMGコンサルティング 室住淳一 執行役員 パートナー/横田浩一 シニアマネジャー

室住氏

横田氏
自然災害や地政学リスクなど将来の不確実性が高まる中、技術主導・効率重視の「インダストリー4.0」は、人間・社会主導、価値重視を基本理念とした「インダストリー5.0」へ進化した。この理念を実現するアジェンダの一つがAIエージェントだ。自律的にタスクを遂行し、環境変化に対応しながら最適判断を下す。
様々なユースケースに対応するには、領域ごとに特化したAIエージェントが協調しながらタスクを進める「マルチAIエージェント」の仕組みが適する。全体指揮を担う「オーケストレーションAI」がユーザーの意図を理解した上でタスクを細分化し、各領域に特化した「特化型AIエージェント」に割り振って進捗を確認しながら全体最適化を図る。
データマネジメント体制の整備も重要だ。社内外のデータにアクセスする頻度が高まるため、広範で精度の高いデータを継続的に提供するレイヤーが必要となるほか、データの品質管理やガバナンス構築も求められる。
具体施策としては、①データの意味や利用ルールを整備するメタデータ管理②正確性や一貫性を担保するデータ品質管理③顧客や商品情報などのマスタデータ管理④データに対する各部門の役割を明確化するAI・データガバナンス⑤アクセス制御や暗号化などのデータセキュリティ⑥各ユースケースに必要なデータを適時に落とし込むAI・データプラットフォームライフサイクル管理⑦最先端技術をキャッチアップするAIエージェント開発支援──の七つだ。
企業が抱える課題やデータ・AI活用の成熟度は千差万別で、状況に応じたアプローチの検討が求められる。段階的に着手し、成功体験を積み重ねることによって持続的なデータ・AI活用の推進が実現できる。
実商品とウェブつなぐ“共通言語”
GS1 Japan(一般財団法人流通システム開発センター) 前川ふみ ソリューション第1部 RFID・デジタル化推進グループ長

前川氏
GS1は、商品識別コードやそれをスキャナーで読み取れる形にしたデータキャリア(一次元・二次元コードやRFIDタグ)、読み取ったデータをシェアする仕組みの標準化を行い、流通効率化および可視化を推進する国際的組織だ。スーパーの商品などにつけられているバーコードも、国際標準の識別コードをバーコード化したもので、日本で製造された商品が輸出されても、輸出先の小売店でスキャンすることができる。
バーコードやQRコードに今、国際標準である「GS1 Digital Link」( G S 1デジタルリンク)を用いた新たな役割が期待されている。これは商品識別コードからウェブ上の情報・サービスの場所を発見するための仕組みで、コードを読み取ると商品情報の取得だけでなく、複数のウェブページへの誘導が可能となる。
オランダの粉ミルクメーカーでは、ミルク缶の底にGS1デジタルリンクのQRコードを印字している。消費者がコードを読み取ると、各製品のトレーサビリティ情報に誘導される仕組みだ。日本でも医療用医薬品や医療機器のバーコードを読み取ると添付文書にアクセスできるサービスがある。
データをシェアする仕組みとして、「梱包」「出荷」など、サプライチェーン上の作業を共通化された語彙やフォーマットで記録し、共通の方法で取得できるようにする国際標準「EPCIS」も紹介したい。EPCISを利用することで、複数事業者をまたいだアプリケーションの構築がしやすくなり、一気通貫のサプライチェーン可視化が実現できる。
データ共有の重要性が増す中で、サプライチェーン全体の効率化に向け国際標準の果たす役割は今後も高まっていくだろう。
RFIDがモノの動きを可視化する
TOPPANエッジ 岡 正俊 IDビジネス統括本部長

岡氏
帳票類の製造販売を祖業とするTOPPANエッジは、情報のデジタル化が進む中でRFIDに着目。RFIDタグの製造から、読み取り機器やソフトウエア開発などへ業域を広げ、現在は取得した実空間データの分析・利用によって、業務効率化・最適化につなげるソリューションを提供している。
完成車物流の事例を紹介する。自動車は購入者ごとにカスタマイズされ、製造ラインでは、どの購入者向けの車両かを把握している。だが保管ヤードでは車両を特定するのに時間を要していた。そこでRFIDとGPSを組み合わせた車両管理システムを提案した。
車のフロントガラスにRFIDタグを貼り、運搬作業者が運転席で、着用したウエアラブル機器のボタンを押すと、車両と運搬作業者の組み合わせが認識され、スマートフォンのGPSと自動連携。どの車をどの位置に停めたかをデータで記録でき、車両特定までの時間が大幅に短縮された。
取得した情報の更なる活用に向け、インターシステムズの「IRIS」(アイリス)を利用してサプライチェーンの可視化を支援するサービスをリリースした。これまでも自社RFIDタグの生産工程情報を取得し、トレーサビリティ管理にIRISを活用してきた中で、高いパフォーマンスがあると判断し、新サービスでの採用を決めた。
最新版標準仕様「EPCIS2.0」に対応した今回のサービスでは、例えば医療関連ならばメーカー、卸、病院といったサプライチェーンの各段階において、全体のデータを見ることができる。データ連携までには至っていないが、将来的には消費期限切れを防ぐことのできる医療品管理体制の構築など、医療現場の課題解決に活かしたい。
独自AIサービス支えるデータ基盤
インターシステムズジャパン 佐藤 比呂志 シニアアドバイザー/奥山 朋 セールスエンジニア

佐藤氏

奥山氏
システム開発は今後、従来の「ベンダー任せ」では難しい。各企業は自社データを活用した独自AIサービスの内製化に取り組まなければならない。
データ整備の過程で行く手を阻むのが、データのサイロ化問題だ。システムは業務領域やバージョンが様々あり、生成されたデータも物理的な格納場所が違うだけでなく、同じデータでもシステムごとに違った表現となる。
この問題には様々な対応が試みられてきた。「DWH(データウエアハウス)」にデータを統合する手法やデータをそのまま保存する「データレイク」。現在はDWHとデータレイクの長所を合わせた「データレイクハウス」が普及している。
だが一方で、データのコピーが各所で発生したほか、メールや音声データ、画像データなどシステムで活用しにくい「非構造化データ」も増殖しており、「データを溜める」従来のアプローチから、リアルタイムでデータを処理する必要が生じている。注目されるのは、データを取得段階から必要な形にして流し込む「データパイプライン」というアプローチだ。
AI時代のデータ利活用

データパイプライン整備でインターシステムズが展開するのが、データプラットフォーム「IRIS」だ。AIと相性のいいプログラミング言語「Python」で処理を一体運用できるようにし、アプリケーションも稼働できる点が、一般のデータベースと異なる特徴だ。
ChatGPTと連携させたシステムでは、例えば既存の就業規則データを読み込ませ、介護休暇取得の問い合わせに回答するといった仕組みが構築できる。就業規則や取引データなどセンシティブなデータを外部のAIに読み込ませるのは問題が生じかねないが、社内システムへの実装で情報を外部に出さずAIを活用できる。
共同輸配送×検品レスで物流効率化
キユーピー 前田賢司 執行役員 ロジスティクス本部長

前田氏
キユーピーの物流はグループ会社のキユーソー流通システムが担っている。当社比率は全体売り上げの約18%。他複数メーカーの商品を1台のトラックで共同輸配送する。
加工食品物流に問題意識を持ったのは2011年の東日本大震災だ。商品が作れない、運べない状況の中、「賞味期限まで3分の2未満の商品は届けない」「注文日の翌日配送」といった従来の商習慣が取り払われた。この経験が過度の鮮度競争・リードタイム競争の見直しへと向かわせた。
まず卸売業の加藤産業と13年に取り組んだのがパレット単位のASN(事前出荷情報)データ作成による「検品レス」だ。18年夏からは他得意先にも、荷物が集中する繁忙期にリードタイムを1日延長する取り組みを広げた。後押しする声も高まり、20年12月に食品メーカー8社、卸売業6社と共同ワーキングを開始。22年4月には小売業団体も加わり、翌々日配送が標準化された。
共同輸配送のためキユーピー個社だけ検品レスにしても全体効率は上がらない。19年には車両単位の検品レスに着手。その後「ユニット型」パレット単位の検品レスへと進化させた。キユーソーがVAN会社ファイネットと契約することで、共同輸配送する他メーカー商品のASNデータも送信でき、卸側が車両全体のASNデータを取得できるようにした。
ASNデータの一括送信に当たっては、各社共通の輸配送先コードや商品マスタの整備が不可欠となる。当面はキユーピーの荷物情報はデータ、他メーカーの情報はエクセルで対応できる体制を整え、来春までに他メーカーの荷物情報もデータで送れるよう動いている。
検品レスが効果を上げるには発注をまとめることが大きい。他メーカーや物流事業者にも広げて業界全体の車両回転率を上げ、標準化につなげたい。
お問い合わせ先
インターシステムズジャパン株式会社
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