ドキュメント・アスクル株主総会(後編)「ゆゆしき緊急事態」vs「本当にそうなのか疑問」

ドキュメント・アスクル株主総会(後編)「ゆゆしき緊急事態」vs「本当にそうなのか疑問」

提携パートナーが繰り広げた“冷ややかなバトル”

アスクルが8月2日に東京都内で開催した定時株主総会は、資本・業務提携しているヤフーや第2位株主のプラスの反対により、岩田彰一郎社長と独立社外取締役3人の再任が否決、事実上解任されるという異例の展開となった。

アスクルが手掛ける個人向けインターネット通販「LOHACO(ロハコ)」の収益改善をめぐって、ヤフーとアスクルは意見が対立しており、総会でも両社がそれぞれの立場から見解を主張し合う“冷ややかなバトル”の場面が見られた。

ガバナンスの在り方などの観点からも関係者に大きな波紋を広げた総会のドキュメント後編は、中盤から再任否決のクライマックスに至るまでの過程を振り返る。


株主総会の会場

取締役再任提案は正当との見解強調

株主からの質問は続く。ある株主はなぜヤフー、プラスの大株主2社から再任反対を突き付けられたのか、背景を尋ねるなどした。

岩田社長は「親会社、支配株主がある中の上場子会社は、少数株主の利益を守るためにいくつかのコーポレートガバナンスという約束事がある。その中の1つが独立社外取締役を入れるということ、そしてもう1つはきちんとしたプロセスを設定しようということ。アスクルの場合は報酬指名委員会があり、そこで議場にお諮りする役員候補を選定している。その上で、独立社外取締役も入った取締役会で決める」と基本的な部分をまず解説。

その上で、「6月27日にヤフーの川邊(健太郎)社長が弁護士さんと一緒に当社へいらっしゃって、大株主2社としては再任に反対するという通告を受けた。それは最終的な決定事項だから、黙って受けてくださいということだったが、上場企業社長は公の存在だから、きちんと指名報酬委にもう一度諮って、独立役員の皆さんの決定に従おうということで7月3日の同委に、どのようにすべきか諮った」とあらためて経緯を振り返った。

「その結果、同委の中で議論を再度していただき、小澤さん(ヤフー役員兼務の社外取締役)にも意見を聞いた上で、私はもう一度ちゃんと株主総会の皆さんにお諮りするべきだという方針があり、その後の取締役会で、最終的に多数決で決議した」と克明に説明。アスクルによる取締役の再任提案は正当との見解を強調した。


ヤフーの川邊健太郎社長(2019年2月撮影)

「あらゆるリスク対策講じるべき」と暗に体制批判か

中盤から、ヤフーサイドの見解もただされるようになってきた。ある株主は「誰がLOHACOの業績を回復させる可能性があるのかを冷静に判断すべき。その上で、株主として知りたいのは、現経営陣の再建プランはうかがったが、もし経営陣を入れ替えるとすると具体的にどういう計画でLOHACOを改善していくのか、報道で見る内容ではその計画はアスクルというよりヤフーの利益を重視するのではないかということで、少数株主の利益を毀損されるのではないか」と率直な胸の内を明かした。

その上で、ヤフー出身の輿水宏哲取締役とヤフー役員を兼務している小澤隆生社外取締役に対し、今後具体的に再建のどのような計画があるのか、それがアスクルの少数株主にとってどんなメリットがあるのかとの思いをぶつけた。

小澤氏は「ヤフーとして何かプランがあり、それを押し付けることこそアスクルの独立性を侵すものだから、そういったものを幅広く掲げてお話をしているわけではない。最大限アスクルのプランをしっかりバックアップしていきたい」と強調、あくまでLOHACOの収益改善についてはアスクルが前面になって推進していくべきものとの見方を強調した。

しかし、同時に「問題なのは執行。いかにちゃんとやっていただくか、今の経営陣でちゃんとやれるのか、がまさにここで問われている。あらゆるリスク(対策)を講じながらしっかりと執行していくべきであり、何かが起これば適切に処理して掲げた数字を実行していく。やり遂げる執行体制はどういうものなのか、選んでいかないといけない。それは少数株主であろうが、大株主であろうが立場は変わらない」と発言。物流センターの火災や宅配料金値上げを収益悪化の要因として説明する岩田社長らの姿勢を暗に批判したとみられる。

次に登壇した輿水取締役は「LOHACOは創業以来赤字が続いていて、昨年は95億円とかなり大きな額になってしまった。自分が再任されたらきちんと(収益改善のための立て直しの)プランを実行していきたい」と、アスクルサイドの人間としての見解を示した。

この回答を受け、先の株主が再度質問。「執行のスピードややり方は別として、現在のLOHACOをアスクルの中で、今日の再建計画の延長線上で確実にやり遂げていくのは株主として安心して見守っていいのか」と再度確認した。小澤氏は「基本的にはこの総会の場を通じて選ばれた執行体制でしっかり戦略を考え、それを実行に移していくものだと思っている。私も再任されれば最大限のサポートをしていくことになる」とコメントした。

小澤、輿水両氏の説明に対し、岩田社長が補足を申し出た。同氏は「代替プランがあるわけではない、現在の当社プランで行くという内容の確認だったと思う。再任されないといわれている4人を除けばアスクル側の執行体制も全く変わらない。きちんと見ていかないといけないと思っている」と念押しした。


記者会見でヤフーの対応に強い懸念を表明するアスクル独立社外取締役の戸田一雄氏。今回の株主総会で同氏も再任を否決された

「『いったん』とはどういう意味か」と議長から突っ込まれる

その次に質問した株主は、岩田氏と独立社外取締役3人の計4人の再任反対で議決権行使したことがコーポレートガバナンスの観点から問題があるとの見方を示し、ヤフーサイドの見解をただした。

小澤氏は「まず議決権行使自体は正当なもの。一方で私どもが今回議決権行使をすることでコーポレートガバナンスがおかしくなるのではないかとの疑念はおっしゃる通りだと思う。われわれも大変苦渋の選択であり、非常時と認識しているので一刻も早く正しい形に回復しなければならない、こういうことを繰り返しやるのはわれわれがやりたいことではない。アスクルの株式価値、企業価値最大化のために今はやむにやまれずやってしまっている」と理解を求めた。

同じ株主からは、岩田氏ら4人を交代させなければいけないほどの緊急事態なのかと再度確認の質問が出された。小澤氏は「われわれとしてはゆゆしき緊急事態だと考えている。売り上げ500億円に対して90億円超の赤字はいろんな事情があるにせよ、事業としてこれは看過できない」と強調した。

これに対し、岩田社長は「LOHACO事業はヤフーさんと共同で成功させようという建て付けで一緒にやっている。毎月赤字の状況は共有している中で、なぜここまで緊急なのかというのは私自身も疑問」と痛烈な皮肉を述べた。その上で「株主権の行使はもちろん最大の権利だが、親子上場の状態の中で、親会社がむやみに利害相反を含めた株主権を使い、いろんなことをしようとすること自体を抑制するために存在する独立社外取締役を外してまでやらなければいけない緊急な状況が本当にあるのか、非常に疑問に思っている」と冷や水をヤフーサイドに浴びせかけた。

他の株主が、岩田氏退任の場合にエージェントとの関係に影響が生じるのではないかと懸念を表明したのに対し、小澤氏は「BtoB(法人向けEC事業)としては非常に伸びしろがあるのではないかと思っている。LOHACOに投資している量とBtoB分野に投資している量のバランスは本当にこれで良いのかな、とは1株主として前から思っていた」と説明。岩田氏ら執行部のEC事業のスタンスに疑問を投げ掛けた。

この後も、別の株主が「ヤフーは今後、アスクルからLOHACO事業を分離する可能性があるのか。イエスかノーかで答えてほしい」と輿水取締役に迫ったのに対し、同氏は「アスクル内できちんと審議をし、取締役会で(ヤフーに)譲渡しないと決めたので、今はいったんそういう考えはないのかなと認識している」と含みを持たせているかのような回答をした。

そこに岩田社長が議長の立場から「『いったん』とはどういう意味なのか」と突っ込むと、輿水氏が「私としてはノーと考えている」と言い直し、ヤフーとアスクルの対立を体現するようなやり取りとなった。一方、別の株主の似たような質問について、小澤氏は「LOHACO事業をヤフーに持ってくることはない。そこははっきり申し上げる」と言い切った。

また、プラス社長の今泉公二社外取締役が総会に欠席していることに言及し「肝心な時に来ないような人を取締役で再任していいのか」とかみついた株主に対し、岩田氏は「欠席は大変遺憾なことと考えている」と応じると同時に「プラスさんは私にとって本当に恩人であり、アスクルが生まれた母体だから本当に大切に思っている」とフォロー。その恩人が自身の社長再任反対を突き付けてきたことに対して苦しい胸の内をのぞかせた。


総会終了後、報道陣の前に姿を現した岩田氏

ヤフー出身者の採決時はまばらな拍手

質疑応答の終盤には、株主から「トップを変えても業績改善が見られなかった場合、岩田社長が復帰する可能性はあるのか」と、岩田氏の進退を問う声が出た。同氏は「総会で取締役として認定されなかった場合は、それにきちんと従う。必要という声がなければ、私自身が復帰したいとか社長職を継続したいとか、そういう気持ちはない」と明言した。併せて、独立社外取締役の不在という異例の事態を解消するため、臨時株主総会を早期に開く必要があると指摘した。

質問が出尽くし、12時前に取締役選任議案の採決がスタート。10人の候補それぞれに採決を進めた。岩田氏が議長として自らの名前を挙げた時には総会会場に集まった個人株主から大きな拍手が上がり、独立社外取締役3人も同様だった。半面、輿水、小澤両氏への拍手はまばらで、欠席した今泉氏に至っては名前が読み上げられても拍手が起こらず会場が静まり返った。少数株主の反応を象徴するかのような場面だった。「過半数の採決を得られなかったので否決された」。岩田氏の冷静なアナウンスが響き、総会は幕を閉じた。

「支配株主からの強いプレッシャーがあるが、少数株主を思い出して行動してほしい」。総会後に報道陣の前に姿を現した岩田氏は、残るアスクルのメンバーに、ヤフーとしっかり対峙していくようエールを送り、ECの表舞台から去っていった。

(藤原秀行)

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