成長領域へ経営資源を大胆にシフト
ヤマトホールディングス(HD)の長尾裕社長と、同社の次期社長に決まったヤマト運輸の櫻井敏之常務執行役員は1月22日、東京都内で記者会見し、開始から50周年を迎えた宅急便などの事業基盤を強化していくことに強い決意を示した。会見内容の詳細を前後編に分けて紹介する。

会見する櫻井次期社長(右)と長尾氏
「18万人による全員経営目指す」
▼冒頭発言
長尾氏
櫻井さんは海外事業、IT・デジタル領域、法人営業と幅広い事業を経験した上で、グループの経営戦略担当、事業会社社長を歴任し、確かな実績を積み上げてきた。宅急便事業の責任者として指揮を執り、変化の激しい環境の中であっても客観的事実に基づき合理的判断を行う決断力、そして現場課題を俯瞰して自らの視点で戦略・課題を設定し、解決に向かう実行力を示してきた。
ヤマトグループの今後の成長実現に向けて、これまで推進してきた経営構造改革、ならびに事業構造改革のさまざまなアクションを収穫のフェーズに変えていくことが現在の弊社グループにおける最大のテーマになる。現中期経営計画の最終年度を迎え、そして次期中期経営計画の作成を行うタイミングの今年4月から、新たな経営体制においてその実効力を高め、企業価値向上に向けた取り組みを加速させるべきであると、指名報酬委員会の中で交わされた活発な議論の中で方針を決め、サクセッションプランに基づく多面的な候補者評価の中から、櫻井さんを推挙し、本日の取締役会で決議した。
激変する市場環境下でも櫻井さんがこれまで培ったリーダーシップを発揮し、ヤマトグループをけん引するものと確信している。同時に、本日の取締役会で私が会長の職に就くことも決議された。今後の経営執行の責任を担う櫻井新社長を全面的に支援し、執行の監督を担う立場として企業価値向上に貢献していく所存だ。
櫻井氏
1998年に入社以来、現場や海外を含めた事業経験、法人向けの営業部門、ホールディングスでの経営戦略など多岐にわたる経験を重ねてきた。直近では宅急便事業の責任者として市場の変化を肌で感じながら第一線の現場、その先のお客様や地域社会に向き合ってきた。そこであらためて感じているのは、私たちの現場力向上、これこそがお客様の利便性を生み、収益の源泉になるということ。変革に取り組み、稼ぐ力を磨いてきた経験は、グループ経営において必ず生きてくると確信している。私たちヤマトグループは2030年の目指す姿として、持続可能な未来の実現に貢献する価値創造企業を掲げている。私をはじめとした経営チームが率先してお客様や現場に向き合い、新たな価値創出に取り組むことで、掲げるビジョンが実現可能になると確信している。
これまで長尾さんをはじめとする経営チームが断行してきた経営構造改革により、次の成長への土台は整った。私はこの土台を最大限に活用し、経営のフェーズを実行から収穫へとシフトさせていく。私が取り組む至上命題はヤマトグループを持続的な成長軌道に乗せることであり、そのためには必要に応じて聖域なき軌道修正も行っていく。付加価値に見合った適正なプライシング戦略を徹底し、トップラインの成長、マージンの改善を両立させる収益改善へシフトしていく。
基幹商品の宅急便はお客様の支持をいただき、50年の節目を迎えることができた。私のミッションは宅急便以外の事業領域以外にもさらに強力に注力していくことだ。宅急便で培った顧客基盤を生かしてコントラクトロジスティクス、グローバル事業など成長領域に経営資源を大胆にシフトし、飛躍的な成長を実現していく。
最後に私は、社員こそが企業価値を生み出す源泉であると考えている。だからこそ、人的資本経営を経営の真ん中に置いていく。ヤマトグループ18万人の仲間たち、そこには多種多様な経験と磨けば光る無限のタレントが眠っている。彼らの最大の資本として捉え、志ある社員が飛躍できる舞台を整えていく。社員が日々の仕事に誇りを持ち、自らの成長を実感できた時、現場力は必ずお客様への価値に変わる。18万人による全員経営で、持続可能な未来を切り拓く価値創造企業へと私たちは進化していく。ヤマトグループの持続的な成長に向けて、職務を全うしていく。
「戦略は大きな転換点にある」
▼質疑応答
――櫻井氏のどこを評価したのか。適正なプライシングなど具体的にどう実現していくのか、またどの経験を生かそうと考えているのか。
長尾氏
当社の指名報酬委員会の中でもいわゆる後継者をいかに選定して、育成も含め、サクセッションプランをどう機能させるかは継続的にさまざまな議論を重ねていた。その中で櫻井さんが候補の1人。少し私の挨拶の中でもお話したように、かなり多様な現場における経験を持っていることに加え、グループ全体の経営戦略機能、そういうヘッドクオーターの企画に携わっていた。非常に幅広い経験を持つ。加えて、非常に人柄として誠実だし、まだまだ年齢的に若いが、やはりこれからのヤマトグループを率いていくのにふさわしい人物だろうと。先に昨年の4月からヤマト運輸社長に就いた阿波誠一氏としっかりタッグを組んで、グループとしての経営を作っていけるということで言うと、非常にふさわしい人物と指名報酬委員会の中でも判断をした。
櫻井氏
この1年、宅急便事業で取り組んできた内容は、現場力と通じるところもあるので、少し具体的にお話させていただく。宅急便事業で言うと、第一線のセールスドライバー(SD)は私たちのコアコンピタンス(競争力の源泉)であり、5万人を超えるSDが現場でお客様と接している。SDの本来業務は荷物の集荷、配達、そして営業だ。この中で営業はどちらかというと、効率化などが優先され、おろそかになっていた部分が一部あった。あらためて、現場の第一線の社員の皆さんが自分の本来業務に専念するためにどういった環境を整えればいいか、そしてその先のお客様がどういったニーズを持っているかということに、かなり具体的に今期は注力してきた。例えば、営業所のSDさんが仮に退社して不足している場合、採用をするが、採用についても非常に強化した。私の名前で社員全世帯に社員紹介をお願いするなどした。また、営業で言うと、武器、いわゆる新しいサービス、こういったところも現場の声、お客様の声をしっかりと確認しながら、必要な武器を装備してきた。それから、オペレーションの環境という意味で言うと、夏は非常に暑いので、SDにファン付きベストを配布するといったことをしてきた。それ以外にもDXの仕組みも交えながらオペレーションの効率化も図りながら、こういった取り組みをやってきた。
結果的に現場力、いわゆるSDさんがあらためてお客様に向き合う時間を創出し、数字としても着実に手応えを感じる状況だ。今、宅急便の話をしたが、各事業、各グループ会社にはそれぞれの現場がある。ロジセンターとか海外の現法、通関のオペレーションなど、それぞれの現場現場で何が課題なのか、そしてその先のお客様がどのようなニーズをお持ちなのか、こういったことを1つ1つ確実に捉えながら、経営資源を大胆にシフトしていくことを、グローバル、コントラクトロジスティクスに関しては進めていきたい。
合わせて、適正なプライシングは、当然オペレーションを提供するのは最終的にはドライバーになるので、そういったドライバーさんの品質を、現場力を磨く意味で、品質を磨きながら、それをお客様にきちんと提供していく、あるいはクール(宅急便)とかスピード商品を取り入れながら、お客様に適正なプライシングを進めていきたい。
――事業環境変化との話があったが、具体的にどのようなものか。
櫻井氏
事業環境の変化で申し上げると、宅配市場そのものが決してこれまでのように順調にこれから伸びていくわけではないと認識している。これは小型荷物という意味ではECの伸長ということもあって伸びていくが、大手3社の市場は国土交通省の方で提示されている通り、これから簡単に伸びていくわけではないと認識している。そうした中で付加価値をさらに上げていく、あるいは宅急便以外の領域にさらに注力していく、こうした取り巻く事業環境の変化と、私たちが取っていかないといけない戦略は大きな転換点にあるというふうに認識している。
――社長職の10年を振り返ってどう感じるか。「聖域なき軌道修正」との話があったが、具体的にどういうことを考えているか。
長尾氏
2015年4月から事業会社のヤマト運輸社長、ホールディングスは19年4月から。非常に振り返ると激動の期間だったと思うし、一番思うのは今本当に災害が非常に増えていて、熊本地震や能登の震災、それ以外の水害等も含めて、さまざまな天災と向き合いながら事業をしている。そういう中でも一番振り返って苦しかったのは、やはり新型コロナのまん延。初めての経験だったから、その中でどう事業を継続できるのか、という中でさまざまな、現場の社員の皆さんの声も聴きながら、結果的には本当に第一線の皆さんが献身的な努力をしていただいて、何とかわれわれとしてサービスを継続できたのが一番大きな感謝かなと思っている。そういう意味では、経営者として、やれたこと、やれなかったことはたくさんあるとは思うが、まずもって、当社グループ社員の皆さんに感謝したいというのが一番の大きな思い。
櫻井氏
構造改革そのものは経営構造改革なので、会社のワンヤマト化から始まり、オペレーションに至るまでいろいろな形で長尾さんをはじめとする経営チームで取り組んできた。ある程度ここで整ったと思っている。その上で、当然この世の中、事業環境が大きく変化しているので、荷物の動き方、あるいは都市集中、地方の過疎化といった事業環境をもう一度かんがみながら、あるいはこれまでの改革をきちんと定量的に図りながら、当然必要な修正はしなければいけないとは思っているので、そういった意味での発言だった。具体的に何かというのは今後、いろんな形でお示しできると思っている。
(後編に続く)
(藤原秀行)












