【独自取材】消費者の多くが「置き配」利用希望も、盗難や個人情報流出など懸念

【独自取材】消費者の多くが「置き配」利用希望も、盗難や個人情報流出など懸念

各種調査で浮き彫り、警備会社や損保会社は対応検討

宅配の再配達抑制に向け、荷物を住宅の玄関前に置いた専用ボックスなどで受け取ることが可能な「置き配」の普及を目指す動きが物流業界などで広がっている。スタートアップ企業がサービスを展開、好評を博しているほか、宅配事業者やインターネット通販事業者も活用を模索している。

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各種意識調査でも、消費者の過半数が置き配サービスを使ってみた結果、便利だと感じていることが示されている。その一方で玄関先に置かれた荷物が盗まれたり、宛て名などの個人情報が流出したりすることへの懸念も根強く、一段の利用促進には対策を早急に講じることが不可欠であることが浮き彫りとなった。警備会社や損害保険会社などが将来の普及をにらみ、対応を検討している。

アマゾンは29都府県で実施

スタートアップ企業のYper(イーパー、東京)は2018年9月、置き配専用バッグ「OKIPPA(オキッパ)」の販売を開始した。ドアノブに吊るして固定するワイヤーの専用ロックと南京錠を組み合わせて使い、無断で荷物が持ち去られるのを防ぐ。バッグに荷物が入れられると、スマートフォンの専用アプリに通知される仕組みだ。

東京・杉並の1000世帯を対象に、18年12月に日本郵便と共同でバッグの活用実験を展開した結果、再配達を約6割減らせたという。日本郵便がバッグを10万個無料配布するキャンペーンを実施、一気に利用者が広がった。Yperは今年9月には、賃貸住宅のオーナーを対象に、住民向けバッグを割安で提供することで宅配ロッカーを導入せず住民の満足度向上を図る取り組みをスタートした。同社は「OKIPPAが約65万個普及すると、年間のOKIPPAでの荷物吸収個数は全国のコンビニでの荷物引き取り個数と同等かそれ以上になる見込み」と予測、さらに普及させようと意気込んでいる。

アマゾンジャパンも既に東京や大阪など29の都道府県で置き配に対応。注文の際に配送オプションとして表示された場合にのみ利用できる。ユーザーは届ける場所を「玄関」や「宅配ボックス」、「ガスメーターボックス」、「自転車のかご」、「車庫」、「建物内受け付け/管理人」の選択肢の中から自由に選べる。

商品を届けた際、デリバリースタッフが商品の様子を撮影、配達完了通知メールや配送状況確認画面から閲覧できるようにし、消費者の不安解消を図っている。同社は今年10月から1カ月間、この置き配を標準的な配送方法とする実証実験を岐阜県多治見市で実施。その結果を踏まえて、置き配をさらに拡大していくかどうかを検討する構えだ。

経済産業、国土交通の両省も今年3月、置き配の普及促進策を検討する官民の検討会を設置、これまでに4回の会合を開催して議論を重ねている。事業者が置き配で成果を挙げている取り組みをまとめた事例集を年内にも作成、発表する方向で調整を続けている。


OKIPPAの利用イメージ(Yper提供)

個人情報の流出や雨天時の漏れに懸念

事業者の動きに対し、消費者も確実に反応している。サプライチェーン高度化に向けた活動を展開している日本SCM協会が今年10月、ツイッターの利用者を対象に「宅配便の置き配を活用したいか」と尋ねたところ、回答した188件のうち71%が「利用したい」を選択した。「宅配ボックスが満杯になった場合は置き配を使いたい」といった声が挙がったという。

同協会は「宅配ボックスの活用が(建物の)スペース上の問題から限度があるためえ、第2の選択肢として置き配に頼らざるを得ないと考えているようだ」と分析している。

また、住宅用ポスト大手のナスタ(東京)が同じく10月に実施した、置き配サービスを利用している600人を対象とした実態調査結果では、サービスを利用した人の感想として「とても便利」と「便利」の合計が92・4%に達した。

その半面、不安に思うことが「たまにあった」「よくあった」と答えた人も、普段宅配ボックスを使っていない300人の45・7%、置き配と合わせて使っている300人でも31・0%に上った。

宅配ボックス非利用者が不安に思った具体的内容として、届いた荷物が盗まれないかが50・0%、荷物が濡れたり汚れたりしていないかが41・7%、荷物を知らない人にのぞかれないかが38・0%となっている。宅配ボックスを使っている人でも、各項目はいずれも「不安」が2割超存在している。

置き配サービスを使っていて、困ったり驚いたりした人の声としては、「荷物が濡れていた」「出張中に荷物が届いて数日間置きっぱなしになってしまった」「盗まれた」「荷物に虫が付いていて部屋に入ってしまった」「荷物を玄関先に置かれたため家の中からドアが開けられなくなってしまった」など、多様だ。

「盗まれた」と虚偽報告し商品不正受給の可能性を指摘

こうした声に対し、前述の置き配検討会では民間事業者が対策を提唱している。東京海上日動火災保険は置き配リスクソリューションプログラムと銘打ち、置き配で扱った商品が盗難や破損、水濡れなどの被害に遭った場合の補償案を公表。同社は既にYperと、OKIPPA向けの損害保険を開発している。綜合警備保障は、同社が展開している小型のインターネットカメラを使った遠隔の自宅監視サービスを置き配の荷物盗難防止に使うことを提案した。

検討会ではメンバーから損害補償について「実際の盗難件数が限られている中で保険加入については費用対効果の観点から検討する必要がある」との意見が出た。他にはプライバシー保護のため荷物の送り状に記載された情報を隠すといった個人情報保護の対応の必要性や、盗まれたと虚偽の報告をして事業者から商品を不正に受け取るといった現状で想定していないリスクが浮上する可能性を指摘する向きもあった。

専用バッグへの荷物配達は、配達スタッフの認知度が不足していることも課題として明らかにされている。置き配が再配達を抑制する効果は確実に期待できそうなだけに、物流業界と宅配事業者ら多岐にわたる関係者がサービス普及の土壌形成に努めることが急務となっている。


今年3月に開かれた「置き配検討会」の初会合

(藤原秀行)

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