最新データに見る物流を取り巻く環境の変化―今起きているパラダイムシフトとは―【GROUNDコラム スタート!】

最新データに見る物流を取り巻く環境の変化―今起きているパラダイムシフトとは―【GROUNDコラム スタート!】

新連載!「物流危機を乗り切るための10の視点」第1回

最新データに見る物流を取り巻く環境の変化
―今起きているパラダイムシフトとは―
GROUND 営業本部 山口春奈 ソリューションコンサルティング部長

未曾有の人手不足など逆風が吹きつける物流業界。この危機を乗り切り、持続可能な物流基盤を確立していくには、まず現状を正しく認識することが不可欠とロジビズ・オンラインでは考えています。

物流業務効率化の新技術開発に取り組むスタートアップ企業GROUNDのメンバーに、日々の業務で蓄積してきた知見を基に、業界全体が連携して生き残っていくための貴重な視点をリレー形式のコラムで提供いただけることとなりました。

全10回の連載コラムの1回目は、電子商取引(EC)の発展に伴う物流環境の変化を近年成長著しい「BtoC-EC」(企業が一般消費者を対象に提供する電子商取引)の最新データとともに解説し、今、物流・EC業界が直面している課題や将来的に求められることなどを説明していただきます。

トップバッターとして登場するのは、GROUNDで先進ソリューションの開発や導入のプロジェクトマネジメントなどを担当されている山口春奈さんです。今後ともコラムにご期待ください!

BtoC-ECの成長と消費者支出の関係から分かること

インターネットの発展に伴うECの急速な普及は、物流業界に対して大きな影響を与えています。ここではまず、日本国内におけるEC市場や将来的なトレンドを見ていきましょう。


図表1:BtoC-EC の市場規模および EC 化率の経年推移(単位:億円)※クリックで拡大
引用 :経済産業省 商務情報政策局 情報経済課「平成30年度 我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備 (電子商取引に関する市場調査)報告書」


図表2:1 世帯当たりの財(商品)およびサービス支出の年間支出金額(単位:万円)※クリックで拡大
引用:経済産業省 商務情報政策局 情報経済課「平成30年度 我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備 (電子商取引に関する市場調査)報告書」

図表2を見ると、1世帯当たりの商品・サービスに対する年間支出金額はほぼ横ばいとなっていますが、図表1の通り、EC化率は毎年上昇し続けており、EC市場も成長傾向にあることが分かります。

さらに、経済成長の鈍化や人口減少が叫ばれる日本において、BtoC-ECは現時点でいまだ成長市場であり、今後も消費者の購入動向が店舗からECへ移管するトレンドがあることを裏付けていると言えるでしょう。

グローバルな観点からEC市場を見ると、世界の小売市場におけるEC市場規模の割合は12%(図表3)です。そして、世界のEC市場規模313兆円のうち、アジア太平洋地域におけるEC市場規模は190兆円(1%)となり過半数を超えています(図表3、右図)。これは、アジア太平洋地域におけるEC化率が高いことが示唆されていることになります。

また、中国は小売市場においては22%を占めており、これはアメリカとほぼ同等であるにもかかわらず、EC市場に占める割合は52%にも上り、アメリカの3倍近い規模となっています。これにより、中国ではECが非常にポピュラーであり、消費者の売買行動の大半を占めていることが分かります。


図表3:世界の小売市場・EC市場における地域別および主要国が占める割合(2018年推計値)※クリックで拡大
引用:経済産業省 商務情報政策局 情報経済課「平成 30 年度 我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備 (電子商取引に関する市場調査)報告書」

ラストマイルの変化

こういったBtoC-ECの成長は、配送物取扱個数の劇的な増加の要因となっています(図表4)。2017年には、大手配送会社が配送物取扱個数の総量規制や配送料の値上げを発表し、「宅配クライシス」として大きな社会問題となったことは皆さんの記憶にも新しいことと思います。

現在も危機的状況であることに変わりはありませんが、EC事業者による自社配送網の強化や、ラストマイル専門業者・クラウドソーシングでの配送委託などの新しい配送網の確立などにより、消費者ニーズに伴う配送物量と適正コスト両立させるための配送手段の選択肢が増えています。


図表4:宅配便取扱個数の推移(単位:百万個)※クリックで拡大
引用:国土交通省 「平成29年度宅配便取扱実績」

多様化する消費者ニーズがもたらすロングテール化と倉庫オペレーションやマネジメントの変化

消費者から見ると、ECが発達することにより、欲しい時に欲しい物をいつでも手に入れられる便利な世の中となりましたが、その利便性は物流の功績なくしては語れません。

欲しい時に欲しい物を消費者がいつでも手に入れられるようにするためには、物流・EC事業者側は、売れ筋商品からニッチ商品(ロングテール商品)まで「販売傾向の異なる幅広い商品ラインナップを管理」しながら、各商品について「適正量の」在庫を保持し、「出庫タイミングを見極めながら」タイミング良く商品をピッキングし、出荷できる体制を整えておかなければならないのです。

また、配送コストを可能な限り下げつつ、消費者の希望に合うような配送手段を選定し、出荷、配送へ連携する必要もあります。

このように消費者ニーズに応え、コストを最小化するスマートな物流を実現するには、複雑で難解な判断を膨大に行い、業務やオペレーションをタイムリーに実現することが重要となります。これまでのように人手に依存したオペレーションや、管理者の経験則に基づいた業務判断だけで実現させるのは厳しくなっているのが現状です。

2065年に日本の生産人口は5割ぎりぎりまで減少

消費者ニーズの多様化に追い打ちをかけるように、日本では少子高齢化による生産人口減少の波が押し寄せており、物流業界ではこれまで以上に労働力を確保することが難しくなっているという声をよくお聞きします。

図表5を見るとお分かりいただける通り、日本国内における高齢化率の上昇トレンドは続き、65年までに15~64歳の生産年齢人口は減少し続け、全体の51%程度になると予測されています。そして、従来の人を中心とした物流運営を支えてきたベテラン層の退職により、暗黙知であったノウハウの承継も課題になることでしょう。


図表5:高齢化の推移と将来推計※クリックで拡大
引用:内閣府「平成30年版高齢社会白書」

時給上昇トレンドと省人化

労働力確保に向け、特に物流倉庫の集中するエリアでは、少しでも良い条件を提示して人手を確保するために、時給上昇トレンドが続き、物流費増加の一因となっています。


図表6:三大都市圏職種別 平均時給推移 直近36カ月の動向(製造・物流・清掃系)※クリックで拡大
引用:株式会社リクルートジョブズ 「2019年7月度 アルバイト・パート募集時平均時給調査」


図表7:2.三大都市圏エリア別 募集時平均時給調査 2-2 首都圏(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県)■首都圏 職種別 平均時給※クリックで拡大
引用:株式会社リクルートジョブズ 「2019年7月度 アルバイト・パート募集時平均時給調査」

三大都市圏における製造・物流・清掃系の平均時給は1052円(前年同月比2・0%増)となっており(図表6)、その詳細を見ると(図表7)、ドライバー・配送・デリバリーが1076円(2・4%増)、物流作業が1059円(2・7%増)、フォークリフト等オペレータなどの構内作業が1228円(2・4%増)と、前年同月増減率は微減しているものの、時給上昇トレンドは依然続いていることが分かります。

そうした傾向を踏まえれば、省人化・省力化に向けての継続した取り組みはもちろんのこと、生産年齢人口の減少に伴う事業継続の観点からも、人力に依存し過ぎないオペレーションの構築は物流業界にとって急務と言えるでしょう。

日本の物流が迎える変革

ここまで見てきたように、BtoC-ECの発展と少子高齢化などの社会環境の変化を背景に、物流業界はパラダイムシフトと言うべき価値観や構造の劇的な変革を迎えています。

多様化する消費者ニーズを満たすためには、ECに関わるバリューチェーン全体の変革が必要ですが、特に商品そのものを取り扱って消費者に届ける役割を担う物流業界は対応すべき課題が多く、事業継続の観点からも「人に依存しないオペレーションの構築」は待ったなしの状況になってきていると言えます。

本稿では、物流業界が直面している課題を中心にさまざまなデータとともに解説しました。次回以降は、物流業界でも注目を集めるAI(人工知能)やロボット等のテクノロジー活用の他、さまざまな業界でキーワードとして挙げられる「シェアリング」や「サブスクリプション」の物流業界への適用例など、物流業界が直面する課題を解決・打開するためのソリューション事例や、それらソリューションを利活用するためのヒントを紹介していきます。

著者プロフィール
山口春奈(やまぐち・はるな)
神戸大経済卒。2001年オービック入社、製造業や流通業のクライアントを中心にERPの構想策定や導入、運用保守プロジェクトに従事。11年アビームコンサルティングに移り、大手製造業や流通業のクライアントを中心にロジスティクス・サプライチェーン改革やERPの構想策定、導入プロジェクトを担当。17年GROUNDに移り、現職。先進ソリューション開発、導入のプロジェクトマネジメントやロジスティクス領域の戦略・構想策定、業務改革コンサルティングに従事。

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