【独自取材】物流ベンチャー、投資以外にも有望企業紹介など多様な支援展開

【独自取材】物流ベンチャー、投資以外にも有望企業紹介など多様な支援展開

官民ファンドINCJ・鑓水マネージングディレクター独占インタビュー(後編)

前編:【独自取材】「物流は非常に大きな投資のターゲット」と期待表明

官民ファンドのINCJ(旧産業革新機構)でベンチャー・グロース投資グループのマネージングディレクターを務める鑓水英樹氏はこのほど、ロジビズ・オンラインの単独インタビューに応じた。

鑓水氏は「民業補完」との立場は維持しつつ、「サプライチェーン全体の最適化を促していくようなシーズ(研究開発や新規事業創出に不可欠な技術や能力、人材、設備など)をこれからも支援したい」と明言。スタートアップ企業へ直接投資する以外にも、パートナーシップを組める有望企業を紹介するなど多様なサポートを展開していく考えを示した。

さらに、物流分野の変革を目指すスタートアップ企業の海外進出も後押しすることに意欲をのぞかせた。インタビューの後編を紹介する。


取材に応じる鑓水氏

関係者を統合する「触媒」が必要

―物流業界は効率化や機械化などの面で他産業より取り組みが遅れている印象が否めないと思いますが、どうお感じですか。
「そこはやむを得ない面があると思います。当社はいろんな業界に投資させていただきましたが、特に物流業界の場合には何をやるにしてもお金がかかるという現実があります。設備投資の規模が大きい。企業が設備投資をする際、当然ながらまずは資金が必要ですし、投資した後には償却負担が発生します。物流現場向けの機器はその期間が長い。新しいイノベーションが起き、新しい装置やロボットが完成しても、いったん導入すれば償却期間が終わるまでリプレースができません。しかも1個1個の装置が大きく、モジュール化も難しい」
「倉庫を建てるにしても、広大な敷地を要する上に、何十年という期間の借地契約を締結したりします。このように、個々のライフサイクルがかなり長い業種です。これが例えば半導体業界であれば非常にライフサイクルが短く、だからこそ今は世界中でパワープレーになっていて、何百億、何千億単位のお金を投じようとする。物流はそもそもそうした世界とは違います。必ずしも物流だから取り組みが遅いというわけではなくて、物流という事業自体が持っている特徴が背景にあるといえます」

―特性でいえば、物流は基本的に請負業務なので、どうしても荷主企業からの指示を待つ受け身の要素が強かったこともかねて指摘されています。
「確かにそうした側面はあるでしょう。なおかつ、日本の場合はかなり荷主企業が物流に対して要求される水準が高い。さらに付け加えると、日本は物流の現場力が強い。いろいろカスタマイズのニーズが来ても、それをオペレーションでしっかりと応えることができる。現場のレベルが高い日本だからこそ対応できる面もあります。諸外国は日本と異なり、効率をどんどん追い求めて極力作業を定型化していく。そうすれば不慣れな人間が現場に来ても作業をこなせます。他の業態でも起きているガラパゴス化が日本の物流でも生じていると思います」
「だからこそ、日本の物流はロボティクスやAI(人工知能)導入が欧米より遅れているのではないか。これは別に悪い話ばかりというわけではなく、欧米では機械化や省人化を進めざるを得ない面があるからなのです。現場力が必ずしも日本ほどは高くないからこそ、機械化や省人化が日本の5年から10年は先に進んでいると思います。日本の場合は現場力が高く、人力でさまざまなハードルを越え、耐え忍んできましたが、さすがにこれだけECを含めて物流量が増えてきているので、そろそろ辛抱も限界に達してきたとみています」

―スタートアップ企業による新陳代謝が必要でしょうか。
「カタリスト(触媒)が必要だと感じています。物流事業者、物流施設のデベロッパー、マテハン機器のメーカー、装置メーカーといった多様なプレーヤーをインテグレーション(統合)する部分ですね。新陳代謝というよりは、むしろイノベーションを促していくような素材を提供できる存在が必要だと思います」
「そういう意味では、先ほどお話ししたGROUNDさんもそうした存在だと感じています。彼らのコアプロダクトはソフトウエアであり、ハードウエアは外から持ってくるというやり方が大変素晴らしい。物流業界はまさに装置産業化が進んでいますが、ベンチャー企業はそこまでの財務余力がなかなかありません。ものづくりを進める上でボトルネックになっているのは製造に関するリスクプラス陳腐化リスクです。他の業態も全てそうですが、このリスクを乗り越えられるかどうかにかかっています」
「彼らの場合はそのリスクコントロールを相当うまく行っている。優れたハードウエアを外部から取り込むことで製造や陳腐化のリスクを回避し、自分たちでソフトウエアをアップデートしてより現場で使えるものに仕上げていく。とても期待が持てる戦略です。そういう立ち位置ですから、既存のプレーヤーから見ても非常に組んでみたい相手でしょう。常に最先端のソリューションを持ってきてくれるけれども、直接競合するわけではありません。まさに触媒のようなポジションを持ちながら、日本の物流プレーヤーの方々の業務効率化やサービスレベル向上に貢献できる立ち位置ではないかとみています。われわれINCJの役割はそうしたイノベーションを促すベンチャー企業の輩出をお手伝いすることです」

―物流業界がこれからも持続するためには海外進出も不可欠なのでは?
「もちろんそうしたことも求められます。INCJが前身の産業革新機構時代から一貫しているのは、グローバルで展開できるポテンシャルを秘めたベンチャーに投資してきているということです。リスクマネーを供給するのはベンチャーキャピタルとして当然の動きでしょう」


INCJが説明する役割(同社ウェブサイトより引用)※クリックで拡大

“呼び水ファンド”でありたい

―物流業界はまだまだアナログな部分が多く残っているため、ベンチャー企業には先進的技術だけでなく、業界の構造や現場の課題をしっかりと理解した上できちんと既存の物流プレーヤーとコミュニケーションできる力も強く求められるのでは?
「確かに、(先進的な技術を持つ)テックベンチャーがそのまま物流業界に技術を持っていくだけでは思いが上滑りしかねない。既存のコンサバティブでトラディショナルな物流業界に対し、価値を訴求できる提案をしていく上でそうした力が必要になるでしょう。同時に、定量的な説明ができる実績、案件を地道に積み上げ、お客さまの方からご関心を持って来ていただけるプル型営業に注力する方が得策です。特に物流のようなBtoB系の業界ではプル型が有効でしょう」

―変革を生み出せるスタートアップ企業はまだまだ存在していると思いますか。
「先ほどお話ししたような第4のイノベーションが今まさに起こっている最中です。倉庫だけではなく、サプライチェーン全体がこれからも変わり続けていきます。庫内の荷役を見ても、数十年にわたってロボット開発が続けられていますが、ピッキングできるロボットでさえも依然広く普及しているとは言い難い状況です。そうした要素技術を手掛けるベンチャーはまだまだたくさん出てきていると思いますので、サプライチェーン全体の最適化を促していくようなベンチャーのシーズをこれからもご支援していきたいですね」
「INCJは民業補完が取るべき立ち位置であり、『民間でできることは民間で』が基本です。われわれが必要以上にしゃしゃり出ていけば民業圧迫になってしまい、成長をかえって阻害するケースもあるでしょう。そうしたことはすべきではない」
「現在は最初に申し上げた通り、既に投資した先への追加投資や(事業の進捗に応じて段階的に実施する)マイルストーン投資などのバリューアップ活動、さらに(投資資金回収の)エグジットに向けた活動などを主要業務に据えています。しかし、投資だけがわれわれの仕事ではありません。人の紹介なども行っていますし、経営戦略の議論は徹底的にやらせていただきます。ダメ出しもします。われわれは海外のネットワークもありますから、そういう方々の間に入っての仲介交渉も手掛けています。そういう意味で当社は有望な資金やパートナーを集める“呼び水ファンド”と表現してもいいかもしれません。それが官民ファンドのやるべきことであり、物流業界を支援させていただく上でもわれわれの立ち位置は堅持していきます」

(藤原秀行)

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