【独自取材】日本政策投資銀行が物流業界の成長支援強化

【独自取材】日本政策投資銀行が物流業界の成長支援強化

専任部署新設し投融資を1千億円規模に拡大へ

 日本政策投資銀行(DBJ)が、物流業界の成長支援強化に乗り出している。

 今年5月に専任部署「グローバルロジスティクス室」を立ち上げ、有望なプロジェクトなどへの投融資拡充に向けた基盤整備を加速。深刻な人手不足に見舞われている現場の状況を鑑み、先進技術の活用でサービスレベル向上や生産性上昇を後押しし、物流業界の事業基盤と国際競争力を強めるのが狙いだ。

 そのため、足元は700億~800億円規模に上る物流業界への投融資額を今後数年程度で1000億円規模まで拡大することを目指す。金融サイドから人手不足など物流業界の掲げる諸問題への有効な処方箋が提示されるかどうかが注目されている(この記事は月刊ロジスティクス・ビジネス2018年7月号に掲載したものに加筆、再構成した)。

先進的物流施設の環境対応普及にも貢献

 DBJは政府系金融機関の日本開発銀行時代から現在に至るまで50年以上にわたり、産業振興に注力。中長期の融資やプロジェクトファイナンスなどを数々手掛けている。

 メーンの支援対象はエネルギーや運輸・交通、都市開発などの分野。物流も同様にさまざまなファイナンス手法を駆使し、成長促進のソリューション提供に努めている。併せて、物流施設の機能向上を促す環境整備にも焦点を当ててきた。

 その一環として、環境負荷軽減やテナントの利便性向上などの配慮が施されている不動産を5段階で評価する「DBJ Green Building認証」の対象に物流施設を含め、日本不動産研究所と共同で認証評価を展開。今年8月末時点で認証を獲得した物流施設は全国で117に上る。近年急速に増加している先進的物流施設で環境対応が普及したのに貢献しているといえそうだ。

 新たに立ち上がったグローバルロジスティクス室は、DBJの中で小売業や商社、物流業などへの投融資を担当する企業金融第3部の下に配置。物流施設への投融資を担うアセットファイナンス部との兼務を含めて10人以上が同室に所属する。

 DBJ内部の関連部署と緊密に連携するとともに、グループ企業や他の金融機関などともパイプをより強固にしていく役割を負っている。

 ここに来て物流業界への対応をさらに拡充する背景を、須釜洋介同室長は「産業のインフラとして縁の下の力持ち的存在だった物流が、eコマースの成長などに伴い、表に出てきている局面。物流の在り方が大きく変わってくるとなれば、当然インフラの上に乗っている他産業にも大きな影響を及ぼす。主役に躍り出ようとしている物流をこれまで以上にサポートしていけるのではないかと考え、優先順位を上げて取り組んでいる。当行を触媒として多様なネットワーク構築につながるようにしたい」と力説する。

高機能の物流施設向け投融資拡大など計画、有望なベンチャー支援も

 同室を中心に、今後は

  1. 新技術を活用した新規産業創出プロジェクト支援
  2. 技術革新の担い手となる事業者へのリスクマネー供給
  3. 最新技術を備えた高機能物流施設向け投融資の拡大

――を進めていく計画だ。

 投融資のほか、新事業を加速する上でパートナーとなる可能性のある企業のマッチング支援、ケーススタディーの紹介、M&Aのサポート、海外の先進事例調査と報告など多様なメニューを想定。各種ソリューションを円滑に提供できるよう、同室を核としてDBJの各部門が連携してサポートすることを全面に打ち出している。

 須釜室長は「当行はベンチャーキャピタルの機能がある。物流セクションではまだそうした取り組みが十分にできていなかった。当社は投融資だけでなくエクイティー投資も手掛けており、今後は有望な物流のベンチャーに出資することも積極的に検討していく覚悟だ」と述べ、物流業界の非効率を刷新する可能性を秘めた企業の事業展開を強くアシストしていくことに意欲を示している。

 同室の星秀太郎調査役は国際競争力強化の観点から、先進的な物流施設の海外展開も考えられると指摘。「欧米などでも物流適地の価格上昇傾向がある。そうした現状への対応として、複数階にした縦使いのオペレーションという日本のノウハウを生かしていける余地があるのではないか。引き続き勉強を続けて、グローバルに事業展開していく可能性を検討したい」と意気込みを見せている。

 須釜室長は今月19日、日本物流不動産評価機構(JA-LPA)推進協議会が主催したセミナーで講演した際も、「全産業が物流なくしては成り立たない。最も対応が重要ではないかと考えているのが足元で起きている技術革新だ。サプライチェーン全体の効率化を図っていかないといけない」と持論を展開。あらためて物流業界の変革を後押ししていく姿勢を鮮明にした。

産官学で技術革新促進策を議論、来春めどに意見集約へ

 グローバルロジスティクス室が併せて力を注ぐのが、物流業界の有識者らが結集する「ロジスティクスイノベーション研究会」だ。同業界で技術革新を果たす上での課題を明らかにし、対策を協議していくことを想定している。

 中央官庁幹部や学識経験者、物流企業や物流施設デベロッパーの幹部らが参加。9月26日に最初の会合を開いた。数回の開催を経て、来春をめどに何らかのアウトプットをまとめる見通しだ。

(藤原秀行)


グローバルロジスティクス室の須釜室長

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