選定の際に重視すべき3つのポイント
リンクス ロボティクス事業部
小山早俊 プロダクトマネージャー
物流業界や製造業では深刻な人手不足に加え、新型コロナウイルスの感染拡大で省人化・非接触の重要性が増していることもあり、かつてないほど自動化技術への注目度が高まっています。
その中でも、倉庫や工場の床に誘導のための磁気テープを貼ったりする必要がなく、人に代わって商品や部品を自動で運んでくれる「ガイドレスAGV(無人搬送ロボット)」や「ガイドレスAGF(無人搬送フォークリフト)」の存在感が際立っています。ただ、国内でも既にさまざまなメーカーが商品を出しているものの、初期投資の大きさなどがネックとなり、まだ本格的な普及にはほど遠いのが実情です。
ロジビズ・オンラインではそんな状況を打開するため、海外製AGV・AGF制御ソフトウエアの販売を始めたリンクスのロボティクス事業部でプロダクトマネージャーを務める小山早俊氏に、ガイドレスAGV・AGFの現状や導入する上での重要な視点を全8回にわたって解説していただきます。
導入の難しさを克服するために
近年、自動化・省人化の鍵を握る存在として注目度が高まっているのが自律走行型の無人搬送台車や無人搬送フォークリフト(本稿ではこれらをまとめてガイドレスAGV・AGFと呼ぶことにする※)だ。しかし、国内での実際の導入状況を見ると、まだほとんど進んでいないのが現状だ。
弊社でも本年3月にAGV・AGF制御ソフトウエアの取り扱いを開始し、多くのAGVメーカーやエンドユーザーなどから問い合わせを受ける中で、製品実現や導入の難しさを耳にする機会が多い。本稿では、全8回の連載の中でガイドレスAGV・AGFを検討・導入のする上での重要な視点を、事例を交えてご紹介したい。第1回は「ガイドレスAGV・AGFの普及状況と選定のポイント」に焦点を当てる。
ガイドレスAGV、この呼び方に既に自己矛盾あるのは筆者も認識している。ただ、実際にそれを求めるさまざまな現場の担当者が共通して口にするのは「AGVをガイドレスで」ということだ。「ガイドレスAGV」「無軌道AGV」「自律走行型AGV」「AMR」と呼び方は人によりまちまちだが、求めているものはつまるところ、皆同じであり、本稿では分かりやすく「ガイドレスAGV」(AGFも含む)で統一する。ご了承願いたい。
ガイドレス方式はまだ10%以下か
日本産業車両協会が今年9月に発表した統計によると(資料はコチラ)、2019年の無人搬送車両システムの納入実績は前年比1・6%増の3436台で、1989年の調査開始以来最高を記録した。そのうち、マグネットテープなどの磁気誘導方式が約85%を占めており、レーザー誘導やSLAM方式(自己位置推定と環境地図作成を同時に行う)によるガイドレス方式はわずか約15%にとどまっている。
しかも、この調査は同協会員18社のみのデータということに留意する必要がある。国内のAGVメーカーは弊社が調べただけでも100社以上あり、その多くが磁気誘導方式を採用していることを考えると、ガイドレス方式の割合は実際には10%以下であろう。
一方で、海外では既に50%以上がガイドレス方式を採用しているとも聞いている。日本は海外に比べると、圧倒的に同方式の普及が遅れているのだ。
無人搬送車両システムの納入実績推移(日本産業車両協会資料より引用・クリックで拡大)
乱立するメーカー、海外製品も多数
それでは、日本ではガイドレスAGVの提供元が少ないのかというと、決してそんなことはない。前述の通り、国内だけでも大手から中小まで100社以上のAGVメーカーが存在している上に、続々と新たな企業がAGV市場に参入しようとしている。コロナ禍で開催が控えられているが、展示会に行けば各メーカーが参考出典も含めてガイドレスAGVを競ってお披露目し、連日のように新商品のプレスリリースが発表されたり、メディアで導入のニュースが流れたりしている。簡単に内製ができるようなAGVキットを提供している企業もある。
そして、欧州や中国など海外メーカーの製品も日本に入ってきている。既に多種多様な誘導方式と完成度の製品が乱立しているのが現状だ。多くのユーザーにとっては一体どれをどう選べばいいのか、導入しても本当に期待通りにきちんと運用できるのか、不安に感じるところだろう。
導入が広がるAGVのイメージ(リンクス提供・クリックで拡大)
コアはソフトウエア部分
ガイドレスAGVのコアとなるのはソフトウエア部分だ。多種多様な誘導方式に頼らず、共通して見るべきポイントは次の3つだ。
①自己位置推定能力
②群制御(フリートコントロール) 複数台の制御、異なる機種の一括制御
③操作性
①「自己位置推定能力」は、停止位置精度や走行の安定性につながり、結果として作業をどこまで自動化できるかに影響を及ぼす。この点をしっかりと見極めないと、導入はしたけれど結局人手は減らなかった、ということも往々にして起こり得る。
②「群制御」は、配車や交差点制御など複数のAGVを統合制御する技術で、フリートコントロールと呼ばれる。1~2台を局所的に使う分には必要ないが、運用台数が増えるとこの観点が必要になる。
③「操作性」も非常に重要だ。これまでAGVユーザーは設定の大部分をAGVメーカーやSI(システムインテグレーター)に任せざるを得なかった。導入後に細かい変更を手軽にできないため、事前に入念に計画する必要があった。しかし最近、操作性の高いAGVが出始めている。
今後はユーザー自身がある程度、設定を調整できるようなAGVが普及するだろう。実は、国内でガイドレスAGVの普及が進んでいない理由もこの3点に集約されている。国内AGVメーカーの多くがソフトウエア部分を自社開発しているが、その完成度が実用レベルに追い付いていないのが実情だ。
この3つのポイントそれぞれについて、次回以降であらためて詳細を解説することにする。
(次回に続く)
著者プロフィール
小山早俊(おやま・さとし)
1978年熊本県生まれ。2006年3月東京大大学院工学系研究科修了後、同年4月丸紅ソリューション(現丸紅情報システムズ)入社。非接触3Dスキャナ(GOM社)のセールスエンジニアとして経験を積んだ後、隙間段差レーザー計測装置LaserGauge(Origin Technologies社)など複数の新商品立ち上げに従事。外資系マーケティングエージェンシー、ミスミを経て19年12月リンクス入社。フィンランドのAGVメーカーNavitec(ナビテック)担当のプロダクトマネージャーとして事業立ち上げ、新製品や最新技術の日本国内への展開などを担当している。