【注目連載】「目指せ!ガイドレスAGV・AGF導入への道」(第3回)

【注目連載】「目指せ!ガイドレスAGV・AGF導入への道」(第3回)

「フリートコントロール」の重要性を押さえる

リンクス AW事業部
小山早俊 プロダクトマネージャー

物流業界や製造業では深刻な人手不足に加え、新型コロナウイルスの感染拡大で非密集・非接触の重要性が増していることもあり、自動化技術導入の機運がますます高まっています。

その中でも、倉庫や工場の床に誘導のための磁気テープを貼ったりする必要がなく、人に代わって商品や部品を自動で運ぶ「ガイドレスAGV(無人搬送ロボット)」や「ガイドレスAGF(無人搬送フォークリフト)」の注目度がとりわけ抜きん出ようとしています。

ロジビズ・オンラインは先進的な技術を製造業や物流業などにいち早く紹介することを社是としている技術商社リンクスの小山早俊氏に、ガイドレスAGV・AGFの現状や導入する上での重要な視点を全8回にわたって解説していただいております。3回目はガイドレスAGV・AGFを考える上で欠かせない重要な要素を取り上げます。

これまでの連載はコチラからどうぞ!
第1回:選定の際に重視すべき3つのポイント
第2回:「自己位置推定能力」を見極める

搬送システムに大規模化・効率化の可能性

前回はガイドレスAGVの選定ポイントの1番目として、自己位置推定能力について述べた。

今回は、2番目のポイントとして「フリートコントロール(群制御)」を取り上げ、解説する。

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ガイドレスAGVの選定ポイント
 1.自己位置推定能力
 2.フリートコントロール(群制御)
 3.操作性
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「フリートマネジメントシステム(FMS)」という言葉は配送トラックなどの稼働管理システムとして既になじみがあるだろう。

一方で、近年登場したガイドレスAGVについても、同じようにフリートコントロール(Fleet Control)という言葉が使われるようになってきた。FA(工場自動化)の世界では「群制御」と呼ばれたりもする。

●AGVにおけるフリートコントロールとその利点

従来のAGVは、床に貼られた磁気テープに沿って走るのが当たり前だった。このやり方ではそれほど複雑な制御ができないため、フリートコントロールという考え方がそもそも存在しなかった。

磁気テープ式AGVでは、あらかじめ決められた運行計画通りに稼働させることが大前提で、状況に応じたフレキシブルな運用は不可能だ。現実的に発生するルート上の障害物や積み下ろし作業の遅れにより運行が乱れたり、AGV同士が互いに走行を妨げ合うデッドロックが発生したりすると、そのことがシステム全体の運行に影響を与えてしまうのも日常茶飯事だ。

そんな中、ガイドレスAGVの登場により、搬送システムの大規模化・効率化の可能性に期待が膨らんでいる。

フリートコントロールシステムの導入により、入り組んだレイアウトのフロアに多数のAGVを導入できるようになるだけではなく、さらに群としてのAGVを一つの搬送システムとみなし、その生産性を追求することが可能になる。

優れたフリートコントロールシステムであれば、フレキシブルな搬送ラインを実現し、必要なAGVの台数を削減することもできる。これは省力化・省人化、コスト削減の観点から非常に有効であり、近年ガイドレスAGV導入に注目が集まっている理由の1つだ。

導入の効果
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・多数のAGV導入により、省力化・省人化が可能
・搬送システム全体の最適化による生産性の向上
・必要なAGV台数削減による設備投資の最小化
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●制御方式

ではここから、選定のポイントを個別に見ていく。まずは制御方式だ。

制御方式は大きく分けて2通りある。地上側に管制用のサーバを置き、そこで集中制御を行う方式と、管制サーバを置かずに各AGV同士が直接相互に通信し合い全体最適化を図る分散制御方式がある。

研究開発レベルではもともと集中制御方式が主流で、その後、負荷分散の観点から分散制御方式が生まれた。市販のAGVでも分散制御方式を採用したものが登場し始めている。

ただ、現時点ではどちらの方式が優位であると結論付けられるほどには製品市場として成熟していないため、選定ポイントとしてこだわる必要はないだろう。


AGVをいかに制御するか(リンクスホームページより引用)

●求められる機能

では次に、求められる機能を見ていこう。

フリートコントロールシステムに求められる機能は用途により様々だが、一般的に求められる主要機能を以下に挙げてみた。

①多数の車両の制御
②多車種の制御
③配車制御
④配送ルート/タイミング制御
⑤交差点制御
⑥バッテリ管理
⑦稼働時間管理(予兆保全)
⑧WMS(庫内管理システム)/MES(製造実行システム)といった上位システムとの連携
⑨装置/エレベーター/シャッター等の外部装置との連携
⑩シミュレーション機能

これらはあくまで一般例であり、全てが必要なわけではない。自社の用途に応じて必要な機能があるかどうかだけを確認すればよいし、場合によってはこれ以外の機能が必要なこともあるだろう。

●専門化が進むフリートコントロールシステム

これまでフリートコントロールシステムは、ガイドレスAGVの車両開発の延長として、車両メーカーがカスタム開発で対応してきた。

ところが最近、上記のような機能を備えた汎用パッケージソフトウエアが登場し始めている。もちろん全ての機能を単独で対応できるツールは存在しないので、足りない部分は外部ツールやカスタム開発で補う必要があるが、全てをカスタム開発するのに比べれば導入のリードタイムやコストは大幅に削減できる。

これらソフトを提供しているのは、車両メーカーではなく専業のソフトウエアメーカだ。例えば海外では、大手フォークリフトメーカーが自社開発ソフトから専業メーカー製ソフトの採用に切り替えるケースが増えている。

フリートコントロールに求められる機能が複雑化・高度化しているため、自社開発では対応し切れないという判断だ。

国内でも今後、汎用ソフトを採用するメーカーが増えていくものと思われる。こういった専業メーカーのソフトは、汎用品として作られているため次のようなメリットがある。

・操作が比較的に簡単でマニュアル等も十分に整備されている
・多様なAGV機種への対応が可能
・機能のアップデートが継続的に提供され、システムの拡張性・発展性も高い
・カスタム開発に比べて低コストで導入が可能

●DXの高まりを追い風に

フリートコントロールシステムは制御台数が増えるほどコスト効果も大きくなるが、最初は少ない台数から始めることになるので効果が見えにくい。初期コストだけを見ると磁気テープ式のAGVでいい、もしくは人が運んだ方が早いと思えてしまうかもしれない。

しかし、前述の通り長期的に見ると導入の効果は非常に大きいし、いつかはやらなければいけないことだ。DX(デジタルトランスフォーメーション)の潮流に乗って、搬送自動化に取り組む企業は増えている。タイミングを逸して時流に取り残されないためにも、長期的な視点に立ち、思い切って進める必要がある。

さて、次回は「操作性」について解説する。

次回へ続く)

著者プロフィール
小山早俊(おやま・さとし)
1978年熊本県生まれ。2006年3月東京大大学院工学系研究科修了後、同年4月丸紅ソリューション(現丸紅情報システムズ)入社。非接触3Dスキャナ(GOM社)のセールスエンジニアとして経験を積んだ後、隙間段差レーザー計測装置LaserGauge(Origin Technologies社)など複数の新商品立ち上げに従事。外資系マーケティングエージェンシー、ミスミを経て19年12月リンクス入社。フィンランドのAGVメーカーNavitec(ナビテック)担当のプロダクトマネージャーとして事業立ち上げ、新製品や最新技術の日本国内への展開などを担当している。

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