荷主企業側はトラックドライバー不足の認識先行
貨物の保管・仕分け・ピッキングなどといった倉庫内作業に掛かるコストが膨らんでいる。人手不足によりパートタイム、派遣社員を中心とする庫内作業の担い手確保が厳しく、これに他産業との採用競合も加わって時給を上げざるを得ない状況にあるという。
大手物流企業関係者は「トラック運賃は見直し・適正化が順調に進んでいるが、荷主企業には“物流=トラック”のイメージが強く庫内作業の労働力不足まではなかなか伝わらない」と指摘。物流コストの上昇がトラックから倉庫に拡大していることがうかがえる。
物流業界筋の情報を総合すると、ここに来てパートタイムと派遣社員の時給は急激に上昇しているもようだ。前出の関係者は「足元の賃金相場は1時間当たりパートタイムで1000~1500円、長期常用でスキルのある派遣社員では2000~2500円。この水準では自助努力によるコスト吸収は困難を極める。かといって時給を渋れば募集はおろか現在のスタッフにも逃げられてしまうリスクがある。荷主企業に庫内作業の料金改定を要請しているが理解は得られていない」と苦悩の表情を浮かべる。
また大手不動産デベロッパー関係者は「物流施設のパートタイム確保で必ずといってもいいほどバッティングするのが大手小売業のショッピングモール。とりわけ主婦層は明るい職場イメージや家事経験、コミュニケーション力などを生かせる後者に流れる傾向が強い」との見方を示し、他産業の存在がスタッフ採用で障壁要素となっていることを懸念する。
物流施設内でパートの引き抜きなど過度な採用活動も
さらに別の物流施設デベロッパー関係者は「同一施設内に入っているテナントの間でも労働力の取り合いが起きている。中には他の入居企業に自分のところの時給など雇用条件を知られたくないとの理由でマルチテナント型施設を嫌がる荷主企業も出てきている」と労働力確保競争のヒートアップに驚きを隠さない。この関係者は自社の施設間で労働力を融通し合える仕組みを導入できないか社内で検討を進めているという。
このほか同業他社との時給競争、技能職のフォークリフトオペレーターが補充できていないケースも多数散見された。著名企業の物流子会社でも「企業ブランドが採用活動でプラスに働いたのは一昔前の話。今の労働市場環境では大企業の冠など全く通用しなくなっている」と語り、いわゆる“寄らば大樹”は過去のものになりつつあるようだ。
厚生労働省「一般職業紹介状況(平成30年10月分)」によると、当月の運輸業・郵便業における新規求人全数は前年同月比11.1%増の6万8147人と全産業の中で最も高い伸びを示した。これを雇用形態別に見るとパートタイムが17.9%増の2万843人を記録。同じく増加傾向にある常用、臨時・季節と比べても突出しており、パートタイムが物流現場で重要な労働力と位置付けられていることが見て取れよう。
複数の物流企業関係者はこのまま時給を引き上げ続けるのは経営的にも限界があるとした上で、慢性的な人手不足と人材確保難を打開するには自動化・機械化を急ぐべきとの意見で一致している。ある物流企業関係者は「この1~2年の間に大手企業だけでなく中小企業でも自動化・デジタル化投資が活発になるだろう。投資対効果の精査なども含めてどれだけスピード感を持って意思決定できるかが鍵になる」と展望。並行して荷主企業に庫内作業費の価格転嫁を粘り強く訴えていく構えを見せている。
(鳥羽俊一)