【独自】自動冷凍・冷蔵倉庫で物流の標準化促進にも貢献

【独自】自動冷凍・冷蔵倉庫で物流の標準化促進にも貢献

三菱HCキャピタル&霞ヶ関キャピタル幹部 単独インタビュー(後編)

リース大手の三菱HCキャピタルと不動産ベンチャーの霞ヶ関キャピタルが物流施設事業の合弁に乗り出した。今年1月には共同出資している新会社「ロジフラッグ・デベロプメント」が営業をスタート。自動化機器を取り入れた冷凍・冷蔵倉庫の供給などを打ち出しており、今後3年間で総事業費2000億円規模の物流施設開発を目指す方針だ。

合弁事業のけん引役の一員を務める三菱HCキャピタルの若尾逸男不動産事業部長と、ロジフラッグ・デベロプメント社長を兼務する霞ヶ関キャピタルの杉本亮取締役常務執行役員物流事業本部長は、冷凍・冷蔵倉庫の自動化による物流の標準化や業務負荷軽減に強い意欲を見せている。合弁に至った背景や今後の事業方針などを聞いた。その内容の後編を紹介する。


昨年12月に本格的な合弁事業開始を発表する両社首脳

「パレット貸し」の構想披露

――自動化設備に関しては、物流施設を開発するデベロッパー自身が導入し、テナント企業に貸与する形も今後は広がりそうです。

三菱HCキャピタル・若尾逸男不動産事業部長
「マルチテナント型を考えていく上ではそういった部分も必要かなと思いますね」

霞ヶ関キャピタル・杉本亮取締役常務執行役員物流事業本部長(ロジフラッグ・デベロプメント社長兼務)
「できればそういう形はやっていきたいですね。冷凍・冷蔵倉庫に関しては、まだ私の個人的な考えの段階ですが、自動化した際のメリットはパレット貸しができるということではないかと感じています。仮にパレット単位の利用が可能になれば、例えば保管能力が1万パレットあり、そのうち9000パレット分を使いたいお客様がいたらその分だけ借りていただく。その上で残り1000パレットを別の方にご提供することが容易にできるようになります。スペースの有効活用などの観点から、冷凍・冷蔵倉庫に関しては床貸しにするよりは自動倉庫でパレット貸しの方が適していると思えますし、そうしたオペレーションはDXの力を借りると構築しやすいでしょう」

「ドライ倉庫は荷物の形が多種多様ですが、冷凍・冷蔵倉庫では荷姿がある程度決まっていると思うので、パレットを使いやすい。最新のテクノロジーを利用すれば、このパレットの場所が今空いていますというように、短期ですぐに倉庫を使いたいお客様にご案内できます。1パレットからでも冷凍・冷蔵倉庫が使えるという世の中を作っていきたいと感じています」

――どれくらいの時間軸でお考えですか。

霞ヶ関キャピタル・杉本氏
「まだ何か具体的なことが決まっているわけではなく、いきなり実現できることでもありませんから、まずトライアルができる倉庫を1カ所作り、オペレーションをいろいろと学びながら進めていくことになるでしょう。このご時世ではプロジェクトに長期間を掛けるのはなかなか難しいですし、お話しした通り、冷凍・冷蔵の自動倉庫を使いたいというニーズも多いので、私個人としては2~3年くらいのスパンで実現したいですね。もちろん、三菱HCキャピタルさんをはじめ皆さんと協議していくことが大前提です」

――構想の具体化はこれからということですが、今後はどのように話を進めますか。

霞ヶ関キャピタル・杉本氏
「まずはパレット貸しのシステムが構築できるかどうか、自動倉庫メーカーなどの方々と共同研究しながら進めていくことになるでしょう。借りたい方々とのマッチングも重要になりますので、そうしたマッチングのシステムを手掛けておられるところともお話をさせていただきたいと思っています」

三菱HCキャピタル・若尾氏
「新しいことにチャレンジしていかないといけないので、そこは積極的にニーズを取りに行きたいですね」

――冷凍・冷蔵の自動倉庫という点ではリースのノウハウが生かせそうですね。

三菱HCキャピタル・若尾氏
「お客様に冷凍・冷蔵設備をリースしていただくなど、オペレーションの在り方は様々だと思います。おっしゃる通り、われわれの経験も生かした上でいろいろな連携の仕方があるでしょう」

――ドライ倉庫に関してはテナント企業のDXの要望に対してどのように携わっていきますか。

霞ヶ関キャピタル・杉本氏
「先ほども申し上げましたが、冷凍・冷蔵倉庫はある程度荷姿が固まっていますからパレット出荷を取り入れやすいと思いますが、ドライ倉庫の場はパレット単位だったり、ケースごとだったり、ピース単位だったりと多様な出荷形態になります。入出荷の領域はまだまだ人手が必要です。汎用性のある自動倉庫をどう作るか、ちょっとまだ難しいように思えます」

「ドライ倉庫に関しても、もちろん目指すべき未来はまさに全体の自動化でしょう。どんな形の荷物であっても自動で受け入れ、どんな形でも自動で出荷できるようにするのが理想の姿ですが、そこまでの道筋は冷凍・冷蔵倉庫よりは距離があるかなと感じます。まずは冷凍・冷蔵倉庫ですね」

「これも前から申し上げていますが、マイナス25度という倉庫内の作業は働かれている方々の負荷が非常に大きい。自動化でそうした問題を解決するのは社会的に意義があります。世の中の役に立ち、テナント企業にも喜んでいただける施設になります。要素技術はそろっていますから、あとは誰がそうした自動倉庫を作り上げるのかという段階です。まず1社に、パレット貸しが可能な冷凍・冷蔵の自動倉庫をお使いいただき、便利だねと評価していただければ全国に広がっていくでしょう」


三菱HCキャピタル・若尾氏

投資市場の整備進展に期待

――自動の冷凍・冷蔵倉庫が普及すれば、ドライ倉庫と同じく投資市場も整備できそうですね。

三菱HCキャピタル・若尾氏
「そうですね。今はまだ、冷凍・冷蔵倉庫は賃料相場があってないような状態ですから、投資環境の整備が進んでいく可能性はありそうです」

霞ヶ関キャピタル・杉本氏
「パレット貸しが可能な冷凍・冷蔵倉庫は、国土交通省や経済産業省などが旗を振っておられる物流の標準化にも貢献できると思います」

――合弁会社は3年間で2000億円規模を投資する計画を打ち出しています。その後の事業展開はどのように展望されますか。

三菱HCキャピタル・若尾氏
「まずは3年間、事業を巡航速度に乗せられるようしっかりと取り組みます。それができるのであれば、さらに事業を大きく成長させていけると思います」

――三菱HCキャピタルはセンターポイント・ディベロップメント(CPD)とも提携しています。今後、CPDと連携していく可能性はありますか。

三菱HCキャピタル・若尾氏
「CPDさんはドライ倉庫を中心に、積極的に事業展開されていきます。CPDさんも倉庫の自動化を進める必要性は意識されていますので、今後連携することは十分考えられます。ただ、まだそういった協議をしているわけではなく、まずは今の合弁事業を回転させていくことが優先です」

――海外からの投資の受け皿を整備することについてはどのようにお考えですか。

霞ヶ関キャピタル・杉本氏
「個人的には合弁の枠組みの中で何かできればいいとは思っています。確かに、海外の投資家は本当に皆さん、物流施設に投資したいとおっしゃっていますから、探せば私たちの案件に投資してくださる方も多くいらっしゃるでしょう。ただ、まだそこについては具体的な話はありません」

――環境に配慮した冷凍・冷蔵倉庫はSDGsとも相性が良さそうです。再生可能エネルギーの利用についてはどのようにお考えですか。

霞ヶ関キャピタル・杉本氏
「海外の投資家などにわれわれの環境配慮型の冷凍・冷蔵倉庫のお話を持っていくと非常に興味を持っていただけます。これは霞ヶ関キャピタルとしての話になりますが、まずどの物流施設にも太陽光発電設備を導入していきたい。冷凍・冷蔵倉庫の場合は電力消費が大きいので自家消費になります。ドライ倉庫の場合は余剰分を売電したり、環境付加価値を付けたりすることができるでしょう」

三菱HCキャピタル・若尾氏
「弊社も再生可能エネルギーの活用には非常に興味を持っています。物流施設だけではなく、オフィスビルなど他のアセットでもいろいろと取り組みがありますし、格付けの取得も進めています。冷凍・冷蔵倉庫の領域でも再生可能エネルギー由来の電力への代替が進められれば社会貢献につながります。もともと最近の冷凍・冷蔵倉庫は格段に省エネが進んでいますが、そこへさらに再生可能エネルギーを使うことで、より環境に配慮した倉庫と言えるようになるのではないでしょうか」

――両社間で合弁会社の位置付けはどうなっていきますか。

霞ヶ関キャピタル・杉本氏
「基本的にはロジフラッグ・デベロプメントが冷凍・冷蔵を含めた物流施設を手掛けていきます。それとは別に、霞ヶ関キャピタルとしてリスクを取るパターンもあると思います」

――お話いただいたような構想が実現すれば10年後の冷凍・冷蔵倉庫の姿はかなり変わりそうですね。

霞ヶ関キャピタル・杉本氏
「変えていきたいですね。これもまだ個人的に考えている段階ではありますが、トラックの輸配送の部分で自動運転が実用化されていくことを考慮して、トラックを受け入れやすいような仕様に物流施設の方を変えていくことが必要かもしれません。そういったところにも配慮していきたいですね」


霞ヶ関キャピタル・杉本氏

(藤原秀行)

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