【独自】「マルチテナント型冷凍・冷蔵倉庫」の早期実現目指す

【独自】「マルチテナント型冷凍・冷蔵倉庫」の早期実現目指す

三菱HCキャピタル&霞ヶ関キャピタル幹部 単独インタビュー(前編)

リース大手の三菱HCキャピタルと不動産ベンチャーの霞ヶ関キャピタルが物流施設事業の合弁に乗り出した。今年1月には共同出資している新会社「ロジフラッグ・デベロプメント」が営業をスタート。自動化機器を取り入れた冷凍・冷蔵倉庫の供給などを打ち出しており、今後3年間で総事業費2000億円規模の物流施設開発を目指す方針だ。

合弁事業のけん引役の一員として「労働力不足など物流業界が抱える課題の解決に貢献したい」と意気込む三菱HCキャピタルの若尾逸男不動産事業部長と、ロジフラッグ・デベロプメント社長を兼務する霞ヶ関キャピタルの杉本亮取締役常務執行役員物流事業本部長に、合弁に至った背景や今後の事業方針などを聞いた。その内容を2回に分けて紹介する。


若尾氏(左)と杉本氏

素晴らしいパートナーにめぐり会えた

――最初に、合弁に至った経緯をあらためてお聞かせください。

三菱HCキャピタル・若尾逸男不動産事業部長
「まず冷凍・冷蔵倉庫の需要拡大への期待感があります。eコマースの利用増に加え、ふるさと納税の普及で返礼品の食品などの保管需要も伸びています。そうした背景から冷凍・冷蔵関係の倉庫需要はすごく高まってきています。その一方で既存の冷凍・冷蔵倉庫の老朽化の問題がありますから、弊社でも以前から冷凍・冷蔵倉庫の供給、賃貸については着目をしており、ファイナンスや投資も含めて開発事業の参入をかねてから検討していました。その中で自社の強みを生かしつつ相互補完が可能なパートナーを模索していました」

「霞ヶ関キャピタルさんはまだ物流事業を始められてから1~2年くらいしか経っていなかったと思いますが、非常に事業の拡大スピードが速いところに着目しました。人手不足や脱炭素といった社会的課題の解決に貢献するため、環境配慮型の冷凍・冷蔵倉庫、自動の冷凍・冷蔵倉庫といった特徴のある物件の開発を標ぼうされていました。さらに、開発用地の取得や開発プロジェクトのマネジメント、リーシングなどをワンストップで行えるチーム力の高さもお持ちです。まさに当社の事業の方向性と合致しましたので、合弁契約の締結に至りました」

霞ヶ関キャピタル・杉本亮取締役常務執行役員物流事業本部長(ロジフラッグ・デベロプメント社長兼務)
「今、お話いただいた通りなのですが、当社は2011年設立でまだまだベンチャーではありますが、事業の拡大スピードは早く、メンバーの意識が非常に柔軟です。課題を解決するためにこういう事業がやりたい、そうであればまずわれわれが最初にチャレンジしようという空気感が醸成されています。そうした弊社のビジネスに興味を持っていただいて本当にありがたく思っています」

「同時に、ベンチャーならではの事情だとは思いますが、開発案件ごとに参画してくださる外部の投資家の方々を探す必要があり、包括的に取り組まれるパートナー企業がいてくださったらいいなと感じていました。そうしたところに三菱HCキャピタルさんが当社の事業に興味を持っていただき、とんとん拍子に話が進みました。私は以前、別の投資顧問会社に勤めていたのですが、そのころから三菱HCキャピタルさんは非常にしっかりと、個別の案件ごとに投資判断をされている会社という印象を持っていました。物流施設の領域に関しても投融資の形で取り組まれてきた歴史が長く、非常に多くの知見をお持ちですし、合弁契約締結で本当に素晴らしいパートナーにめぐり合えたと感謝しています」

三菱HCキャピタル・若尾氏
「物流施設に関しては、今のようにメジャーな存在のアセットになる前から様々な企業が手掛けられるプロジェクトに対し、ファイナンスの面で協力させていただいてきた経緯があります。弊社のビジネスはメザニンファイナンスやエクイティのようにリスクの高いところを積極的に取りに行っているのが特徴です。お相手を特定のところに絞らず、有望なプロジェクトには積極的にご協力、サポートさせていただく姿勢はこれからも変わりません」

――今回の合弁は、冷凍・冷蔵倉庫をメーンに据えています。どのような方針で事業に臨みますか。

霞ヶ関キャピタル・杉本氏
「冷凍・冷蔵倉庫は世の中全体でeコマースの利用が伸びている上に、そもそも倉庫の数自体が足りていないという現状があります。ドライの普通倉庫も提供しますが、冷凍・冷蔵倉庫も手掛けていきたい。立地によって、ここは冷凍・冷蔵の方が適している、ここはドライの倉庫を構えた方が生きてくる、というように、個々の案件で判断していきます。決して冷凍・冷蔵倉庫だけを進めるということではありません」

「ただ、当社は他のデベロッパーの方々よりは比較的、事業化できる領域が少し広いと考えています。小規模な土地でも冷凍・冷蔵倉庫であれば事業化しやすい。大手デベロッパーのように何万坪というような大型開発ではないですが、数千坪の規模でも開発できますから、そういう意味では弊社の特徴を生かせると思います」

――昨今はランプウェーが取り付けられた大規模なマルチテナント型物流施設が主流になっていますが、おっしゃるような中小規模の倉庫にもニーズは確実にありますか。

霞ヶ関キャピタル・杉本氏
「そうですね。もちろん立地次第ではありますが、小規模でもいわゆる在庫型でそんなに賃料が高くない倉庫はいつの世もニーズはあります。都心の物件は商品の配送が重要ですからランプウェー付きの大型案件が求められると思いますが、冷凍・冷蔵倉庫は小さいものでも需要があります。大きさにこだわらず事業を展開していきたいですね。そもそも、大規模な開発用地になると取得競争が激しくてなかなか太刀打ちできないという面もあります」

三菱HCキャピタル・若尾氏
「入札に参加される場合はおっしゃるように厳しい戦いをしなければいけないと認識しています。霞ヶ関キャピタルさんは入札より相対で開発用地を取引し、うまくグリップして良質なアセットに育てていかれる点で非常に長けていると思います。今後、物流施設の供給が過多になる時代がどこかで来るかもしれません。そうした状況にあってもしっかり選んでいただける案件を、霞ヶ関キャピタルさんと一緒に手掛けていきたいですね。自動の冷凍・冷蔵倉庫もその一環です」

「物流施設のテナント企業の中には働き手を採用するのに大変苦労されているところが多い。通勤しやすいところに開発したり、施設の中に託児所やコンビニを設けたりといったことをされているケースも多いですが、交通の要衝の近くに自動倉庫を構えることもそうした課題の解決にお役立ていただけるのではないかと思います」


霞ヶ関キャピタルが埼玉県久喜市で開発を計画している「LOGIFLAG(ロジフラッグ)」ブランドの物流施設の完成イメージ。ロジフラッグ・デベロプメントもアセットマネジメントなどを担う計画(同社提供)

東北エリアの需要にも期待

――合弁を発表された後、荷主企業などからの反響はいかがですか。

霞ヶ関キャピタル・杉本氏
「やはりお問い合わせは増えてきていますね。テナント企業もそうですが、ゼネコンや土地をお持ちの方々からのお話も増えてきています。冷凍・冷蔵倉庫についても、取引先の金融機関を通じて話をぜひ紹介してほしいというご依頼が結構増えてきています」

――マルチテナント型の冷凍・冷蔵倉庫の構想を発表されていました。そちらに対する反応はいかがでしょうか。

霞ヶ関キャピタル・杉本氏
「非常にいいですね。プロジェクトの時期は今のところ数年先を見込んでいるため、もう少し竣工が早くならないかというお声もいただいています。自動倉庫のプランを策定して、いろいろなところでご説明しているのですが、関心はとても高い。冷凍・冷蔵倉庫の未来はこれだよねという反応も多く、手応えを感じています」

――具体的にどういうところが好反応を見せていますか。

霞ヶ関キャピタル・杉本氏
「物流会社さんや3PL事業者さんのように現場で作業されている方が多いですし、あとは大手の冷凍食品メーカーさんも非常に反応がいいんです。マルチテナント型の冷凍・冷蔵倉庫開発を想定している大阪の南港エリアのプロジェクトを一緒にやりませんかという話もいただいています。先ほどもお伝えしたような、ふるさと納税に伴う取扱量増加のほか、テレビショッピングの関係でも、冷凍・冷蔵食品を紹介されると売り上げがすごく伸びるそうなので冷凍・冷蔵倉庫を借りたいというご要望が来ています。非常に面白いと思っています」

――開発のエリアについてはいかがですか。合弁会社というわけではないのですが霞ヶ関キャピタルさんが公表されている自社の開発計画は首都圏や関西圏、九州圏がメーンになっています。

霞ヶ関キャピタル・杉本氏
「ご指摘の通り、弊社の公表ベースでは首都圏が中心で、そのほかは関西圏や福岡で計画を進めています。それ以外にまだ契約には至っていないのですが、仙台や中部のエリアでも準備を進めています」

――東北エリアはこれまで先進的な物流施設の開発がなかった分、需要が蓄積されているとの声をよく聞きます。

霞ヶ関キャピタル・杉本氏
「まず東名阪で需要が旺盛な状況があり、今は福岡がそういう感じになっていますね。どこのエリアも地価が上昇し、取得競争が激しくなっています。仙台などの東北エリアは東日本大震災の影響がまだ少し残っていますが、結構ニーズは強いと思いますね。東北6県の拠点として使われるケースが多いので、大型の食品向け冷凍・冷凍センターのニーズは強いのではないかとみています」

――全国的に物流施設の需要を開拓できそうでしょうか。

三菱HCキャピタル・若尾氏
「そう思いますね。特に、大消費地に近いエリアがその可能性が大きいでしょう」

霞ヶ関キャピタル・杉本氏
「基本的にはそういうエリアを狙いたいですね」

――開発用地の取得はデベロッパーの各社が悩まれているところであり、腕の見せ所でもあると思いますが、今後どのように対応されていきますか。

三菱HCキャピタル・若尾氏
「行政が手掛ける区画整理事業は価格競争になっていない部分が大きいので、今は積極的に取りに行こうとしています。先ほどもお話した通り、やはり入札は状況が厳しい。あとは市街化調整区域ですね。時間がかかったとしても、しっかりと開発できる場所を探していくことが重要でしょう。そうした部分でも霞ヶ関キャピタルさんと協力できる枠組みができたと思いますね」

――マルチテナント型の冷凍・冷蔵倉庫は現状としてほとんど存在していないだけに、借りる側もイメージしづらい部分があると思います。まずは案件を1つ世に出すことが重要だと感じます。

霞ヶ関キャピタル・杉本氏
「時期はいつになるかまだ明確には申し上げられないのですが、おっしゃる通り、実現させなければいけないプロジェクトであり、できればロジフラッグ・デベロプメントの方で進めていきたい。まだ世の中に広く存在しているものではないので、もしかしらたら、まず霞ヶ関キャピタル単体でリスクを取って開発する必要があるかもしれません。コスト面では当然、通常の倉庫よりは割高になりますから賃料もアップします。いかにテナント企業が自動化、省人化にメリットを見いだせるかが重要になります。そこはきちんとお客様にご説明できるようにしなければならないでしょう」

三菱HCキャピタル・若尾氏
「いろんなテーマで事業を成長させていきたいと考えています。そういった意味では物流施設の環境対応もそうですが、業務のデジタル化やDXの観点で様々な新しい先進技術を取り入れていくことを考えています。弊社はリース会社で設備のリース経験も多々あります。今回の合弁で新しい領域へより積極的に取り組める座組みができましたから、いろいろなことにトライしていきたいですね」

後編に続く)

(藤原秀行)

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