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【独自】DHLサプライチェーン ジレ日本・韓国クラスターCEO単独インタビュー(後編)

【独自】DHLサプライチェーン ジレ日本・韓国クラスターCEO単独インタビュー(後編)

「人手不足対応へ日本でも社員とエンゲージメント向上の直接対話継続」

ドイツポストDHLグループの事業部門の1つでコントラクトロジスティクス(3PL)事業を展開しているDHLサプライチェーン(SC)の日本・韓国クラスターCEO(最高経営責任者)に2月15日付で就任したジェローム・ジレ氏はこのほど、ロジビズ・オンラインの単独インタビューに応じた。

ジレ氏は日本の物流業界が抱える人手不足に関し、物流拠点内のピッキング業務を省力化するロボットの導入や、入出荷などに関するデータを分析・活用した在庫最適化を軸に、業務の効率化と負荷軽減を図る考えを表明。

同時に「日本では社員のエンゲージメント(所属する企業への愛着心や成長に貢献したいという意識)を高めていくことを大事にしたい」と強調。前任地のシンガポールで実践していた、個々の従業員と直接コミュニケーションを取って悩みや業務改善の提案を現場にフィードバックしていくことを引き続き推し進めると説明した。

新型コロナウイルスの世界的な感染拡大の影響を受け、グローバル規模でサプライチェーンが混乱していることについては「私達DHLグループはコロナ禍でも一貫したサービスを提供できたし、今もできていると自負している」と自信をのぞかせた。

インタビューの後編を紹介する。


ジレ氏(DHLSC提供)

「人材はいるが、十分惹きつける力が今の物流業界にはない」

――日本に強い関心を持っているとのお話でしたが、日本の物流業界は深刻な人手不足やデジタル化の遅れといった長年の課題があります。そうした現実をどのように感じていますか。
「おっしゃる通り、非常に課題が多い面があり、競争も非常に厳しいと思っています。人手不足という課題についても日本だけではなく、他の国が直面している物流業界全体の課題だと考えています。こういった人手不足の業界の中で、私達は差別化を図っていくことが重要です。そのために、日本では社員のエンゲージメント(所属する企業への愛着心や成長に貢献したいという意識)を高めていくことを大事にしたいですね」

「以前は人材を採用する際、候補者の方が会社へ面接に来て、候補者の方が会社に入りたいと熱意をアピールする、というのが一般的でしたが、今の時代は逆だと思っています。会社が候補者に、いかに自分たちの会社が、そして業界が素晴らしいかということを逆にアピールし、説得していかなければいけないような状況に変わってきています。自動化などを進めることも大事ですが、社員のエンゲージメントを高めていくために、そして物流業界を魅力的な業界にしていくために、創意工夫を凝らしていくことも同じく重要でしょう」

「物流業界は今後、自動化などに投資していかなくてはいけないということももちろんありますが、やはり物流業界は人あってこその業界です。いかに人を惹きつけていくのかを重視していきたい。着任後、まず数カ月間は社員のエンゲージメント向上に注力していきたい」

「人手不足ということが騒がれていますが、人材はいると思うんです。ただ、残念ながら、その人材を十分に惹きつける力が今の物流業界にはない。この部分にメスを入れていく必要があるでしょう。多くの人が物流業界に興味を持ち、ぜひ働きたいと思えるような業界にしていきたいと思っています」

――これまでにもいろいろな形でエンゲージメント向上に取り組まれてきたと思いますが、今後日本や韓国で取り組んでみたい、試してみたいと思うことはありますか。
「確かにこれまでにも様々な取り組みを行ってきました。これからもっと深く、社員1人1人の声を聞いていかなければならないと思っています。特に当社は現場でオペレーションを担って働かれている方々が、社員全体の9割を占めていますので、そうした方々の声に耳を傾け、皆さんが何を大事に思っているのかをもっと深く理解する必要があります。そうして集めた声をベースに今後の方針を打ち立て、さらに働かれている方の満足度を上げていきたい」

「また、若い世代について言えることとして、仕事に対する価値観は私達と異なるのではないかと思っています。仕事が楽しいものであることを求めていると感じます。ですから、物流のイメージ全体を変えていかなければならないでしょう。現場にロボットやドローンがあり、システムが革新的であれば非常に魅力的で働きたくなるような現場になると思います。そうした変革も行っていきたい。また、物流業界のイメージを変えていく上では、メディアの方々に良いイメージを伝えていただくことも重要でしょう」

――シンガポールクラスターの時に、働かれてる皆さんの声を深く聞いて、それをうまく職場の環境改善などに生かせたケースはありますか。
「シンガポールでまずやっていたことは、月次で社員とのセッションを設けていました。新型コロナウイルスの感染拡大前は直接、各拠点を回っていたんですが、コロナ後はオンラインで開催しています。社員とのセッションを通して社員それぞれの声を聞き、オペレーションや仕事に直接関わることではなくても、どういったことを大事にしているのかということを聞き取っていました。毎月、様々な拠点を回り、集まった声を踏まえ、必要に応じて経営の方針を転換し、きちんと対応も講じるようにしました。きちんとアクションを取ることによって、自分の挙げた声がちゃんと会社に届いているんだということを示すよう心掛けてきたんです」

「それ以前は各マネジメントレベルで、階層ごとにこうしたミーティングが行われていたんですが、現場の声が直接社長に届かないという課題がありました。階層を介することによって、どうしてもフィルターがかかってしまうということがあったので、社員とのセッションのポイントとしては、直接現場で働く皆さんの声を聞くためのセッションと位置付けてきたということです」

「例えば、ある現場で話した1人の女性スタッフの方は63歳でした。シンガポールでは62歳が定年で、そうなると雇用形態、給与体系が変わるため、ボーナスを受け取ることができていないという話を聞きました。シンガポールでは18歳から79歳まで様々な年齢の方がいらっしゃいますし、出身も様々な方が仕事をしています。組織のダイバーシティ(多様性)を私は重んじているため、このフィードバックを受けて、同じ役割を続けるのであれば63歳になっても給与体系は変えないという新たな規定を設けました。こうすることにより、現場の方々は非常にハッピーになりました。本当に現場で働く人の声を聞くことが、その会社全体にとってプラスになると確信しています」

――日本や韓国でも、直接現場の方にトップ自ら会われて声を聴くという形は続けていきますか。
「そうですね、ここは今後も大切にしていきたいですね。先ほども申し上げましたように、社員の9割が現場で働き、日々のオペレーションを担っていますから、オフィスで長時間を過ごすよりも、そういった現場へ積極的に足を運びたいと思っています。そして、この9割の社員がハッピーであれば、会社としても非常にハッピーな職場になりますし、お客様の満足度向上にもつながるでしょう。現場の社員の皆さんとなるべく多くの時間を過ごしたいですし、私の直下の経営陣にもそうしてほしい、現場の声を聞いてほしいと願っています」


現場スタッフとの意思疎通を重視(DHLSC提供)

スタートアップ企業とパートナー関係構築

――シンガポールでは業務の自動化、ロボティクスにどう取り組まれたのでしょうか。また、日本・韓国クラスターでは今後、具体的にどのように取り組まれるお考えですか。
「まずシンガポールは倉庫の在り方が日本と若干違います。天井が日本より高いですし、1階層のフロア面積も広いんですね。なので、大型投資がしやすいという倉庫の特徴があります。実際、自動倉庫などの大型投資を実施し、生産性を高めました。6万以上のオリコンが1つのシステムに入っていくような、非常に大規模な投資です。こういった大きな投資ができる背景としては、業務を請け負う契約期間も日本より長いので、投資の回収がしやすいという側面もあります。ただ、もちろん大型の自動化や投資だけではなく、投資の規模が小さくても生産性が高められれば意味はあると思っています」

「日本・韓国については、商品の入った棚を持ち上げ、作業スタッフのところに運んでくるGTP(Coods To Person)型のロボットを増やしていきたいと考えています。日本の倉庫は天井高がシンガポールより低いですので、保管効率を向上させるためにはそうしたロボットを活用することがより日本には合っているのではないか。もう一つ、データアナリティクスのような、データを使ったイノベーションで在庫の最適化を図ることにも注力していきいたい。この2つが軸になる予定です。技術は日々進化しています。特定のメーカーに絞らず、また海外だけではなく日本で活躍されている様々なサプライヤーとも協力関係を構築することを検討していきます」

――物流の課題を解決する上では優れた技術を持つスタートアップ企業とも連携する必要がありそうです。例えばそうした企業に出資したり、積極的に提携していったりすることもお考えでしょうか。
「今のところ、当社からスタートアップ企業に投資する予定はありませんが、パートナー関係は築いていきたい。これまでにやってきたこととして、例えば、スタートアップ企業に対し、協力関係を結んだ上でDHLとしてリソースや技術のテストを行う場所を提供し、DHLがその技術を試した上で、双方が合意できればその技術を当社が正式に利用するといった契約パートナー関係を結んできました。日本でもそうした形を検討していきたいと思います」

――お話を伺っていると、完全自動化を志向するというよりは、人間とロボットなりテクノロジーが協働していくことに主眼を置かれているような印象です。
「もちろん、完全自動化を否定するわけではありません。全くやらないというわけでもないんですが、完全自動化倉庫については、やはり大がかりな投資となりますし、それだけお客様とも長い契約期間が必要です。一方でテクノロジーは日々進化していますので、バランスが重要だと思っています。当社のオペレーションの現況にうまくフィットすれば完全自動化の可能性があるかもしれませんが、費用対効果も考え、正しいバランスで投資をしていくことを大事にしていきたい。先ほどもお話しした通り、やはり人材あってのビジネスだと思いますので」

――グローバルのサプライチェーンはコロナの世界的な感染拡大や、ロシアによるウクライナ侵攻で混乱が続いています。今後、どのように対応されていきますか。
「大変申し訳ないのですが、ウクライナの件はコメントを差し控えさせていただきたいと思います。コロナに関しては、世界の全ての人にとって困難なものであったことは間違いないありません。しかし、同時に、当社にとってはチャンスでもありました。どういうことかといえば、DHLという企業は物流に関する業務を一貫して推進していますし、業務の標準化も全ての国で進んでいます。どこの国や地域に行っても一貫して安定したサービスを提供できているのがわれわれの強みです。コロナ禍の混乱の中で、競合他社が、ある国においてはオペレーションが混乱したり業務内容が変わってしまったりした一方、私達は一貫したサービスを提供できましたし、今もできていると自負しています」

「2つ事例を挙げますと、例えばオーストラリアでは、DHLがワクチンに関し、国内配送など物流業務全体を政府から受託しました。それは過去、物流企業として安定していることを信頼いただいた結果だと思います。また、シンガポールでも政府のコロナ対応のコールセンター業務を受託しています。これもひとえに政府から厚い信頼を受けている結果でしょう。われわれは同時に、現場で働く社員の方々の安全面にも非常に気を配り、感染対策に最大限注力しています」

「日本・韓国においても、シンガポールにおいても大きな混乱はなく、物流を止めることもなく、しっかりと荷物をお客様にお届けすることができています。コロナ禍は私達の事業の強さを証明する機会にもなりました。コロナという非常に困難な状況に直面した中でも、成長を加速することができましたし、業績を上げることができました。それはこれからも変わることなく続けていきます」

(藤原秀行)

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