ドクタートラストがストレスチェック全業種データ分析、20年度に続きツートップに
企業の健康管理支援を手掛けるドクタートラストは8月4日、2021年度にストレスチェックの実施を受託した940の企業・団体における集団分析データを基に、健康リスクの業種別ランキングを算出したと発表した。
その結果、総合的に最も健康リスクが高い業種は「医療、福祉」と「運輸業、郵便業」だった。いずれの業種も2020年度に続いてのトップとなった。「運輸業、郵便業」は上司や同僚とのコミュニケーションで特にリスクが目立っており、同社は注意を呼び掛けている。
ストレスチェック制度は、従業員のメンタル不調の予防やその気付きを促すこと、また、ストレスが高い人の状況把握やケアを通して職場環境改善に取り組むことを目的として制定。2015年12月以降、従業員数50人以上の事業場で年1回の実施が義務化されている。今回の調査では21年度に同社でストレスチェックを受検した32万4642人の最新結果を分析した。
「健康リスク」は、「仕事の負担・コントロール」リスク、および「上司・同僚とのコミュニケーション」リスクという2つの指標をかけ合わせた数値。2つの指標への意味の理解と「現状の数値から何を読み取ることができるのか」が健康リスクを扱う上では、非常に重要なポイントという。
表1
健康リスクが最も不良だったのは「医療、福祉」で107、次いで「運輸業、郵便業」が106だった。「医療、福祉」と「運輸業、郵便業」に大きなポイント差は見られなかったものの、「医療、福祉」は仕事の負担・コントロール面で、「運輸業、郵便業」はコミュニケーション面で高いストレス負荷が掛かっていることが分かった。
3位の「製造業」は、仕事の負担・コントロール面、コミュニケーション面の双方で高いストレス負荷が掛かっていることが判明した。
表2
表2は、数値が大きいほど「仕事の負担が多い」ことを意味し、ストレスチェック設問のうち、次の3問への回答から導出する。
1. 非常にたくさんの仕事をしなければならない
2. 時間内に仕事が処理しきれない
3. 一生懸命働かなければならない
このため、数値が高いほど仕事の負担が大きい、すなわち不良であることを示している。「教育、学習支援業」は、さまざまな形態の業務を一人でこなさなければならない場合も多い可能性が考えられ、そういった面から仕事の負担が個人に与える影響も大きく、長時間労働につながりやすいのではないかと推察している。
表3
表3は、数値が小さいほど「仕事のコントロールがしづらい」を意味し、ストレスチェック設問のうち、次の3問への回答から導き出す。
8. 自分のペースで仕事ができる
9. 自分で仕事の順番・やり方を決めることができる
10. 職場の仕事の方針に自分の意見を反映できる
コントロールが困難な業種ほど上位にランキングされており、1位は「医療、福祉」だった。
総合健康リスクを算出する2つ目の指標「上司・同僚とのコミュニケーション」リスクは、職場の上司や同僚とのコミュニケーションがストレスに及ぼす影響を示している。一般に仕事量が多く、裁量権が少ない職場でも上司や同僚への報連相がしっかり行うことができるため、コミュニケーションが活発な職場はリスク数値が良好傾向にあり、逆に仕事量が少なく、自分のやり方で仕事を進められても、孤立しがちでコミュニケーションが乏しい職場はリスク数値が不良傾向になるという。
表4
表4は、数値が小さくなるほど「上司とのコミュニケーションが少ない」ことを意味し、ストレスチェック設問のうち、次の3問への回答から導出する。
47. 次の人たちはどのくらい気軽に話ができますか?/上司
50. あなたが困った時、次の人たちはどのくらい頼りになりますか?/上司
53. あなたの個人的な問題を相談したら、次の人たちはどのくらいきいてくれますか?/上司
1位は2020年度に続き「運輸業、郵便業」、次いで「製造業」だった。「運輸業、郵便業」や「製造業」はドライバーや製造作業員などが割合の多くを占め、1人で黙々と作業を行うためコミュニケーションを取る機会が少なくなる傾向にあることが響いている。上司とのコミュニケーションが少ないと小さなミスの報告をしなくなり、しまいには大きなミスへとつながりかねない。また、上司は部下の業務内容・業務量を把握できず、人事評価といった部分で上司と部下間での考えや認識のすれ違いが起こり、不信感が増していく可能性が考えられるという。
表5
表5は、数値が小さいほど「同僚とのコミュニケーションが少ない」ことを意味し、ストレスチェック設問のうち、次の3問への回答から導き出す。
48. 次の人たちはどのくらい気軽に話ができますか?/同僚
51. あなたが困った時、次の人たちはどのくらい頼りになりますか?/同僚
54. あなたの個人的な問題を相談したら、次の人たちはどのくらいきいてくれますか?/同僚
「上司とのコミュニケーション」と同様、「運輸業、郵便業」のリスクが2020年度に続きワースト1だった。上司・部下間の縦のコミュニケーションだけではなく、同僚同士での横のコミュニケーションも不良傾向を示している。
ドクタートラストは、社内でのコミュニケーション(雑談を含む)を活性化することで下記のようなメリットがあると考えられると指摘している。
■仕事を依頼される、もしくは依頼しやすくなり仕事の作業効率が上がり、生産性が向上する
■新しい発想が生まれ、どの立場の人でも自由に意見交換ができるような組織風土が醸成される
■ポジティブ思考に変わり、ワークライフ・バランスが充実する
■社員の仕事へのやる気、エンゲージメントが向上する
■離職率が下がる
その上で「コミュニケーションが活発でない職場で、意見交換の場や業務中の会話を増やすようにと言われても自然に改善していくことは難しいでしょう。まずは、社内での簡単なイベントや気軽に発信できる情報共有ツール(グループチャットなど)を活用し、ちょっとした雑談を増やしていくことが職場の雰囲気作りを行う上で最も効果的なのではないかと考えられます」との見解を示している。
総合健康リスクを算出する上で必要な要素「仕事の負担」、「仕事のコントロール」、「上司とのコミュニケーション」「同僚とのコミュニケーション」について、2021年度と2020年度を比較したところ、もっとも差が大きく表れたのは「仕事の負担」リスクだった。
表6
表6は、2021年度、20年度の「仕事の負担」リスクを業種ごとに表している。仕事の負担率の悪化率が最も大きかったのは「金融業、保険業」だった。21年度は20年度よりも0.51ポイント悪化した。
ドクタートラストは、「運輸業、郵便業」に関し、「仕事の負担」リスクにおいては良好傾向である一方、「上司・同僚とのコミュニケーション」のリスク数値が不良だったことで順位を押し上げたと解説、注意を呼び掛けているる。
調査対象
調査期間:2021年4月1日~2022年3月31日
調査対象:ドクタートラスト・ストレスチェック実施サービス 2021年度契約企業・団体の一部
企業・団体数:940
有効受検者数:324,642人
※業種分類は「日本標準産業分類」に準拠
(藤原秀行)※表はいずれもドクタートラスト提供