【解説】公取委の社名公表、試される物流業界の自浄努力

【解説】公取委の社名公表、試される物流業界の自浄努力

進まない運賃適正化に政府がいら立ちか

公正取引委員会は12月27日、燃料費や人件費、原材料費といったコスト上昇分の取引価格への転嫁の必要性を下請け企業などと価格交渉の場で明示的に協議せず、据え置いていることが確認されたとして、13の企業・団体の実名を公表するという極めて異例の措置に出た。

衝撃的だったのが、メーカーや卸売業などを抑えて、物流企業が最も多かったことだ。佐川急便にトランコム、丸和運輸機関と業界に影響力を持つ規模の企業も含まれていたのは驚きを持って関係者の間で受け止められた。

公取委と中小企業庁が12月15日に公表した人件費や原材料費、電気代などのコスト上昇を下請け企業との取引価格に転嫁しているかどうかに関する調査報告書でも、下請法違反の事例が特に目立つ19業種の中で道路貨物運送業の取引価格交渉への消極姿勢やコンプライアンス(法令順守)軽視が際立っている実態が浮き彫りになったばかりだ。

物流業界などの関係者の間では「運賃適正化がなかなか進まないことに政府がいら立ちを募らせている表れであり、物流業界が事実上、スケープゴートに使われたのではないか」と警戒する向きがある。別の関係者は「物流業界が進んで自浄努力の姿勢を見せないと、締め付けがかなりきつくなりかねない」と懸念する。

トラックドライバーの長時間労働規制が強化される「2024年問題」が間近に迫る中、運賃を適正化し、ドライバーをつなぎとめることが今まで以上に強く求められるだけに、公取委が投げつけてきた剛速球をどのように返すのか、2023年は物流業界の覚悟が試される。


公取委が異例の措置に踏み切った意味は…

「これまで以上に厳正な執行」と決意

「独占禁止法や下請法に違反する事案については、命令、警告、勧告など(これらの措置は企業名公表)、これまで以上に厳正な執行を行う」。公取委は12月27日の発表資料の末尾で、強い決意を表明。警告を発した格好だ。

独禁法は、企業が取引上、発注側として優越的な地位にいることを利用し、取引相手に対して正常な商慣習に照らし合わせると不当な要求をする「優越的地位の濫用」を禁じており、違反すれば公取委から再発防止策などを講じる「排除措置命令」や「課徴金納付命令」の対象となる。

公取委が公表している独禁法の運用方針では、優越的地位の濫用に相当する恐れがある行為として、

①コスト上昇分の取引価格への反映の必要性について、価格交渉の場で明示的に協議することなく、従来の取引価格を据え置く

②労務費、原材料価格、エネルギーコストなどのコストが上昇したため、取引の相手方が取引価格の引き上げを求めたにもかかわらず、価格転嫁をしない理由を書面、電子メールなどで取引の相手方に回答せず、取引価格を据え置く

――と列挙している。今回実名を公表したのは、このうち書面調査などで①に該当することが確認された企業や団体だった。

公取委はそれぞれの企業や団体の行為が独禁法や下請法に違反していると認定したわけではないと説明。同時に、取引内容の改善を強く促している。当該の企業や団体の具体的な行為の内容は明らかになっていないが、複数の協力物流企業と取引がある物流企業の関係者からは「①の行為が優越的地位の濫用に当たるのであれば、うちの取引は全部引っ掛かってしまう」といった声も漏れる。

ただ、公取委としては物価上昇の圧力が非常に強い中、立場が弱い中小・零細企業や個人事業主が厳しい状況に追い込まれやすいと認識、大企業などが率先して価格転嫁の姿勢を打ち出すよう後押ししたいとの思いがあるようだ。

景況感は厳しいが…

全日本トラック協会が11月に発表した会員企業の景況感調査によれば、今年7~9月期の判断指標はマイナス36.6と、前期(4~6月)から15.5ポイント改善した。政府の燃油価格高騰対策の効果などが出たとみられ、3四半期ぶりに上向いたものの、水準自体は2018年の1~3月期以来、マイナスが続いている。10~12月期の見通しはマイナス38.1で、小幅の悪化を見込んでおり、景況感が持続的に好転していくことはなかなか見通しづらいのが実態だ。

厳しい状況を考慮すれば、価格転嫁交渉に腰が引けてしまうのは十分理解できる。ただ、コストアップの趨勢が続いているにもかかわらず下請け企業などと前向きな価格転嫁交渉をせず、据え置こうとするのであれば、物流業界が日頃から問題視している荷主企業のスタンスと同じことになってしまいかねない。取引価格を引き上げるのが難しければ、下請け企業などといかに業務を効率化し、コストを下げていくかを共同で真剣に考える契機とすることも重要だろう。

12月に公取委と中企庁が発表した調査報告書でも、コスト上昇分を取引価格へ反映させる必要性について、価格交渉の場で明示せず従来の価格を据え置いたことがあったと回答した割合は、道路貨物運送業が32.8%で全19業種中、最多を記録。下請け企業との取引で「買いたたき」「減額」「支払い遅延」に該当する行為がないよう、社内規定整備といった管理体制を自社で設けているかどうかを尋ねたところ、道路貨物運送業は「管理体制を構築していない」が50.6%と過半に達し、やはり19業種の中で最も多いなど、散々な結果だった。

ある政府関係者は「荷主が物流事業者に優越的な地位を使って不当な要求をしたり、運賃引き上げに応じなかったり、長時間荷待ちさせたりといったことは前から問題視されてはいるが、物流事業者の中でも下請け企業に対する配慮が十分なされていないことに、公取委が注目しているようだ」との見方を示す。

社名を公表された企業のうち、佐川急便は「当社の協力企業様に対する積極的な協議の場の設定が要請されていることを読み取ることができていなかった」と説明、書面で協力会社へ協議の申し入れを開始していることを明らかにするなど、それぞれの企業や団体は対応の不備を認め、改善に動き出そうとしている。

今回の公取委の措置はあくまで、まず事業者同士が自発的に、価格転嫁を進められるような環境を整備していくよう背中を押した段階と言える。しかし、公取委が数ある物流企業の中から名指ししたことの意味は大きく、決して看過は許されない。業界団体が率先して協議の場を設けるよう呼び掛けるなど、物流業界を挙げた取り組みが必須だ。

(藤原秀行)

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