【シンポジウム開催報告・前編】フィジカルインターネットは「2024年問題」対応にも有効

【シンポジウム開催報告・前編】フィジカルインターネットは「2024年問題」対応にも有効

官民有識者らが物流効率化実現へ取り組み加速訴え

ヤマトホールディングス(HD)系シンクタンクのヤマトグループ総合研究所は2022年11月1日、東京都内で、世界を大きく変えたインターネットの形を物流の世界で再現し、業務効率化や省人化などを図る考え方「フィジカルインターネット」の実現を後押しするためのシンポジウム(後援・一般社団法人フィジカルインターネットセンター)を開催した。オンラインでも併せて、視聴できるようにした。

官民双方の領域から結集した登壇者は、荷主企業や物流事業者間で倉庫やトラックといったアセットを共有(シェアリング)することがフィジカルインターネットの根幹を成していることに触れ、シェアリングは物流の持続可能性を高める上で意義が大きいと指摘。トラックドライバーの長時間労働規制が強化される「2024年問題」への対応としても有効との見解を示し、実現に向けた取り組みを加速させるよう、それぞれの立場から訴えた。

シンポジウムに登壇した有識者らの発言内容の概要を全3回に分けて掲載する。なお、同総研はシンポジウム終了後の22年11月30日付で解散し、フィジカルインターネットセンターが活動を継続している。


シンポジウムの会場(写真はいずれもヤマト総研提供)

物流拠点共同使用で在庫を最大3分の1に圧縮と試算

冒頭、フィジカルインターネットセンターの荒木勉代表理事(上智大学名誉教授)があいさつに立ち、フィジカルインターネットの定義や効果をあらためて説明。「インターネットの場合、公共の光ファイバーや民間のサーバーをみんなが使っているのが特徴。物流もアセット、資材をみんなでシェアしようという考え方が一番大きい」と語った。

併せて、海外での研究事例として、カナダ・ケベックから米国のロサンゼルスまで5000kmの長距離輸送を、300km間隔で17人がリレーして運ぶと1人で輸送を担うより早く、かつ安く届けられると見込まれることや、フランスの流通大手カルフールとカジノが共同で物流拠点を活用すると最大で在庫を3分の1に圧縮し、CO2排出は60%削減、輸送キロは15%削減できると試算されたことなどを紹介。

「現実的には無駄な形でトラックが走っている。共同物流を実現し、幹線の輸送もリレーすることで、2024年問題も解決できる」と前向きな見方を示した。


荒木氏

続いて、農林水産省大臣官房新事業・食品産業部の武田裕紀食品流通課長が登場。農林水産物・食品流通の合理化に向けた取り組みを報告した。武田氏は「これまで主に、集出荷施設や卸売市場、冷蔵庫といったインフラ整備を中心にやってきたが、標準化とデジタル化について、昨今取り組みを始めた」と紹介。

標準化・デジタル化の具体例として、地方や中小のメーカー間で共同配送実証を企画したり、青果物産地のパレタイズ輸送実証を促進したりしていることに言及。生産者から卸売市場への送り状のデジタル化やトラック予約システムの導入、パレット管理システムの確立なども図っていることに触れた。

武田氏は合理化を率いる立場の1人として「農林水産物・食品はフィジカルインターネットの世界にアジャストするまでにはまだまだ取り組みを積み重ねていかないといけないが、最終的な理想に近づけるよう、1つずつ足元の課題を解決していく」と決意を表明した。


武田氏

需要に応じて製造・輸送する「デマンドウェブ」を提唱

道路などでなぜ渋滞が発生するのかを解明し、どのように解消するかを研究する学問「渋滞学」で知られる東京大学先端科学技術研究センターの西成活裕教授は「フィジカルインターネットの理想と課題」と題して講演。現状のサプライチェーンから、製造拠点と倉庫、輸送交通が連携し需要に応じて製品を作り出して輸送する「デマンドウェブ」へ移行していくべきだとの持論をあらためて展開し、フィジカルインターネットの考え方も踏まえながら製造と物流が強く結び付いていくことの必要性を力説した。

西成氏は「サプライ(供給)側ではなく、デマンド(需要)の側から引っ張って物を作り、運んでいくことが大事。作って運んでも結局捨ててしまう時代は終わらせないと社会がもたない」と危機意識をあらわにし、フィジカルインターネットと合致する形でデマンドウェブを実現していくべきだとの姿勢を明示した。

フィジカルインターネットの鍵として、「連携」と「調整」を列挙した上で、倉庫やトラックなどのリソースを多数の関係者がシェアする場合、どの企業がどういった順番でどの程度の時間使うかなど調整をうまく行うことが肝要と分析。AIを使った調整機能の確立などが必要と展望し、そのための高度な技術や知識を持つ人材の育成が不可欠とアピールした。

デマンドウェブに関しては、スモールスタートで実施し、うまく行けば展開対象を拡大していくことを推奨。「製配販(製造・配送・販売)の連携が極めて重要で、全部を統合しないと駄目。『物流を考えた製造』という視点を取り入れるべきだ」と提案した。


西成氏

明治大学専門職大学院の橋本雅隆教授も、フィジカルインターネットの実現に向けた課題に焦点を当てて講演した。橋本氏は「物流の現在のプラットフォーム、キャパシティをつなげてシェアリングするのがフィジカルインターネットであり、その方向に行くには荷主企業がどんな体制を取り、自社の経営に組み込んでいくかが重要。そのためのアプローチを考えていきたい」との問題意識を提示した。

併せて、「サプライチェーンに相当な無理や無駄があり、なかなか物流が企業の中で中心的な柱になっていなかった。末端の(物流などの)オペレーターの賃金を上げることができていない」と指摘。フィジカルインターネットで物流の効率性と持続可能性を高めていくことは、物流などの現場を担う人材の確保・定着にとっても重要と強調した。

加えて、製品や荷姿、パレット、コンテナなどを物流の効率化に配慮した設計とする「デザイン・フォー・ロジスティクス(Design for Logistics、DFL)」の考え方を引用し、抜本的に効率を上げていくことの重要性をPRした。


橋本氏

(中編に続く)

(藤原秀行)

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