トヨタグループで相次ぐ不正、問われる法令順守体制
豊田自動織機は3月17日、日本市場向けフォークリフト用エンジンで、国が定める排出ガスの評価試験の際、データを差し替えるなどの不正行為があったことが判明したと発表した。
排出ガスに含まれている有害成分の量が国内の環境規制値を上回っているにもかかわらず、基準をクリアしているように装っており、法令に抵触している疑いがあるという。
同社は国土交通、環境、経済産業の3省に不正行為を報告。国交省と経産省は同社に対し、事実関係の究明や顧客・取引先への適切な対応、十分な対外説明、原因の徹底究明・再発防止策の実施を指示した。
豊田自動織機は同日、当該のエンジンを使っているフォークリフトの国内出荷を停止すると発表。一部の車種はリコール(回収・無償制度)に踏み切る見通し。
同じトヨタ自動車グループでトラック・バス大手の日野自動車も、ディーゼルエンジンの燃費や排出ガスの性能に関する国の認証で長年にわたって不正を行っていた。続けての不祥事でグループ内の法令順守体制の在り方が再度、厳しく問われそうだ。
大西社長「法規の知見や認識欠けていた」
対象のエンジンは豊田自動織機のフォークリフト「GENEO(ジェネオ)」に搭載しており、ディーゼルエンジンは積載能力が1.5~3.5tタイプ向けの「1ZS型」と、3.5~8.0tタイプ向けの「1KD型」の2種類。ガソリンエンジンは同じく「GENEO」用の1.0~3.5tタイプ向け「4Y型」の1種類。
このうち「1ZS型」と「4Y型」はショベルカー「ショベルローダー」にも搭載している。ディーゼルエンジン2種類は環境規制を満たしていないという。
出荷停止対象のエンジンを載せたフォークリフトは年間の出荷規模がトータルで約16万5000台(21年度)、売り上げ規模は約420億円という。
GENEOシリーズ(豊田自動織機ウェブサイトより引用)
豊田自動織機の大西朗社長は同日、名古屋市内で開いた記者会見で「法規の知見や認識が欠けていた」と説明、謝罪した。
同社は今後、社内に特別調査委員会を設置し、不正行為の動機と原因の究明、再発防止策の検討に当たる。同委の委員長には元福岡高等検察庁検事長の井上宏弁護士・公認不正検査士が就任する。
併せて、不正行為の責任を取り、豊田鐵郎会長と大西社長がともに月額役員報酬の全額を6カ月間辞退することも公表した。副社長で「トヨタL&Fカンパニー」プレジデントの水野陽二郎氏と経営役員でエンジン事業部長の松本洋氏はともに月額報酬30%を6カ月間辞退する。
国交省は同日、「このような事態は、自動車ユーザーの信頼を損ない、かつ、自動車認証制度の根幹を揺るがす行為であり、極めて遺憾」と表明。経産省も「ユーザーの信頼を損なうものであり、大変遺憾」と指弾した。
実測値ではなく推定値使用、試験中に部品交換も
国交省や経産省、豊田自動織機などによると、不正判明の端緒は2020年、北米向けにガソリンエンジンの環境認証を取得する作業の過程という。米国の規制当局への対応を進める中で申請済みのデータに懸念が生じ、豊田自動織機が外部の弁護士の協力を得て21年5月から自主的に調査し、22年1月には国内のガソリンエンジンの認証、同4月にディーゼルエンジンの認証でそれぞれ懸念があることが分かり、調査範囲を広げていた。
ディーゼルエンジンは試験時に排出ガス内の成分について実測値ではなく推定値を使うなどしていた。ガソリンエンジンは試験中に部品の交換をしたり、実測値をそのまま使わなかったりしていた。豊田自動織機はこうした行為が法令に違反する可能性があるとみている。
(藤原秀行)