【セミナー採録】リアルタイムのデータ活用でSCMを強靭化、ビーイングHD・喜多社長らがサプライチェーンの未来語る

【セミナー採録】リアルタイムのデータ活用でSCMを強靭化、ビーイングHD・喜多社長らがサプライチェーンの未来語る

インターシステムズジャパン開催、新製品も登場

データプラットフォームの開発などを手掛けるインターシステムズジャパンは10月31日、東京都内で「サプライチェーンのオーケストレーションが拓く未来」と題したセミナーを開催した。

NTTデータ系コンサルティング会社のクニエでSCMのコンサルティングを牽引する笹川亮平シニアパートナーや、ビーイングホールディングス(HD)の喜多甚一社長らを招き、複雑化するサプライチェーンの課題解決に向けたヒントを提示した。また、インターシステムズ米本社の開発責任者らも登壇し、サプライチェーン管理に特化した新製品「InterSystems Supply Chain Orchestrator(サプライチェーン オーケストレーター)」をお披露目した。


クニエ・笹川氏

「SCM5.0の時代が到来」

冒頭の基調講演に登壇したクニエの笹川氏は、2020年ごろからのコロナ禍をはじめとするロジスティクスの混乱の中で、「SCMのテーマとして強靭性(レジリエンス)と持続可能性(サステナビリティ)が大きく求められるようになった」と説明。今後は、安定的な環境でいかに需要に対応し、業務を効率化していくかという従来のSCMではなく、不確実性の高い環境で動的なサプライチェーンに対応していく「SCM5.0」の考え方が必要だと提言した。

笹川氏は、ほとんどの場合、SCMの取り組みは結局自社内もしくは部門内にとどまっていると指摘。「売上高数千億円規模の企業でも、グローバルサプライチェーンの情報はほぼブラックボックスなのが実態。色々な人たちが手元のExcelでバイアスを含んだ数字を入力し、それをバケツリレーのようにつないでいることが珍しくない」と述べ、「そういった体制がコロナ禍その他の混乱の中で『どこに物があるのか分からない』『いつ運べるか、いつ作れるか、いつ買えるか分からない』という状況を引き起こした」と近年のサプライチェーンの状況を振り返った。

そのような現状を打開するSCMの仕組みとして、①PSIのモジュール化②即時性のあるフィードバック③目的の共有と権限委譲ならびに分散――が必要だと持論を展開。その中でも「物を調達・生産し、在庫して運んで売り出すというPSI(生産・販売計画・在庫)を標準化して領域を超えてつないでいくことは、SCMの原理原則だ」と強調した。

その上で鍵となるのがデータだと述べ、PSIの流れに沿ったフレームワークで必要なデータを、粒度を揃えて集めていく考え方を解説した。

意思決定と価値創出のスピードが飛躍する

続いてインターシステムズ米本社のMark Holmes(マーク・ホームズ)氏とMing Zhou(ミン・ゾウ)氏が登壇し、6月にローンチしたSCMのためのデータプラットフォームについて説明した。

ホームズ氏は米調査会社のガートナーが「2026年までに新たに作成されるサプライチェーンアプリケーションの80%以上にAIとデータサイエンス技術が使われる」との見解を示していることに触れ、サプライチェーン オーケストレーターは既にこれらの技術を活用し、需要の感知と予測、製造から販売に至る過程の最適化を可能にしていると語った。

同システムは、関係するプレーヤーのさまざまな形のデータをプラットフォームに取り込んでリアルタイムに平準化し、活用を可能にする司令塔の役割を果たす上、機械学習やAI技術により、サプライチェーン全体を一気通貫で可視化して処方的な洞察をもたらすという。ホームズ氏は「それは意思決定と価値創出までの時間を短縮することであり、そのためにこの製品を開発した」と胸を張った。


マーク・ホームズ氏

ゾウ氏もデータこそがサプライチェーンに訪れる予期しない事態に対応するソリューションだと強調。同システムは「さまざまに分断されたデータソースから結合組織のようにデータを統合し、そのデータの示す意味を理解するためのアナリティクスを提供する」と表現し、そのことでユーザーは自分のビジネスのロジックを見出し、リアルタイムに手の中にあるデータから取るべき行動を導くことができると自信をにじませた。

同社日本法人の岩本知宏氏も登壇し、メーカーにおける受注―発送場面を想定したデモンストレーションを公開。出荷から顧客の元に届くまでの時間のKPI(重要業績評価指標)に、もう一つ出荷時刻に関するKPIを追加する操作を参加者らに実演して見せた。


ミン・ゾウ氏

「2024年問題」、3年前にクリア

最後に、「運ばない物流」をコンセプトに掲げ、物流の合理化を進めるビーイングHDの喜多甚一社長が登場。インターシステムズのデータプラットフォームを基盤に開発した、総合物流管理システム「Jobs」について説明した。

例えばWMS(倉庫管理システム)では、商品ごとの容積管理を行うことで、注文に在庫を引き当てた段階で必要なかご車やオリコンの数と車両台数が把握できるという。TMS(輸送管理システム)では、車両の運行状況を常時把握しながら、積載率・実車率・稼働率の管理を行っている。PMS(生産性管理システム)では、全ての物流センターで作業員が作業開始と終了をタブレットで登録し、個人別の生産性まで把握しているという。

さらに、PMSに勤怠管理システムを連動させ、トラックドライバーの長時間労働規制強化に伴う物流現場の混乱が懸念される「2024年問題」についても、20年にはほぼ年間の時間外労働960時間を管理できる体制を構築していたことなど、さまざまな成果を紹介した。


喜多社長

(川本真希)

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