物流統括責任者「CLO」は輸配送や倉庫のネットワーク設計・運用・カイゼンが責務

物流統括責任者「CLO」は輸配送や倉庫のネットワーク設計・運用・カイゼンが責務

フィジカルインターネットセンターが「協議会」発足でシンポジウム開催(前編)

世界を大きく変えたインターネットの形を物流の世界で再現し、業務効率化や省人化などを図る構想「フィジカルインターネット」の実現を目指す一般社団法人フィジカルインターネットセンター(JPIC)は6月13日、東京都内でシンポジウムを開催し、政府が一定以上の規模の荷主企業に設置を義務付ける「物流統括責任者」(CLO)が果たすべき役割について情報発信した。

シンポジウムはオンラインで400人以上が参加。官民双方からの登壇者は、欧米では経営層の中で重要な役割を果たす職務としてCLOが定着しており、日本でも普及を図る必要があると説明。CLOは自社の物流機能の水準を常に把握し、輸配送や倉庫のネットワーク変更を提案していくことが重要などと指摘した。シンポジウムの様子を前後編の2回にわたって報告する。


JPICの説明資料

ミッションなど検討する協議会立ち上げを宣言

シンポジウムの冒頭、JPICの森隆行理事長(流通科学大学名誉教授)があいさつに立ち、CLOが果たすべきミッションと要件などを検討、提案するため企業幹部らが参加する「CLO協議会」を立ち上げたことを宣言した。

その上で、JPICが目指す方向として「究極のオープンな形での共同物流で最適化を求める。われわれの活動が日本の物流の課題解決に大きく寄与すると考えている」と表明。共同輸配送や物流施設の共有、物流関連情報のシェアなどを推し進めることを明言した。

「役割は荷主、物流事業者、行政をうまくつないでネットワークを作り、物流の共同化を図っていくこと」と述べ、その一環としてCLO協議会を運営、CLOの社会実装を支えていく方針を強調した。

政府が2040年を念頭に置いたフィジカルインターネット実現のロードマップ(工程表9を作製、公表したことに言及し「ロードマップを作ったのは、国レベルでは日本だけで、あとはEU(欧州連合)ベースとなる。非常に世界から注目が寄せられている。各国とも連携し、情報交換を密にしていきたい」と意気込みを語った。


あいさつする森理事長

費用構造は物流ネットワークの設計段階で8割が決まる

続いて、野村総合研究所未来創発センターの藤野直明シニアチーフストラテジストが登場。「物流担当役員のミッションとは~内外比較からの示唆~」と題してプレゼンテーションを行った。

藤野氏は、政府が一定規模以上の荷主企業に「物流統括責任者」(CLO)配置を義務化することに関し「大変画期的な政策だと考えている」と評価。「政府が物流担当役員の設置を義務化するとなったから設置するという受け身ではなく、むしろ会社としての能動的で戦略的な検討を支援したい」と語った。

海外と比較して「内外の認識の格差が極めて大きいと、ここ20数年実感してきた。物流関連費用を管理するポジションが物流担当部署だというマインドセットが日本ではふつうだった」と分析。

「しかし、物流費用が増えたのは物流部長の権限で改善できるのか。多くの企業ではできない」と述べ、その一例として企業が新商品に過大な期待をかけてプロモーションしたものの空振りに終わり、在庫を保管するため外部の営業倉庫まで借りなければならず、結果として物流コストが拡大したケースを挙げた。米ハーバード大学のロバート・キャプラン教授の見解を引用し、「業務を財務会計的側面から検討し、部分問題として解決することは誤りというのが欧米のビジネススクールの常識になっている」と説明した。

米アップルのティム・クックCEO(最高経営責任者)やウォルマートのダグ・マクミラン元CEOらのように、CEOをSCM部門出身者が務めているケースを引用し、「欧米では物流担当役員はCEOへの登竜門になっているが、日本ではリアリティを持って感じられていない。根本的なところで物流担当組織や役員について内外での認識ギャップが存在している」と懸念を示し、日本の経営者らが認識を刷新することに期待を見せた。


プレゼンテーションする藤野氏

CLOの具体的なミッション(使命)として、藤野氏は「輸送契約の締結」「物流業務水準の契約への反映」「物流のネットワーク設計・運用・カイゼン」の3点を挙げた。

このうち、輸送契約締結については、物流業界で事前に明確に規定されず契約も交わされていない商慣行があるが、国際物流ではそういったことはもはや許されなくなっていると解説。「物流担当役員は売買契約時に輸送の範囲を特定する輸送契約の締結責任者であり、輸送範囲の特定は取引先の物流能力と自社の物流能力を比較して行うため、物流担当役員は自社の物流能力の水準把握と『カイゼン』についての責任を負うことになる」と持論を展開した。

物流業務水準の契約への反映に関しては「物流担当役員がその統括責任者であり、反映は自社の全業務プロセスの設計・運用・カイゼンを行うことで初めて可能になる。その責任を負い、権限を有するべきだ。業務プロセスの標準を作る役割はどうしても物流部長ではできない。役員というのが非常に重要な役割になる」と明言した。

物流のネットワーク設計・運用・カイゼンは「SCMのネットワークは複雑で、かつ絶えず環境変化にさらされており、最適なネットワークの維持は容易ではない。ネットワーク全体を設計、運用、カイゼンしていくことが極めて重要になってくる」と展望。

物流の費用構造は物流ネットワークの設計段階で約8割が決まってくるため非常に重要で、成熟経済が続く中では国内の物流ネットワークの再構築が大きな課題になると予想し、シミュレーションの結果などを基に中長期の設計と意思決定をすることが求められることから、経営層の一員としてのCLOがそうした役割を担うべきだと提案した。

(後編に続く)

(藤原秀行)

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