【酷暑に負けない連載!】「今そこにある危機」を読み解く 国際ジャーナリスト・ビニシウス氏

【酷暑に負けない連載!】「今そこにある危機」を読み解く 国際ジャーナリスト・ビニシウス氏

第18回:経済的威圧を強める中国が念頭に置くこととは

国際政治学に詳しく地政学リスクの動向を細かくウォッチしているジャーナリストのビニシウス氏に、「今そこにある危機」を読み解いていただくロジビズ・オンラインの独自連載。18回目は覇権主義を露骨に見せる最近の中国の行動の裏にある、ある規則について分析します。

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プロフィール
ビニシウス氏(ペンネーム):
世界経済や金融などを専門とするジャーナリスト。最近は、経済安全保障について研究している。

「依存度の大きさ」で規制強化対象を選定

近年、企業にとって地政学・経済安全保障分野の動向は見逃せない重要な要素となっている。特に、今後中国ビジネスをどうするかという点は、企業の間で万国共通の懸案事項になっているとも言える。その背景にあるのが、中国による経済的威圧がますます強まっているという問題だ。

中国は関係が冷え込んだ国家や、中国が望まないことをした国家に輸出入規制や関税引き上げなどの“経済攻撃”を執拗に行い、プレッシャーを掛けてきた。例えば、台湾に対しては、台湾産のパイナップルやマンゴーなどの輸入を一方的に停止した。人権問題や新型コロナウイルス感染拡大の真相究明で中国に真実を明らかにするよう求めるオーストラリアには、ワインや牛肉など特産品の輸入制限で対抗した。

それは日本に対しても同様だ。2010年9月、日中両国が領有権を争う尖閣諸島沖で海上保安庁の巡視船と中国漁船が衝突、日本側が漁船の船長を拘束した際、中国は希少金属レアアースの日本向け輸出を停止した。

他にも、本稿で何度も言及してきたが、米国の先端半導体関連の対中輸出規制強化に追随する形で昨年7月に日本が輸出規制を打ち出した途端、日本が中国からの輸入に深く依存する希少金属、ガリウムとゲルマニウム関連の輸出規制を中国側が強化。さらに同年8月の福島第一原発の処理水放出に伴い、日本産水産物の輸入を突如、全面的に停止したのも記憶に新しい。

中国は対抗措置を打ち出す際、どういった方針に基づいて貿易規制の対象品を選定するのだろうか。念頭に置いているのは「相手国がその品目に関してどれだけ深く中国に依存しているか」だ。当然ながら、ある品目の輸入の大半を中国に頼っている国にとって、中国が突然輸出をストップすれば経済的な打撃は大きく、代替先の確保に時間を要したり、あるいは確保自体が困難だったりする事態が想定される。対中依存度が高ければ高いほど、貿易相手国に対する経済的ダメージは大きく、政治的圧力も同時に加えることができる。

同時に、輸入面で「中国が貿易相手国からの輸入を停止しても、中国経済に大きな影響はない、もしくは他国からの依存に切り替えられる」かどうかも重要なポイントだ。冒頭に触れた通り、台湾産パイナップルの主な輸出先は中国だったが、中国としてはその輸入を停止してもフィリピンなど他国から確保できるため、それほど中国経済や市民の日常生活に大きな影響は出ない。

オーストラリア産のワインも同様で、フランスやイタリアなど欧州からさらなる調達も現実的に可能だ。半導体やAIなどの先端テクノロジーとは違い、中国にとって必需品となっているわけではなく、中国国内で生産を強化するという選択肢もある。

日本産水産物も同様で、鮮度や品質維持の課題はあるものの、輸入先を他国に切り替えることは可能だ。中国にとって日本産水産物は必需品とは言えず、経済的威圧の対象になり得る。

貿易相手国にとってどれほど重い経済攻撃を行ってくるかは、中国側の政治的な“不満度数”によって変わってくるだろうが、中国はここで説明したような考えで貿易規制の対象品を選定していることが考えられる。

政府が7月に閣議決定した2024年版の通商白書は、貿易の現状に関し、特定の国に輸入を依存するリスクが顕在化していると分析。日本はG7(主要7カ国)全体と比較しても特定国への依存度合いが強く、多くの品目は中国に頼っていると指摘した。

具体例を見ると、主要な約4300品目について、2022年の実績値で輸入シェア(金額ベース)が過半を占めている国をピックアップしたところ、日本は中国が3割強の1406品目で該当しており、米国(567品目)やドイツ(221品目)が中国に過半を頼っている品目数を大きく上回ったという。

通商白書は「集中度の高さは特定の国との経済関係の結び付きの強さを示している一方で、過度の依存はサプライチェーン上のリスク。輸入元の分散化が重要」と主張している。

先の日本産水産物の輸入全面停止のケースでも、日本の水産業者の中には中国一辺倒の姿勢を見直し、東南アジアなど輸出先を多角化してリスク回避を試みる動きが広がっている。中国が経済的威圧を強める中、考慮すべき対応ではないだろうか。

(了)

 

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