スマホやタブレットで容易に確認、情報はクラウドで迅速共有可能
工業用パッキンやガスケットなどのシール材大手のバルカーが2023年4月にリリースした、工場などの設備の点検業務を効率化するソリューション「MONiPLAT」(モニプラット)が、物流領域でも注目度が高まっている。
モニプラットは設備の定期点検の負荷を減らすため、スマートフォンやタブレット端末で点検項目を確認、報告書も作成できるのが特徴。ペーパーレス化につながる上、作業が容易になり、点検スケジュール管理や稼働状況の可視化も自動化できることなどが好評を博し、導入した企業は累計で1000社を突破した。
当初は製造業への対応に主眼を置いたソリューションだったが、最近ではトラックの運行前点検やフォークリフトの定期点検に用いようとする動きも出ている。バルカーは「物流業界の自動化・省人化をお手伝いできるのはありがたい」と新たな需要の開拓に本腰を入れている。
モニプラットは今年4月、「日本DX大賞2024」の「BX部門」で大賞を受賞した(バルカープレスリリースより引用)
異常の予兆をメールで通知
バルカーは1932年創業。東京証券取引所プライム市場に上場しており、製造業の現場で液体やガスが漏れださないようにするシール材を得意とするほか、配管材料や電気・電子材料などを幅広く手掛けている国内有数のメーカーだ。半導体関連や石油など多岐にわたる業界と取引関係を構築している。
新たな領域でビジネスを模索する中で、製造業の保全現場はいまだに紙の書類が一般的でデジタル化が遅れていることを痛感、現場スタッフの負荷を減らす意義は大きいとみて、新たなソリューションの開発に踏み切った。
バルカーの川上孝弘執行役員デジタル戦略本部長兼デジタル開発部長は「デジタル化の余地が大きく、この領域をサポートすることは日本の製造業の効率化、ひいては国益にも資すると考えた」と語る。
モニプラットは複雑かつ煩雑な設備保全をクラウドベースで一元管理できるのがメリットだ。点検項目が問題ないかどうかをスマホやタブレットの画面から入力すれば自動的にデータがクラウドに蓄積されていく。点検時に気になる箇所があれば、スマホなどで撮影した写真を貼付することも可能。
さらに、設備の稼働状況などはグラフで分かりやすく表示し、異常の予兆があればメールで通知、設備が完全にダウンしてしまうのを極力回避できるようにする。定期メンテナンスのタイミングも事前に連絡し、実施遅れが生じないよう目配りしている。
スマホから容易に点検の報告書を作成できる
PCでスケジュールを表示、確認も可能(いずれもバルカー提供)
これまでは紙で点検して結果を記入し、事務所に持ち帰ってバインダーに挟んで管理したり、PCからエクセルに手入力したりと手間がかかっていた。ユーザーからはモニプラットを取り入れることで「対象の設備が20以下であれば無料で利用できるため、スモールスタートがしやすい」「スマホで点検や承認申請が完結するため、業務が非常に効率的になった」などと歓迎する声が出ている。設備点検作業を約1.5時間短縮するなど成果も上がっているという。
車両の不具合把握から対応までタイムラグ解消
製造業では金属加工設備の点検や酒類貯蔵タンクの温度管理などに使われているほか、非製造業の分野でも医療機関の空調設備管理に採用されるなど、バルカーが事前に想定していた範囲を超えて利用が進んでいる。
さらに、人手不足が深刻化する物流の領域でも普及の兆しが見えている。産業廃棄物処理や貨物運送を展開しているスリーシープランニング(東京都品川区南品川)は、事業で使っているトラックなどについて、法定の乗務前車両点検や定期的な車両点検に活用しようと、モニプラットを採用した。ドライバーに会社からスマホを配布、点検時に使ってもらっている。
同社営業部工事課の髙瀬誠課長は、モニプラット導入の背景として「きちんと実施したというエビデンスを残したかった。コンプライアンスの徹底が大きな目的だった」と振り返る。実際に車両の点検に採用してみると、コンプライアンスに加えて、業務自体を効率化できる効果を実感できたという。
「紙の書類を持ち出さなくて済むようになったのは大きい。さらに、紙を使う時よりもバックモニターの表示不良といった不具合があった場合、クラウドを使っているので関係者ですぐ情報を共有、対応できるようになり、不具合把握から対応までのタイムラグが解消された」と指摘する。
スリーシープランニングが使っている車両
スマホを使って点検(いずれもバルカー提供)
スリーシープランニングは東京都から、適正な産廃処理や環境負荷低減などに努めている優良な産廃処理事業者と認定する「産廃エキスパート」を獲得している。その際、自社の先進的な取り組みとして、モニプラットの活用をアピールしたという。現在は車両に加え、フォークリフトの安全点検にもモニプラットを適用していこうと取り組みを進めている。
スリーシープランニング以外にも、例えば鋼管などを扱う専門商社では、納品のためトラックに積載する商品の重量管理にモニプラットを使っており、本社と各事業所の間で適せ管理の情報を迅速に共有できるなど、関係者が効果を実感しているという。
バルカーはこうした動きを踏まえ、物流業界や、輸送部門を持つ小売・卸業などにもモニプラットの活用提案を強化していく方針だ。同社の川上執行役員は「当初は製造業の設備という動かないものを対象に考えていたが、車両のように動くものにも使っていただけることをお客様から教わった。弊社にとってもすごくプラスの経験だった」と意欲を見せる。
同社H&S事業本部デジタルソリューション部の藤田勇哉氏は「製造業に加えて非製造業の領域でも非常にのびしろがあると思う。物流業界のDXに少しでも貢献していきたい」と力説している。
(藤原秀行)