千葉大大学院工学研究院グループと三井化学が共同開発、都市部の航空物流などに応用期待
千葉大学は5月28日、同大大学院工学研究院の劉浩教授らの研究グループが三井化学と共同で、フクロウの翼を模倣したドローンのプロペラを開発、騒音低減効果を実証したと発表した。
三井化学が提供したプロペラのモデルは直径72cm以上で、同大は大型ドローンや「空飛ぶクルマ」にも実装可能なサイズのため、重量の大きな機体のプロペラに適用することで、都市部における航空物流や交通分野への応用が期待できるとみている。
研究成果は、米国の流体力学に関する専門誌「Physics of Fluids」で5月23日(日本時間)に発表した。
自然界の様々な生物の中でも、フクロウは極めて静かに飛ぶことで知られており、フクロウの翼に特殊な構造が隠されているのがその理由という。
翼の中の羽根の前縁を拡大してみると、鋸歯状の突起があり、この突起が渦状の空気の流れを分断することで、騒音を生み出す不安定な気流を抑制して騒音を低減する。この翼を最大限生かし、フクロウは獲物に気づかれることなく近づける。
人口が密集する都市部で大型UAV(無人飛行機)を活用しようとすると、プロペラから出る大音量の騒音が大きな妨げになっていた。この問題の解決案として、研究グループはフクロウの静音飛行を実現している羽根の鋸歯形状を調べ、その構造をUAVのプロペラ用に複数のパターンでモデル化し、改良を加えながら2年の歳月をかけて騒音低減効果を検証した。
フクロウ翼の構造理解からプロペラ設計の流れ (a)フクロウの翼の形態 (b) フクロウの第10主羽根 (c) クリーンな(ベースラインの)プロペラ(CLE)と、鋸歯の大きさが異なる3つの鋸歯状のプロペラ(SER3、SER6、SER9) (d) CLEモデルの正面図 (e)鋸歯形状の特徴。結果は、幅(w)と振幅(a)が各6mmで間隔(s)が8mmの設計のSER6が最適だった
生物が備える優れた形態や構造、機能、システムなどを模倣したり、規範としたりする生物規範工学の実績を持つ研究グループは今回、ドローンとして知られるマルチローター無人航空機のプロペラのモデルに、フクロウ翼を模した鋸歯形状を付与して解析を進めた。その結果、回転時に発生する空力騒音を最大3dB低減することを計算機シミュレーションで実証することができた。
通常、騒音低減効果と空力性能は両立が難しい「トレードオフ」の関係にあり、騒音を低減するための設計変更が空力性能に負の影響を及ぼしてしまう。例えば、プロペラの形状を変更して騒音を低減すると、推力や効率が低下する一方、回転翼の前縁部は進行方向に向かって最初に空気と接触する部分のため、その形状や設計が空力特性に影響を与えることから、この部分に最適な形状を施せば騒音低減効果があることが知られていた。
研究グループは、三井化学から提供を受けたモデル形状に対して、フクロウ翼の鋸歯形状を前縁部に組み込んだプロペラの空力音響特性を複数のパターンで検証。幅(w)と振幅(a) が各6mmで間隔(s)が8mmの中程度の鋸歯SER6が、騒音低減と空気力学的効率のバランスが最も良いことが分かったという。
騒音低減と空力性能のトレードオフのバランスを最適化するためには、鋸歯の寸法が重要であることが判明したとみている。
フクロウ規範プロペラのデザイン。長さ約36㎝で、直径にすると約72㎝以上に達し、大型のドローンにも実装可能
(藤原秀行)※いずれも千葉大学提供