【独自・新企画】LOGI-BIZ online Advance 第1回・「人工太陽」核融合発電を物流で支える(前編)

【独自・新企画】LOGI-BIZ online Advance 第1回・「人工太陽」核融合発電を物流で支える(前編)

量子科学技術研究開発機構とロジスティードの中核ユニット超長距離輸送プロジェクト

ロジビズ・オンライン独自の新企画「LOGI-BIZ online Advance」(ロジビズ・オンライン・アドバンス)は、物流が新技術の実用化を支えたり、物流自身の先進的な技術革新を目指したりする動きを追う。第1回は、世界のエネルギー問題解決につながると期待される人類初の核融合実験炉にフォーカスする。

米先住民の神話では、太陽はワタリガラスによって、闇と寒さに震える人類に届けられた。21世紀の今、人々のために太陽を運ぶことは、神話ではなく現実になりつつある。次世代のエネルギー源として注目される、人工太陽製造装置=核融合実験炉の輸送プロジェクトだ。



装置の中核ユニットを開発・製造する国の一つが日本。核融合実験炉の建設が進むフランスへの5年がかりの輸送プロジェクトが繰り広げられた。日本側でその大役を担った量子科学技術研究開発機構とロジスティードの奮闘を振り返る。


核融合実験炉の中核ユニットを、2万km近い距離を超えて海上輸送した。この積み荷は何か、輸送時にはどのような条件が求められたのか、そして核融合が日本にもたらす燃料とレアメタルのロジスティクス(供給・調達)革命について見ていきたい(写真はロジスティード提供)

原発の4~5倍のエネルギー

まずは、前段として核融合実験炉の意義について解説したい。

太陽の内部では軽い元素の原子核同士が融合し、より重い原子核に変化する「核融合」という反応が起きている。核融合の際には膨大なエネルギーが解放され、それが熱と光になって地球にも届き、生命に恵みをもたらしている。

この反応を地球上で再現することでエネルギー問題の解決に役立てようとするのが、核融合発電だ。太陽を利用する発電方式でも、太陽から届く光を使うソーラー発電と違い、核融合発電は太陽を人の手で作り出して発電に利用する方式と言える。

核融合が実用化すれれば1グラムの燃料(水素原子)から、石油8tを燃焼した時に相当するエネルギーが得られるという。原子力発電では現在、燃料1gから石油2000l相当のエネルギーが得られている(電気事業連合会公式サイトより)。石油8tは約9300lに換算され(石油資源開発社公式サイト内「石油・天然ガス簡易換算表」で計算)、核融合発電は同じ量の燃料から原発の4~5倍のエネルギーが得られることになる。



しかも、化石燃料を燃やさないので二酸化炭素は発生せず、燃料の供給を止めれば即ストップするので原発のような暴走リスクもない。原発と違い高レベル放射性廃棄物も発生しない。ただし、50年程度で放射能が低下して、クリアランス廃棄物(人体に影響が出ない程度に放射能レベルが低下し、産業廃棄物として扱えるようになった認定廃棄物)としてリサイクルや処分が可能になる低レベル放射性廃棄物は発生する。

1980年代には既に、日本と欧州が共同開発した実験炉が、入力したエネルギーと同量以上のエネルギーを生み出す「臨界プラズマ条件」(お金になぞらえるなら「黒字化」)を達成し、実現に向けた大きなマイルストーンをクリアしている。


核融合炉内部のイメージ。人の手で太陽を作り出し、発電用エネルギーを得る(ITER国際核融合エネルギー機構の動画「ITER 世界最大のパズル」より引用)

この成果を基盤の一つに据え、40年をかけて進められてきたのが、核融合エネルギー実験炉建設・運転プロジェクト「ITER」(イーター)だ。今年1月時点で日本を含む世界7極の34カ国が名を連ねる国際協力プロジェクトで、7極の国際協定に基づき発足したITER国際核融合エネルギー機構が事業主体を担っている。なお、7極の内訳はEU(欧州連合、建設コスト負担率45.6%)、日本、米国、韓国、インド、中国、ロシア(同各9.1%)となっている。

実験サイトは、陽光が海を紺碧に輝かせる南仏コートダジュール地方、マルセイユ北東部のSaint Paul les Durance(サン・ポール・レ・デュランス)にあり、今まさに核融合実験炉の建設が進行している。

1億℃以上の超高熱プラズマがぶつかり合う

地球上で核融合反応を起こすには、燃料となる水素原子を1億℃以上に加熱して、ぶつけ合う必要がある。鉄の溶ける温度が1500℃ほどなので、それを5桁も上回る超高熱だ。ここまで熱せられた原子は、電子が分離して原子核がむき出しになった「プラズマ(※)」と呼ばれる状態になっている。原子核を構成する陽子は+の電荷を帯びているので、原子核同士が接近すると強い力で反発し合うが、1億℃を超えるまで熱せられた原子の運動エネルギーは、この反発力「クーロン障壁」をも突破して原子核同士の融合を可能にする。




1億℃を超えるまで加熱された、プラズマ状態の原子核同士がぶつかり合う(イメージ、ITER国際核融合エネルギー機構の動画「ITER 世界最大のパズル」より引用)


衝突した原子核同士が融合する瞬間、質量の一部が膨大なエネルギーに転換されて解放される(同)

そのため、核融合炉には原子を1億℃以上に加熱する超高性能電子レンジのような機能と、途方もない運動エネルギーで飛び回る原子を閉じ込めておけるほどの超強力な電磁石の機能が求められる。ITERでは両機能を果たす装置を、日本を含む7極が分担して調達し、フランスの実験サイトへと輸送して、核融合実験炉を組み立てている。

電子レンジや電磁石といっても、その構成ユニット一つ一つが大規模大重量、しかも超精密な電子機器となっており、輸送するには当然のことながら専門のスキルが欠かせない。おまけにユニット自体が新たに開発されたものなので、輸送プロジェクトにも前例がなく、ノウハウを構築しながらの作業となる。

地球上に小さな人工太陽を生み出して発電しようという野心的な国際事業ITER――。世界初尽くしの挑戦だが、次回はその中でも電磁石を構成する中核ユニットの一つ「TFコイル(超伝導トロイダル磁場コイル)」の輸送プロジェクトにフォーカスし、関係者の奮闘の歩みを追う。さらに、ロジスティクス本来の意味である「調達・供給戦略」という観点から、核融合技術が日本にもたらす燃料やレアメタルなどの資源調達改革についても取り上げる。

※【用語解説】
プラズマ:固体、液体、気体に続く「物質の第4の状態」。固体を、温度が低い(=原子の運動エネルギーが小さい)ために動くことのできない「コタツの中でじっとしている状態」とするなら、やや温まったので物体表面を流れる程度には動ける液体は「毛布にくるまって家の中で歩き回っている状態」、物体表面を離れて動き回れる気体は「防寒着で戸外を歩いている状態」、プラズマは「真夏のビーチで、水着姿で走り回っている状態」のイメージで対比できる(かもしれない)。

(石原達也)

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