【独自取材】「物流テック」で日本を変革する③富士通交通・道路データサービス

【独自取材】「物流テック」で日本を変革する③富士通交通・道路データサービス

2兆件のトラック走行履歴が物流施設立地の最適化を実現・島田孝司社長

人手不足をはじめ課題満載の物流業界を先端技術で変革しようとする動きが広がっている。ロジビズ・オンラインはそうした潮流を継続してウオッチし、プレーヤーたちの熱い思いを随時お伝えしている。

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第3回は全国のトラック約17万台の膨大な走行履歴に関するプローブデータ(車両の位置情報などから生み出される道路交通情報)を分析し、物流施設の最適な立地選定などに生かしている富士通子会社の富士通交通・道路データサービス(FTRD)にスポットを当てる。

「エビデンスベースで物流の最適な在り方を検討、提案することで、社会のインフラとなっている物流の生産性向上に貢献したい」との同社の思いが、物流施設デベロッパーらの間で着実に浸透している。

国内緑ナンバートラックの2割をカバー

FTRDは交通・道路をめぐる多種多様なデータを解析し、さまざまな関係者に役立ててもらうとの狙いから2015年7月に発足した。車を走らせた際の振動を観測機器が感知、道路がどの程度劣化しているかを迅速につかみ、道路管理者の地方自治体に提供して適切な道路整備・補修に生かしてもらう「道路パトロールデータ解析サービス」などを展開している。

そして物流業界で今、注目度が着実に高まっているのが、17年12月に本格スタートさせた「FoXYZ(フォクシーズ)」だ。全国規模でつかんでいる曜日別の交通量といったデータを基に、特定地点から一定の時間内に到達可能なエリアを地図上に明示、どこに物流施設を置けば効率的な商品配送が可能になるかの判断を後押しするなど、多様な内容だ。

FoXYZの肝となっている膨大な走行履歴のデータは、いすゞ自動車と富士通が合弁で設立したトランストロン(横浜市)製の通信機能付きデジタルタコグラフを通じて収集している。その台数は日本全国を走る約17万台で、国内の緑ナンバートラックの2割程度をカバーしている計算となる(トレーラーは除く)。個々のトラック所有者など個人情報や営業秘密に該当する情報は秘匿・抽象化した上で統計処理しており、プライバシーにも最大限配慮している。

蓄積されたデータは累計で約2兆件に上り、まさに“宝の山”となっている。その内容はトラックがどの時間にどのルートを通ったのか、急ブレーキをかけたのはどこか、どこで休憩したのか、といった細かな内容にわたっており、適正に解析することで曜日・時間帯別の交通量や各道路の混雑状況が浮かび上がってくる。FTRDは「プロのドライバーが運転しているため、データの均質性や時間的・空間的な網羅性が高い」との見方を示す。

FoXYZを提供する前にも、荷主企業や運送事業者のトラック走行ルート見直しに伴う輸送コストの改善効果を測定したり、特大車が通過できるルートを検索したりといったサービスを提供、一定の成果を挙げてきた。そこに新たな使途として物流施設開発の分野に踏み込んだ。


走行データ収集の流れ(FTRD提供)※クリックで拡大

FTRDの島田孝司社長は「トラックの走行履歴データを物流施設開発にも使いたいと以前から考えていた。データはたくさん持っているが、購入を検討される方が欲しいと感じていただける形にしなければ絵に描いた餅に終わってしまう。分析した結果をどのように見せていくか、どのように使えるのかといったポイントに相当時間を費やして検討した」と振り返る。

プロドライバーが実際に走った経路を基に「物流施設から90分以内に到達できるエリアを詳しく明示する」といった、それまで例を見なかったサービスは、物流施設の開発競争が激しくなる中、より顧客のニーズに合った立地選定を迫られるデベロッパーにとっても非常に魅力的な提案と映った。FoXYZは大手デベロッパーを中心に複数社が利用、実績を確実に積み重ねている。


FTRDの島田社長(右)とFoXYZ開発などに携わる同社の吉川勇人氏

安全性など担保した「データの品格」を重視

FTRDは設立当初から重視する概念として、「データの品格」との表現を繰り返し使っている。その真意について、島田社長は「現代社会は既にデータが起点となり生産性向上や付加価値の創出が成されるようになっている。いわばデータは“21世紀の石油”として不可欠な存在。だからこそ、活用に当たっては容易性や安全性、説得性が十二分に担保されることが極めて重要だ」と解説する。その意味では、FoXYZが提示してみせたデータ活用の手法は、まさに「データの品格」に合致した内容といえそうだ。

走行履歴データが活用される分野は輸送面だけでなく、近年叫ばれ続けている物流現場の人手不足対策にも広がろうとしている。例えば、FTRDでは物流施設に朝、どのエリアまで一定時間内に車で通勤可能かを明示、労働力確保の観点からも最適な立地選定ができるようサポートに努めている。実際のデータを基に提示できれば、施設利用を検討している荷主企業や物流事業者にとって説得力ある材料となる。

FTRDが国内有数の規模を誇るトラック走行履歴の分析で培ってきたデータ収集のノウハウは他のフィールドでも生かされようとしている。FTRDは今年2月から約2カ月間、国内で初めてトレーラーの所在地をクラウドベースで管理する実験を北海道で行った。

地場運送会社の幸楽輸送(札幌市)と連携し、トレーラー約70台に富士通製のビーコン(電波受発信器)を装着。トランストロン製の通信機能付きデジタコなどと組み合わせ、位置や走行距離を自動的に収集する仕組みを試した。併せて、運行の前後にドライバーが整備情報を入力、関係者がクラウドのシステムで情報を共有できるかどうかも検証した。

これまで運行記録が把握できるのは個々のトレーラーヘッドに限られていたため、トレーラーの部分は切り替えられてしまうとその後どれだけ走行したのかといった重要な情報がつかめず、特定の地域に偏って使われる非効率も見られた。FTRDなどはIoT(モノのインターネット)を生かし、そうしたボトルネックを解消できると見込む。トレーラーの運行履歴を蓄積できれば、適切な保守管理にもつなげられ、事故の削減効果も期待できるという。

実験結果は上々で、FTRDなどは実用化に向けて本格的に取り組んでいる段階だ。島田社長は「エビデンスベースでさまざまな改善を提唱し、物流現場で課題となっている非効率の解消に役立っていきたい」と意気込む。


特定の位置から一定時間内に車で移動できるエリアを示した図の一例(FTRD提供)※クリックで拡大

大規模イベント控えた配送計画策定にも活用可能に

FTRDは他にも、今年6月に大阪市で開かれた20カ国・地域首脳会議(G20大阪サミット)開催に併せて同市内で実施された大規模な交通規制の影響に関する分析結果を公表。平常時とG20サミット開催時の稼働車両数などの違いを比較した結果、G20サミット時は平常時より稼働車両数が5割程度減少したり、京都方面からG20サミット会場付近へ配送する車両に迂回行動の傾向が見られたりと、交通規制の影響が明確に確認できたという。

島田社長は「走行データを分析することで、特定の大規模イベントを前に、物流事業者の配送計画策定や一般道迂回に伴う近隣住民への影響把握などに役立つ情報を提供できる」と強調。災害が発生したエリアの走行履歴を詳しく見ることで、その後のBCP(事業継続計画)対応に反映させることもできると指摘する。FTRDが切り開いてきた「エビデンスをベースとした物流改善提案」は、トラックドライバー不足などの諸課題が重くのしかかる物流業界にとって、今後ますます価値を高めていきそうだ。


G20大阪サミットの際、会場付近へ配送する車両の走行経路分析結果(FTRD提供)※クリックで拡大

(藤原秀行)

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