日本3PL協会 大須賀正孝 会長インタビュー [LOGI-BIZ 2015年8月号 掲載]

日本3PL協会 大須賀正孝 会長インタビュー [LOGI-BIZ 2015年8月号 掲載]

※この記事は『月刊ロジスティクス・ビジネス』2015年8月号に掲載されたインタビューを転載したものとなります。

「これから運賃は3割上がると心得よ」

物流現場の人手不足は間違いなく進む。運賃もパートの人件費も高騰する。そもそも人が集まらなくなる。その時になってから後悔しても遅い。規模拡大を急ぐより、今は利益を追求すべきだ。これから3PL市場では勝ち組と負け組の差がさらに拡大する。勝負は利益で決まる。(聞き手・大矢昌浩)

売り上げ追求の落とし穴

──日本の3PL市場が踊り場に来ているとの指摘があります。小売業の一括物流センター新設が一巡したことが理由の一つです。

「確かに大手は一巡したかもしれないが、これまで自社物流でやってきて、今からアウトソーシングしたいというところもまだまだたくさんある。新規の引き合いは減っていないし、良い会社の案件が多い。物流のことをそれほど考えなくてももうかっていた会社が、そろそろ物流にも手を付けようかと入ってきている」

──案件の規模が小さくなってきた印象です。

「うち(ハマキョウレックス)にしても既存顧客は商売自体が細っている。今、小売業で売り上げが伸びているのは、よほどの勝ち組だけだ。まだ伸びしろはあるものの、3PL市場の規模も川下の物流に関しては成長のペースが落ちてくるだろう」

──メーカー層では物流子会社の売却が加速しています。3PLにとっては新たな市場では?

「それはある。ただし、メーカー物流はもともと波動が少ない。通常は生産計画通りなので物流が平準化されていて、事前に計画も立てやすい。そのため誰でもできる。工夫の余地は限られている。ただし、メーカーと物流会社では人件費の水準が違う。そのためアウトソーシングすれば、1回はその差額でコストが下がる。しかし、これからは安い給料では人が集まらないという問題が出てくる」

──運賃や人件費の高騰で3PLの増収減益傾向も目立ってきました。

「もうからなくなったのは3PLが自分でまいた種という面もある。価格競争も収支トントンならまだ分かる。ところが、売り上げを追求するあまり、よくそんな料金で取ったなという案件がいっぱいあると思う。全く合わない仕事を請け負って苦しんだ末に結局は手を上げてしまうという話が増えている。荷主にしても3PLを使ってコストを下げるつもりが、うまくいかなくて逆にコストが上がってしまう。現在の契約が切れたら別の3PLに切り替えたいという相談がうちにもいっぱい来ている。安ければいいという荷主も良くないが、それを請けてしまう方も悪い」

──規模拡大を目指した物流会社のM&Aや合従連衡も活発化しています。

「製造業であれば売り上げ追求も分かる。規模が大きくなれば設備の稼働率が上がる。大量に仕入れるので材料費も下がる。しかし、物流は工賃仕事だ。規模が大きいからもうかるということではない。同じ仕事の物量が増えるのならいいけれど、買収しても新しい仕事が増えるだけだ。その仕事が採算に乗るかが問題だ。売り上げが増えても利益が減れば元も子もない。成長を焦ってはいけない。赤字の仕事は取らない。品質は絶対に守る。問題が起きたら、すぐに手を打つ。そのたびに品質を上げていく。そこにしか勝つ道はない」

──しかし、同じエリアに多くの仕事があれば、積み合わせ輸送や庫内作業員の融通など工夫の余地も出てきます。

「実際にはそう簡単ではない。専用センターの荷主を4社集めて複合センターにしても、システム費用は全て個別に掛かる。忙しいときはどこも忙しいのでパートの融通にも限界がある。そもそも人手が余ったら他の現場に移せばいいということになると、管理している側の真剣度が落ちる。波動の対応をそれほど一生懸命に考えなくなる。その結果、気付かないうちに大きな無駄が出てしまう」

──現在の中堅企業のM&Aは売上高1千億円の達成が目安になっています。その規模がないと全国対応を求める荷主の要請に応えられない。

「それは3PLが自分で勝手にそう思い込んでいるだけだろう。お客さまが見ているのはあくまでも価格だ。売上高で3PLを評価しているわけではない。1千億円の売上高ではなく、100億円の利益を目指すべきだ」

──全国規模の荷主に「この地区だけしかできません」とは言えません。

「お客さまが出てきてほしいということなら、資金を調達して出ていけばいい。実際にうちはそうやって事業エリアを北海道から九州まで広げてきた。仕事がないのに出ることはしなかった。先行投資で拠点を立てたら、無理して仕事を取るようになる。赤字の元凶だ」

──ドライバー不足の影響は?

「トラック運賃はこれから3割上がる。今はまだ、ドライバー不足といわれていても、本当に輸送がストップしてしまうことはない。消費増税前の昨年3月に瞬間的に足りなくなっただけだ。しかし今、30歳以下のドライバーは全体の2%以下しかいない。かたや国勢調査を見ると55歳から59歳までの労働者、つまり5年間で定年を迎える人が1千万人いる。それに対して15歳から19歳は680万人だ。5年間で320万人も労働人口が減る。ドライバーが集まるわけはない」

「実際、学校を回って今の若い人に聞いても、ドライバーになろうという人などまずいない。いくら賃金を上げても新卒はドライバーにならない。親も反対する。ドライバーという仕事は残念ながらそれだけ世間から低く見られている。しかし、1回就職をしてうまくいかずに転職を考えた際、給料が良ければドライバーに興味を持つ人だって出てくる。そういう人を拾っていくしかない。だから、これから運賃は必ず上がる。その時になって『しまった』とならないように、今から準備しておく必要がある」


インタビューに答える大須賀正孝氏

マテハン活用を再検討

──運送会社はドライバー不足で大変だと言いながら、実際には運賃の値上げが定着し、大手の業績はどこも好調です。荷主から見れば釈然としません。

「今もうかっているのは実際にトラックを動かしていない大手だけだ。確かに路線(特積み)は値上げが定着した。しかし大手路線が自分で運んでいるのは末端の集配だけで、幹線は傭車ばかりだ。そして幹線の貸し切り運賃は上がっていない。中小零細の実態を見た方がいい。ボーナスも払えないところがいっぱいある。だからドライバーが辞めてしまう。それでも運賃が上がらないのは結局、現状ではまだ車が余っているからだ。しかし、これからすぐに足りなくなる」

──庫内作業員も集まらなくなっています。

「うちでは今、マテハンメーカーのスタッフと一緒にほぼ全センターを巡回して機械化の余地を調べている。ただし、機械化にも限度がある。特に川下の場合は波動が大きい上に荷姿もさまざまなので、全自動などにしたら、よほど大規模なセンターでない限りコスト負けする。結局、人の使い方がますます大事になってくる」

「うちは業務請負は使わない。基本は自社雇用の女性パート。平時で1割くらい足りない人数を投入している。10割にすると物量の少ない日に遊ばてしまう。そのため常に1割は人材派遣が入っている。その程度だと指導もできる。自社パートを100とすれば、80の仕事はやってくれる」

「しかし、人材派遣の割合が半分にもなると50もできなくなる。何をどうすればいいのか分からないものだから、皆現場をうろうろしだす。しかも、今は時給が上がっている上、人材の質が下がっている。派遣会社に頼んでも頭数をそろえてくれるだけなので、結局とんでもない数が必要になる」

「パートに長く働いてもらえる現場運営が大切だ。パートが辞めてしまうのは現場に問題があるからだ。旦那さんの収入で生活費を賄える主婦パートは、波動対応で出勤に融通を利かせてくれる。その半面、職場で気に入らないことがあればすぐに辞めてしまう。たくさんの女性が働く現場には、必ず女性同士の戦いがある。そこにきちんと目配りをしないと」

──センター長の役割ですか。

「センター長より、現場の流れを見ている班長だ。うちの現場は半分くらいが、パートが日替わりで順番に班長を務める“日替わり班長制度”を導入している。明日の物量が少なそうであれば、明日休む人をパートの班長に選んでもらう。これを社員にやらせると問題が起きる」

──3PL市場は今後どうなっていくと予測しますか。

「勝ち組と負け組の差がこれまで以上に大きくなっていく。もちろん資金力の問題もあるが、規模で決まるのではない。現場の管理の仕方、システムの組み方の問題だ」

大須賀正孝(おおすか・まさたか)

1941年静岡県生まれ。56年浜北中卒。青果仲介業などを経て、71年に浜松協同運送(現ハマキョウレックス)を設立。裸一貫で運送業を立ち上げ、流通センターの運営で事業を拡大、2003年3月に東証1部上場を果たした。現在、同社会長のほか、静岡県トラック協会長、日本3PL協会長、浜松商工会議所会頭などを兼務。

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