※この記事は『月刊ロジスティクス・ビジネス』2017年2月号に掲載されたインタビューを転載したものとなります。
「旧来型物流会社を3PLに変革した」
収益還元法で意識改革
──SBSホールディングス傘下のSBSロジコムが今回の物流企業番付で総合ランキング1位になりました。
「SBSロジコムの前身は2005年に東急グループから買収した東急ロジスティックですが、当時と比べて売り上げ規模は2倍、営業利益は3倍になりました。それまでの東急ロジスティックは、売り上げが300億円程度、利益が10億円程度で、利益の8割が不動産収入という会社でした。安定はしているけれど成長はしない。コンペでも負けてばかりでした。社員たちは皆現場に張り付いていて、まともな営業組織もなければ自分たちのWMSもない。戦うための武器を全く持っていないのですから新規開拓ができなくて当たり前です。業績も中期的に見れば少しずつ落ちていました。このままでは間違いなくつぶれると思いました」
「案の定、私が社長として乗り込んだ途端に既存の大口客から契約を打ち切られました。再生しない限り、この会社に未来はない。そう皆に言い渡しました。そして最初にやったのが『収益還元法』です。当時は各支店が償却済みの自社倉庫をたくさん抱えていました。それを使って営業すれば倉庫費用が事実上掛からないのですから、支店の収支は当然ながら黒字になる。しかし、管理会計を改めて、近辺の相場に応じた賃料を支払ったことにして収支を計算したところ、どの支店も赤字でした。家賃を払えば赤字になってしまうくらいなら、倉庫から全て人を引き払って賃貸に出せば黒字になるのですから、その方がずっとましです。その事実を社員たちに突き付けました」
「営業倉庫が赤字になるのは、運営に人手をかけ過ぎている、作業の仕組みが悪い、お客さまからもらっている料金が安過ぎるなど、多様な理由があります。『赤字ではやっていけない、お前のところは赤字だ』と経営者から散々言われると、さすがに社員たちもどうすれば黒字にできるか考えるようになる。お客さまに値上げをお願いしたり、作業員の数を減らしても現場を回せるように工夫するようになります」
──旧東急ロジスティックだけでなく、歴史のある物流会社はどこも償却済み倉庫や所有不動産の賃貸収入を利益の源泉にしています。
「だからコンペに勝てないわけです。コスト構造が高いままでも、たまたま資産を持っていたので何十年にもわたって食べてこられた。しかし、3PLの時代になればそうはいきません。物流会社に限らずこれまで日本では資本があれば大して働かなくても生き延びてこられた時代が長く続きました。しかし今は伝統のある名門企業が簡単につぶれる時代です」
──意識を変えるだけで、そう簡単にコストが下がるとは思えません。
「やはり買収から間もなくのことですが、先ほどとは別の大口荷主が経営に行き詰まり、他社に吸収されることになりました。その時に荷主の責任者から呼び出されて『悪いけれど従来の半値でやってほしい』と言われました。即答は避けて社に持ち帰ったところ、社員たちは皆『手を引きましょう』『さっさと逃げましょう』と言う。しかし、ちょっと待てよ、と。従来の半額で黒字化できたら、われわれにはものすごく大変な力が付く。そう考えて、半額で引き受けることにしました」
「私が自分でその拠点に乗り込んでコスト改革を直接指揮しました。現場にはたくさんの正社員が投入されていました。まずはそれを全てパートに入れ替えた。それも物量の変動を計算して曜日ごとの定員を決め、それぞれのパートが出勤可能な曜日を組み合わせて投入人時を適正化しました。続いてトラックへの荷物の積み方や空きスペースの活用などの改善を積み重ねて、6カ月で黒字化にこぎ着けました。この1件でやればできることを証明して見せることができました」
──パート化を進めると正社員が余ります。
「余った人たちを首にはできないので、どう活用するかを考えました。その答えが新規営業でした。それまで社内で営業活動に従事しているスタッフは2〜3人でした。それをこの10年で100人規模の部隊に成長させました」
「営業方法には知恵を絞りました。飛び込み営業の他、コールセンターを立ち上げてしらみつぶしにセールスコールをかけたり、広告のプロに依頼してインターネットでお客さまをつかまえる仕組みを構築したり、ありとあらゆるしかけをつくった。それと並行して人材教育を進め、数理分析のできる理系スタッフを外部から採用するなど提案力強化を図りました。その結果、年間30億〜40億円ペースで新規案件を受託できるようになりました」
「ただし、新規を取ると今度は倉庫が足りなくなります。その倉庫を、物流不動産会社から借りるのではなく不動産の証券化スキームを活用して自分たちで開発しています。物流不動産会社から賃貸すれば坪4千円は掛かる倉庫を、自分で開発すれば3千円程度に抑えられる。しかし、従来型の倉庫会社のように借金して自社倉庫を建て、何十年も返済し続けるというやり方では、資金が固定化されてしまって次の投資ができません。成長できない」
「そこで当社は自分で開発した施設で3PL案件を受託してテナントを付け、その不動産を証券化してエクイティをファンドに売却することで資金を流動化しています。その手法で03年に株式を公開してからこれまでに、グループ全体で総額1千億円近い投資をして延べ13万坪程度の物流施設を開発してきました」
インタビューに答える鎌田正彦氏
独自のアセット戦略
──契機となった案件は?
「07年に大手ホームセンターの大規模なコンペがありました。受注するために50億円近くを投資して埼玉県川越市に延べ床面積約1万4千坪のセンターを建設しました。当社にとって過去最大の拠点を先行投資で立ち上げたわけですが、全て埋めることができました」
「この成功で自信を付けて09年には家具・雑貨チェーンをメーンの荷主とする1万3千坪の新センターを千葉県野田市に、続いて12年にも約1万坪を同市に開発しました。さらに、今年から来年にかけて横浜市金沢区と大阪の南港にそれぞれ約1万5千坪のセンターが立ち上がります。その先もまだ詳細は公表できませんが、関東圏で日本の物流企業としては最大規模となる施設の開発に取り組んでいます」
──物流不動産の相場が高騰しています。土地の取得が難しいのでは?
「3PLは不動産開発会社にはない強みがあります。その土地にセンターを造ったら坪いくらで貸せるのか、具体的な荷主を念頭に置いて正確に値踏みできます。開発したセンターを営業倉庫として自分で運営するわけですから、不動産会社と違って『物効法(物流総合効率化法)』も利用できる。不動産会社では許可を取るのが難しい土地でも開発できて、各種の優遇が受けられます。建物の仕様やスペックも自分たちで使うから無駄がないものになる」
──3PL市場の現在の環境をどう見ていますか。
「会社の組織力や経営の安定性、資本力を問われるようになってきました。3PL事業は案件当たりの取引金額が大きく、1回の失敗ですぐに数億円が飛んでしまいます。大規模案件ともなれば投資も必要です。組織に体力があれば、何かトラブルがあっても必要な人数をすぐに投入できる。そうしたところを荷主が見るようになっています」
──市場の拡大はまだ続きますか。
「まだ伸びるでしょう。やはりインターネット通販の拡大が軸になります。当初は倉庫の片隅を借りていたネット通販ベンチャーが200坪、300坪とスペースを増やしています。そのうちスペースが足りなくなって別の拠点に移る。その結果、荷主の“玉突き”が全国的に起きています。ベンチャーに刺激されて大企業もネット通販に本格的に乗り出しています」
──ネット通販物流の拡大を引き金に、物流ロボットや自動運転車への注目が高まっています。
「大変面白いマーケットになりそうです。有望なベンチャーがあれば投資しようと考えて先日、米シリコンバレーに視察に行きました。向こうではUber型の配車システムがかなり普及しているし、庫内作業も配達も半自動化であれば10年以内には実現しそうです。将来的に物流は確実に自動化されるでしょう。ただし、現状ではまだピッキングにしても人手の方が安い。タイミングの判断が必要です」
鎌田正彦(かまた・まさひこ)
1959年生まれ。79年佐川急便入社。87年に独立し、関東即配(現SBSホールディングス)を設立。2003年ジャスダック上場。04年の雪印物流(現SBSフレック)、05年の東急ロジスティック(SBSロジコム)など物流企業の買収を重ね事業規模を拡大。12年東証2部上場。13年同1部昇格。