“台風特需”で見えてきた中長期的な成長の芽
かねて賃貸物流施設マーケットの供給過剰が指摘されている大阪湾岸部。空室率は改善傾向が見られるものの依然2桁と高水準だ。募集賃料が今後さらに下落し、需要が旺盛な内陸部との格差が一段と広がることを懸念する向きは多い。
市場環境はまだまだ楽観できないが、その一方で今夏に西日本を相次ぎ見舞った自然災害からの復旧特需が発生。予期せぬ方面から薄日が差し始めた。市況好転の小さな芽を中長期的な成長にまで大きく育てられるかどうか。デベロッパーの手腕があらためて試されている。
テナント確保苦戦で「湾岸の実質賃料2000円台」の声も
シービーアールイー(CBRE)が今年7月に公表した2018年第2四半期(4~6月)の賃貸物流施設市場調査によると、近畿圏の大型マルチテナント型施設の平均空室率は17.5%だった。
湾岸部の物件で空きスペースが解消されたこともあり前期(1~3月)から3.7ポイント低下。CBREは「需給バランスに改善の兆しが見え始めている」との見方を示すが、過去1年にわたって2桁が続いている。首都圏の5.3%に比べれば明らかに見劣り感は否めない水準だ。
完成後1年以上の物件に絞っても10.9%で首都圏の1.6%とは対照的なだけに、関係者の間に空室率低下を手放しで喜ぶムードはない。物流業界に詳しい金融筋は「過剰供給の影響からいまだに脱し切れていない。強気の賃料設定が完全に裏目となった物件もある」と手厳しい。
現地でも冬の状況を裏付けるかのように、ある不動産関係筋は「引き続き賃料を引き下げなければならない局面もあり得る」と指摘する。
同筋によると大阪地区では現在、内陸部と湾岸部の間で賃料格差が顕著に見られ、リーシングが順調に進んでいる内陸部の坪当たり募集賃料は4000円台前半、それに対して湾岸部は3000円台前半と既に1000円以上の開きが確認されたという。
大手物流不動産プレーヤーの営業担当者は「3000円台前半にフリーレントを加味すれば実質賃料は2000円台と考えるのが妥当だろう。現状では賃料をよりリーズナブルな水準にするしか打開策はないと思う」と悲観的だ。
大阪湾岸部(国土交通省近畿地方整備局ウェブサイトより)
特需と並行して継続的なリーシング努力が鍵に
他方で中長期的な需要に期待する向きもある。今夏は7月の西日本豪雨にはじまり西日本では大型台風が相次ぎ上陸。大阪など関西圏の広い範囲で大きな被害をもたらしたが、これに伴い社会インフラや戸建て住宅などの補修・修繕などを中心とする復旧特需が見込まれている。
大阪南部在住の40代男性は「9月4日の台風21号で自宅の屋根などが一部吹き飛ばされた。修理業者に見積りを依頼したが着工は1年先と言われ驚いている。各地で同様の被害が多数発生しており、これに対応できるだけの建設作業員と資機材が絶対的に足りていない」と地域の現状を明かす。
個人の住宅や産業設備といった分野を問わず、完全復旧には相応の年月がかかることがうかがえよう。
それだけに今後は大阪湾岸部などで復旧工事向けの建設資材や建設機械、関連物資が大量かつ継続的に発注されるとみられ、こうした動きに併せて同エリアの賃貸物流施設がストックポイントとして大きな役割を果たしていくことが予想される。
有力物流不動産プレーヤーの開発担当者は「今のところ大阪湾岸部のマーケットが抜本的に好転する兆しはないが、ロケーション自体は阪神港に隣接しており大阪中心部へのアクセスも悪くない。復旧需要の本格化に相まって中長期的には有望なエリアとなる可能性を秘めている」と今後の展開に期待感を示している。
先ごろ大阪湾岸部の施設でテナントを獲得できた別の物流不動産プレーヤーは「決して楽な市況ではないが、適正な賃料と建物のスペックできちんと営業すればお客さまもこちらを向いてくれる。要はどんな環境でもデベロッパーとして基本のリーシング力が勝負」と同業他社にも奮起を促している。
(鳥羽俊一)
台風21号による大阪市内の被害状況(大阪市ウェブサイトより)