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【独自取材】『トラックドライバーにも言わせて』著者・橋本愛喜氏インタビュー(後編)

【独自取材】『トラックドライバーにも言わせて』著者・橋本愛喜氏インタビュー(後編)

「女性の活躍促進は大歓迎、でも『トラガール』は間違い!」

今年の3月に刊行された『トラックドライバーにも言わせて』(新潮新書)が、アマゾンの流通・物流(本)ランキングで第1位を獲得するなど、物流業界の内外で強い関心を集めている。フリーライターとして活躍する著者の橋本愛喜氏は、過去に自らもトラックドライバーとしてハンドルを握った経験を持つだけに、背負う社会的責務の大きさとは釣り合わない労働環境の悪さを何とか打開しようと、運送業界の現状と課題、向かうべき道を分かりやすくまとめている点が好評を博しているのだ。

「物流よ、変われ」。本書の中で語られた言葉は短いが、読者の心に極めて力強く迫ってくるだろう。特別インタビューの最終回は、著者がそのメッセージを発する上で決して忘れてはいけないと強調する1つの事故への思いから語ってもらった(インタビューは今年3月に実施)。


インタビューに応じる著者の橋本氏

インタビュー前編:「運転席に座ってみて初めて分かることをお伝えしたい」
      中編:「ドライバーへの転落人生? 何だその表現は!」

多くの問題を象徴した京急踏切衝突事故

――本書でも第5章「物流よ、変われ」の中で触れられていますが、2019年9月に横浜市の京急線踏切で起きた電車と大型トラックの衝突・脱線死傷事故は非常に衝撃的でした。
「非常に多くのドライバーさんが決して他人事ではないぞという危機感を持たれましたね。本当に明日起こる可能性があると。現場は幹線道路から一歩奥まったところにある路地でした。まさに動脈から毛細血管に入っていくようなイメージです。細く入り組んだところに大型トラックで進入してしまったら、自分だったらバックするのか、それとも警察を呼ぶのか、どう対処するのかを、ドライバーさんも想像されたんじゃないかと思いますよ。あの事故は、直後に襲来した大型台風がなかったら、もっと広く世間に取り上げられていたニュースだったと思うので、非常に残念です。亡くなったドライバーの男性の死を決して無駄にはできませんから、私はこれからも事故のことを訴えていきたいと考えています」

編集部注:各メディアの報道などによれば、果物を積んで千葉に向かっていた大型トラックが線路脇の細い道から現場の踏切に右折して入ろうとしたがどうしても曲がり切れず、立ち往生してしまったところに京急の快速電車が衝突。トラックドライバーが亡くなり、電車の乗客30人以上が負傷する大事故となった。ドライバーが過去の配送の際に通ったのとは異なるルートを走っていたとみられることが明らかになっているが理由は不明。


京急事故の現場に残されたタイヤ痕(新潮新書『トラックドライバーにも言わせて』より)※クリックで拡大

――実際に事故現場へ何度も取材に行かれていますね。現場を見て、かなり感じるところはありましたか。
「現場には事故後の1カ月間で計6回訪れましたが、めちゃくちゃたくさんありましたね。現場に供えられた献花が枯れていく姿を見るだけでも非常につらかった。亡くなったドライバーさんは60歳を超えていて、第一線を引退していても全く問題ない歳なのに、わざわざ長く勤められた会社から別の運送会社へ再就職してドライバーを続けられた結果、ああいう事故に遭遇してしまった」
「最後の最後、踏切が鳴り出してから衝突するまでの数十秒間を、ドライバーさんは自分が逃げる時間じゃなくて事態を挽回しようとする時間にされたんです。その場面に彼がどう思っていたのかは、もはや想像するしかないのですが、新しく入った会社に迷惑を掛けられないとか、相当なプレッシャーがあったのではないか。現場の黒いタイヤ痕やえぐられた地面の傷を見ると、涙が止まらなくなってしまいました。だからこそ、本書を出すに当たって、あの事故はどうしても中に入れるべきだと思ったんです」
「トラックだけではなく、ああなった場合、乗用車に乗っているドライバーさんだったらどうしますか? と聞いてみたくなりますよね。私の周りの人間に尋ねたら、近くの人を呼んで電車を止めるのを手伝ってもらうとか、いろんな意見がありました。ただ、警察を呼ぶという選択肢は乗用車とトラック両方のドライバーには、特にトラックドライバーにはなかったんです。彼らはプロだと自分で思ってしまっているから、警察を呼んだら運転免許の行政処分点数が増えるんじゃないかみたいな変な意識がありますが、全然そんなことはないので、どんどん警察に助けを求めてほしいと思います。そういうこともあまり知られていないですよね」

――もちろん、鉄道会社側の事情もあるでしょうし、明らかになっていないこともたくさんありますから軽々に断じることは避けるべきだとは思いますが、それでもやはり、あの事故にはトラック業界が抱えるさまざまな問題が凝縮されていたような印象です。
「本当にそうですね。どうしてあんな小路へ入ったんだ、運転技術に問題があったんじゃないか、みたいなコメントがされていましたが、そういうことを言う人には、実際に乗ってみなよ、と強く言いたいです。私自分、大型トラックに乗ったつもりで、現場に至る道路を何回もシミュレーションして走ってみました」
「今回の事故に直接関係するかどうかは断言できませんが、物流業界全体としては、新型コロナウイルスの感染拡大の影響もあって、物流の需要が高まっていて、特にECは顕著です。個々のドライバーさんの仕事が増えるのは人手不足もあり、ある程度やむを得ない部分があるとしても、就労環境を変えなければいけないと思います。細くて通りにくい道を拡張するとか、もっと安全に走ることができるよう関連する法律を変えるとか。そうした仕事の環境が古いままなのに、新しい需要だけ現場に投げ込んでどうするの?という疑問はすごく感じます」

改善基準告示の「30分休憩」が逆にプレッシャー

――厚生労働省は、トラックやバス、タクシー、ハイヤーの各ドライバーの労働時間などの規制に関する改善基準告示の見直しに向け、昨年末に専門家の委員会で議論を開始しました。
「非常に期待したいところですね。現在の改善基準告示はいろいろ問題がありますが、特に、いわゆる『430』(4時間連続で走行したら30分休憩を取る)の部分は現場のトラックドライバーさんには評判がめちゃくちゃ悪いんですよ。自分のタイミングで休ませてくれ、とみんな言います。せっかく気分が乗りに乗って今からいくぞ、となった時に、強制的に休まないといけなくなるタイミングの30分前になってしまった、みたいな感じなんです。その30分で駐車できる場所を探さなければいけないというプレッシャーにも襲われます。いざその場所に行ってみたら満車で止まることもできない。路上駐車したら周辺の人たちに怒られるけど、そのまま走ったら告示違反になってしまうので、やむを得ず駐車場じゃないところで休んでいる。そうした事情を消費者の皆さんや一般のドライバーの方々は全然知らないから、路駐するな、エンジンをかけっぱなしにするなと怒られます。ドライバーにとっては、もう理不尽でしかありません」

――見直しに関してはどのように要望しますか。
「今回は、告示の中に睡眠時間というワードを規定として取り入れるかどうかを議論されていると間接的に聞きました。もしそうであれば、ぜひ取り入れてほしいと思います。トラックドライバーはそもそも、働き方改革に伴って設定された残業時間の上限適用が2024年まで猶予されており、その上限自体も960時間と長く、一般職と全然異なっています。その違うということ自体が、第一線で頑張っているドライバーの皆さんの中では『なぜこんなに条件が違うんだ』という不満になっているんです。私もまだまだ勉強中なので明確な回答があるわけではないんですが、良い具合に現在の(一般職とドライバーの規制内容が違うという)ねじれを変えていければいいですね」

――国や運送業界で女性ドライバーの活躍促進を目指す動きが広がっています。これまでの取り組みをどのように評価されていますか。
「ドライバー全体を見ても、現状では女性が2%余りしかいませんから、増えること自体は大歓迎ですし、協力してほしいと言われれば喜んで協力させていただきます。ただ、国土交通省が主導している女性のドライバー活躍促進プロジェクトには全く賛同できません。そもそも、女性ドライバーを『トラガール』と命名するというような感覚が…(笑)。今社会全体で、CA(キャビンアテンダント)や看護師といったように性差を問わない職業名へ変えてきている中で、トラガールとはいったい何を時代に逆行しているのか?と思いますよ」
「それに、プロジェクトの内容を紹介するウェブサイトで、女性が乗るトラックをピンク色にして紹介しているのを見た時は国交省に抗議の電話をしようと思ったくらいですよ(笑)。これは明らかにやり過ぎだろうと。もちろん、女性のトラックドライバーさんが自分で好んでピンクのトラックに乗るのは全然問題ありません。それは好みですから。しかし、女性の活躍促進を目指すプロジェクトを象徴する存在でもあるトラックをピンク色にすることはあり得ないでしょう。運送の現場にはピンク色がそもそもありません。泥が付いたら茶色ですし、ほこりが付けばねずみ色なのに、そんな状況でピンクって?と思いますよ」
「先ほどのトラガールの件だって、丸の内のオフィスに勤めているホワイトカラーの女性を『事務ガール』と呼んだらどう思いますか? 絶対にヤフーニュースのトップになりますよ(笑)。そのおかしさを業界も感じていないんです、残念ながら。男性が多いし、女性には『どうしてスカートをはいてきていないの?』みたいなことを平気で言えてしまう」

――確かに男性の私から見ても「トラガール」の命名センスには正直言って面喰いました。意欲は買うけど…というところでしょうか。
「やり方と発想がちょっと違いますよね。トラガールはブルーカラーの実態に全く目を向けていない発想です。私の考えていることがみんな正しいだなんて全く思ってはいませんが、トラガールに関しては不正解! それは間違いありません」


意欲は買うけれど…(「トラガール促進プロジェクト」ウェブサイトより)

ドライバー同士がつながり合えばマナー違反解消

――先ほどマナーの悪いドライバーについて言及されました。もちろんそうしたドライバーが全てということは絶対にありませんが、本書でも触れていたように、車中でペットボトルの中に用を足して、そのまま車外に投げ捨てるような、本当に悪質な人間もいて、ドライバーという仕事のイメージを悪くしている。まさに自分で自分の首を絞めているのも事実です。そんな状況についてはどう思いますか。
「私のツイッターのフォロワーになっているトラックドライバーは全体的に、正義感がすごく強いんです。運転している時に何ができるかというと、大まかに言えば飲食するか考えるかの2つしかないので、すごく考える人が多い。だからこそ自分なりの正義感を強く持たれている。以前、ある運送会社の経営者さんに、やめるよう橋本さんからもSNSなどで呼び掛けてほしいと言われたのが、ドライバーが運転中にごみのポイ捨てなどのマナー違反をした別のドライバーをスマートフォンで撮影してSNSにアップすることです。正義が正義をつぶしているようなイメージで、本末転倒になっているとその経営者さんはおっしゃったんです」
「マナーが悪いトラックドライバーさんに対し、一番むかつくと思っている人たちは、実は同じトラックドライバーさんたちなんです。自分たちの地位を下げることにつながるから。ドライバーはそれぞれ自分の会社の看板を背負って走っているわけですしね。そういうことを考えると、本当はドライバーさんがマナーの悪いドライバーさんに声を掛けていくのが一番良いと思います。私もマナー違反の現場写真をSNSにアップするのではなく、それこそ飲み会の場などを利用して、友情とドライバー同士のつながりの強さを通じて、お互いを良い意味で監視し合うのがいいんじゃないでしょうか」
「おそらく、そういう(用を足した後の中身が入っている)“黄色いペットボトル”を作ってしまう人たちって、どうせ誰も見ていないし、俺なんてトラックドライバーしかできないし、みたいなふうに思ってしまっている、本当に本当の孤独なドライバーさんが多いはずです。みんなお互いに強くつながっていて、そういうことはやめようと言う人が本当に多いのに、そこから違う道に行ってしまう人には、声を掛けるなどしてつながりを持たせるのがすごく即効性のある解決方法じゃないかと考えています」
「私自身も昔は結構やんちゃだったので(笑)、ドライバーをしている時は高速道路のサービスエリアやパーキングエリアで結構、他のドライバーがごみをポイ捨てしているのを注意したこともありました。それで相手が怒ったら、何かを褒めてあげるというか、キャッチアップしてあげて、つながりを持ってあげれば、その人は今後たぶんマナーを守るようになると思います。互いに監視し合い、励まし合うというのはすごく大事なことなんじゃないでしょうか」

――最後に、トラックドライバーの皆さんとそれ以外の読者の皆さんにあらためてメッセージをお願いします。
「ドライバーさんは、今いろいろ本当に大変な状況だと思います。特に(1990年のいわゆる“物流2法”施行による)規制緩和があってから、自分たちの首を絞めるだけ絞められている状況になっています。誇りを持って仕事に取り組んでほしい、と強く思います。しんどくても、いい意味で俺たちがいなきゃ日本の経済は回らないだろう、みたいな、間違わない方向でプライドを持ってほしい。そして本当に、どうぞご安全に!と申し上げたいですね」
「特に日本は、著名人の不倫の問題などを見ていても、行き過ぎた正義がすごく強くなってしまっているように思えます。それではすごく堅苦しくて余裕のない生活になってしまう。本書でも紹介しましたが、どうしようもない事情で仕方なくノロノロ運転で追い越し車線を走っているトラックドライバーに対して、そんな速度で走るなと普通車のドライバーが怒っている。もちろん法律やルールに違反するのはいけないことですし、普通車のドライバーがお怒りになる気持ちもよく分かりますが、その法律やルールが現実の社会に追い付いておらず、やむなくドライバーたちがそうしているんだということを理解しようとする気持ちはぜひ持っていただきたいと思います」

橋本 愛喜氏(はしもと・あいき)
フリーライター。元工場経営者、日本語教師。大型自動車一種免許を取得後、トラックで200社以上のモノづくりの現場を訪問。ブルーカラーの労働問題、災害対策、文化差異、ジェンダー、差別などに関する社会問題を中心に執筆中。各メディア出演や全国での講演活動も精力的に行っている。
※新潮社の本書のサイトはコチラから

(藤原秀行)

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