15年ぶりの大規模拡張で機能が飛躍的に向上
深刻な人手不足が物流拠点の在り方を大きく変えようとしている。
労働集約的な運用は過去の話となった今、現場オペレーションの担当者は限られた人員を有効配置しつつ、先端技術を投入して作業の生産性を上げられるかどうかを厳しく問われている。
ロジビズ・オンラインではそんな苦境にも負けず進化を続ける物流施設に焦点を当て、「物流のプロたちに見せたい拠点」として特徴や目指す方向を適宜リポートする。
第1回は、三菱ケミカル物流(MCLC)が埼玉県加須市で展開している自社物流拠点「首都圏ロジスティクスセンター」(首都圏LC)を取り上げる。
MCLCがこのほどロジビズ・オンラインの単独取材に応じ、約15年ぶりの大規模拡張に伴って新増設した倉庫の全容を独占公開した。そこにはトラックドライバー不足など物流現場を覆う黒雲を振り払い、三菱ケミカルホールディングス(HD)グループ全体の中長期的な成長につなげようとするさまざまな試みが凝縮していた。
高機能拠点を展開し“脱長距離”進める
首都圏LCは1988年に操業を開始し、首都圏を含む関東一円を中心に東北、北信越の各エリアをカバー。同社の東日本地区における化学品物流の“第一拠点”として展開してきた。
立ち上げ当初は1期倉庫と呼ばれる平屋建ての一般倉庫のみだったが、92年(2期倉庫)、2002年(3期倉庫)に多層階の一般倉庫をそれぞれ増設。今回が3度目の拡張となる。
昨年より三菱ケミカルエンジニアリングの設計・施工で工事に着手。最も古い1期倉庫を建て替えて増床・高機能化し、通称“4期倉庫”と呼ばれる4階建ての多層階一般倉庫(1572坪)に刷新した。3期倉庫を増設した際、建物を多層階に変えることにより限られた敷地内でキャパシティーを拡大できた経験を4期倉庫にも生かした格好だ。
今回の拡張では危険物4類倉庫(保管面積191坪=常温管理:97坪、25度管理予定:49坪、15度管理予定:45坪)を併設したのが大きな目玉だ。保管能力は4期倉庫が4700トン、危険物倉庫は3328本(832パレット)に上る。一般倉庫は既存の2期および3期倉庫と合わせてフレキシブルコンテナバッグ(フレコン)換算で1万5000トンに拡大する。まさに“第一拠点”から“圧倒的な第一拠点”へ飛躍的にレベルアップしたといえる。
「4期倉庫」の外観
「4期倉庫」の内部
今回の大幅増強の背景について、三宅司東日本エリア営業部長は「30年にわたる運営でストックポイントの業務や配送網が確立している。併せて中核拠点に危険物倉庫を設置して化学品輸送ネットワークの機能を強化・充実させる狙いがあった」と説明する。
その底流には、トラックドライバー不足などの影響で製品を運べなくなる“物流危機”を何としても回避したいMCLCの問題意識が存在している。
危険物倉庫の内部
これまで三菱ケミカルHDグループは西日本に構える生産拠点から東日本の需要家へダイレクトで製品を出荷してきた。しかし、昨今のドライバー不足に加え、路線事業者らの間では重量物で荷姿が大きく取り扱いの難しい化学品の輸送を敬遠する傾向が強まっていることが逆風となっている。
このため長距離便の確保は年々厳しさを増しており、MCLCは将来的に生産拠点から需要家への直送は難しくなるとみている。需要家のニーズに応えられないのは製造業として死活問題に直面する。そこで生産拠点と需要家の間に高機能の物流拠点を挟み、長距離輸送を必要としない環境を整備しようというのがMCLCのたどり着いた一つの解だった。
三宅部長は「コストを掛けても安全・確実な輸送力が担保できるストックポイントを整備・保有することによって、脱長距離便の推進と最大の消費地である首都圏向け輸送を自社でハンドリングできる点はアドバンテージとなるだろう」と期待感を示す。
機械化推進で“働きやすい倉庫”実現へ
現在の拠点陣容は約50人。1日当たりの入荷は大型車で30~40台、出荷(配送)は小型車を含み約50台に上る。一部の配送業務には長年取引のあるパートナー企業を起用しているものの、庫内作業も含めほぼ全ての現場実務を全額出資子会社の菱化ロジテックが担っている。
機能性樹脂、汎用性樹脂など多種多様な製品の用途・特徴といった化学品の知識を持った自社スタッフによる荷扱いは、誤出荷の防止・対処や1つの細かいトラブルがもたらす影響を事前に判断できるため高水準な品質の提供を発揮しているという。グループでの内製化がサービスレベルの維持・向上の原動力となっているようだ。
秦謙二首都圏ロジスティクスセンター所長は「4期倉庫ではエレベーターとリフターを装備して昇降機能をアップさせた。スペースは若干狭くなるがリフターを付けて効率性・安定性を優先している。またプラスチック製品の原料となる汎用樹脂は1パレット当たり1トンと重量があるため、施設設計ではその環境に十分耐えられるよう1平方メートル当たり2トンの床荷重と支柱を多く設置して躯体強度を高めた」と解説。基本的な機能強化の重要性を強調する。
4期倉庫の完成・稼働に併せて作業負荷の軽減など働き方改革に向けた検討も進めている。首都圏LCではフレコン、紙袋の製品をパレット単位で管理しているが、需要家のオーダーによっては小分けや積み替えなど手作業に頼らざるを得ないケースも散見される。
フレキシブルコンテナバッグ、紙袋に包装されたプラスチック原料
そこで秦所長は「パレットを在庫用から出荷用に載せ替え、納入先指定のパレットに移すといった作業は力が必要で、庫内作業員やトラックドライバーに負担が掛かっていた。間もなくパレットを差し替えるロールインバーターを導入して労務負荷を軽減させる」と機械化を積極的に進め、現場の業務改革に踏み出す考えだ。
化学品の分野で“働きやすい倉庫”のモデルケースとなるかどうかが注目される。
(左から)三宅氏、秦氏
化学品業界の物流危機を救う旗手に
三宅部長は今後の展開について「今回の建て替えによって4期倉庫の裏側に余剰スペースができた。時期などは未定だがいずれ5期倉庫を増設してキャパシティーをさらに拡大させ、充実したインフラ力を生かして新規顧客の獲得にもつなげたい」と語り、拡販に向けた戦略拠点として活用することも示唆している。
「5期倉庫」の建設予定スペース
MCLCでは化学品の安定的な輸送ネットワーク構築に向けて関東地区でストックポイントの拡充を進めており、千葉県市原市の五井営業所に加えて16年には神奈川県愛川町に「神奈川ロジスティクスセンター」を開設。神奈川~埼玉~千葉に至る首都圏のカバー網を確立させた。
その先には化学品メーカー各社が連携した大規模な共同輸送プラットフォームの青写真を描いており、既に住化ロジスティクスとは末端配送で協力関係にある。
首都圏LCは施設規模・機能、立地などの観点から共同輸送においても重要な役割を果たすとみられ、今回の設備拡張を通じて化学品貨物への対応力と保管・輸送機能を向上。全国ネットワークの基幹拠点として高品質で多様なサービスを提供していくことが期待される。
首都圏LCは化学品業界の物流危機を救う旗手となるポテンシャルを秘めている。
(鳥羽俊一)
プロに見せたい物流拠点②きくや美粧堂・イーストロジスティクス(前編)
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