プロに見せたい物流拠点②きくや美粧堂・イーストロジスティクス(前編)

プロに見せたい物流拠点②きくや美粧堂・イーストロジスティクス(前編)

「スタッフの採用に苦労しないセンター」の真相

 未曾有の人手不足という苦境にも負けず、進化を続ける物流施設にスポットを当てるロジビズ・オンライン独自リポートの第2回は、美容業界向け専門卸大手のきくや美粧堂が東京・平和島に構える自社物流拠点「EAST Logistics(イーストロジスティクス、EL)」を取材した。前編と後編に分けて、その驚きの姿を紹介する。

 「スタッフの採用に関してはあまり苦労していない」と担当者が明言するセンター。都心に位置し、最寄り駅にも近いという好条件がプラスに働いている面はあるものの、働く人たちのことを最優先に考え、就労環境改善とマテハン機器活用による業務効率化を地道に同時並行で続ける同社の姿勢が受け入れられていることが大きいようだ。前編はその取り組みを詳報する。


ELが入居する東京流通センター(TRC)の物流ビルB棟(TRC提供)

「他人任せにせず自分たちで」が物流の基本

 1956年設立の同社は、全国各地で営業している美容室を主要顧客に抱えている。日々、シャンプーやトリートメント、ヘアブラシ、化粧品、美容機器など多様な商品を出荷。併せて、美容室開店のコンサルティング、美容室の情報誌発行など幅広いサービスを提供している。2017年3月期の売上高は約210億円と業界でも上位にランクインしている。

 全国30超の営業拠点のほか、東京・平和島の「イーストロジスティクス」と岡山の「WEST Logistics(ウエストロジスティクス)」の2つの物流センターを展開。前者が東日本、後者が西日本をそれぞれ担当し、主要顧客の中小規模の美容室を支えるため、商品の円滑な出荷に努めている。

 同社を貫く基本方針が「自社物流」であり、両センターも3PL事業者に外注せず、自社で運営しているのが特徴だ。同社の大久保尚彦サプライチェーン部長は「予算の枠内であればある程度自由に取り組める企業風土がある。他人任せにせず自分たちで考えるからこそ現場が改善されるとの思いは強い」と話す。

 ELは17年、東京流通センター(TRC)内に新築された物流ビルB棟に移転、新たに稼働をスタートした。広さは約1700坪。取り扱う商品は約2万に上り、まさに同社の重要な基盤として機能している。


約90人のアルバイト・パートタイマーが働くEL内部

「大人カレーの日」などイベント多数

 現場を支えるアルバイトとパートタイマーのスタッフ約90人の7割程度が女性。そうした事情も考慮し、EL内は働きたくなるような環境になるための配慮があちこちに施されている。センター内に有線放送でBGMを流しているほか、スタッフが一息付くセンター内のリフレッシュルームは約50人を収容可能で、明るい雰囲気になるよう内装を工夫。無料のWi-Fiも提供している。

 ハードだけではなく、ソフトの面にも目配りするよう努めている。例えば、商品として取り扱っているジェルネイルの勉強会を開き、商品への理解を深めるとともに自らの爪を美しく保ち、仕事中にも身だしなみにも気を配ってもらうよう後押し。他にもスタッフが集まってバーベキューやワインパーティーを行うなど、その時々でユニークなイベントを企画してきた。

 今年7月には、初めての試みとして「健康を考えるデー」を実施した。リフレッシュルームにセルバスヘルスケア・ジャパン(東京)の体成分分析器を持ち込み、希望者に無料で体脂肪率などを測定。同社の担当者が測定結果を分かりやすく解説し、食生活などでどういった点に留意すべきかをアドバイスした。

 さらに、同社も扱っている、食物繊維が豊富な健康飲料や健康食品、マッサージ器などの健康グッズを多数展示。スタッフが休みを取りながら気軽に試飲したり、グッズを体験したりできるよう配慮した。


健康飲料や健康食品を紹介

 大久保部長はスタッフが堅苦しくならず、自身の健康を気軽に見つめ直すきっかけにしたいと狙いを説明。「定着率改善には当社がスタッフの方々のことを常に考えているという姿勢を明確に示すことが大切」と創意工夫に意欲を示す。

 12月には同じく初のイベント「大人カレーの日」を開催、スパイシーな本格カレーをスタッフに無料で配り、味わってもらった。大久保部長は「家庭でつくるとどうしても子どもに合わせて甘口になりがち。たまには大人味のカレーを食べてもらうことでリフレッシュしてほしい」と思いを明かす。

 開催に協力したTRC営業部営業一課の林田啓誉氏と営業三課の大和田望氏は「きくや美粧堂さんのセンターはいつも非常に活気があると感じていた。このようなイベントを共同で行えて非常にうれしい。物流拠点としての付加価値向上のため、当社としてもこのような催しを他のテナントの方々にもご提案していきたい」と語る。


スタッフに「大人カレー」を配る

7割を大きく超える定着率

 もちろん、庫内作業の負荷軽減とやる気を出せる環境の整備にも余念がない。そのスタンスを象徴する1つが、オリジナルのマテハンだ。16年にメーカーの花岡車両(東京)と共同で試行錯誤の末、ピッキングエリアの棚詰め用台車を独自に開発した。商品を乗せる天板が重さに応じて昇降することで、常時取りやすい高さになるような仕組みにしており、腰痛など体へ負担が掛かるのを減らすのが目的だ。庫内スタッフからは好評を得たという。

 他にも、センターに導入している音声ピッキングシステムを通じて取得した作業の進捗データや業務の日報に記載された内容などから、ピッキングや梱包の人時生産性、ミスの発生件数といった110程度の項目をKPI(重要業績評価指標)として毎月作成。各スタッフの作業のスピードや正確性を常に把握している。

 そこから、見込まれる出荷量をスムーズに処理するためには何人のスタッフを配置すべきかを細かく算出、最適な人員配置を可能にしている。年末年始などの繁忙期でも残業が際限なく膨らむ事態を回避できているという。

 きくや美粧堂サプライチェーン部の松丸忠広物流担当マネージャーは「勤務のシフトをある程度自由に組めるようにするなどの取り組みも続けている。われわれがそれだけ働いている皆さんのことを考えている姿勢を示すと、スタッフの方も多少の無理は聞いてくれたりするようになる。信頼関係の構築が何よりも重要だ」と強調する。

 業務効率改善などで目立った成果を挙げたアルバイトやパートタイマーを表彰する制度も導入するなど、多岐にわたる徹底した配慮が奏功して定着率は7割を大きく超えており、今夏に行ったアルバイト・パートの採用も予定していた以上に人員を確保できたという。

 気配りは庫内スタッフだけにとどまらない。猛暑に見舞われた今年の夏は、センター内の冷蔵庫にコーヒーやお茶などの飲料を常に入れておき、訪れたトラックドライバーをねぎらうとともに無料で振る舞った。アナログな取り組みとの印象ではあるが、ドライバーからは非常に好評だったそうだ。

 大久保部長は「これだけドライバー不足が深刻化してくると、われわれも“選ばれる荷主”になる必要がある。細かいけれどもこうした配慮をすることで、ドライバーの皆さんにわれわれの気持ちを感じていただきたかった」と力を込める。

 ELには他の荷主企業などからひっきりなしに見学の希望が寄せられており、大久保部長らへの講演依頼も多数ある。物流企業に頼らず自前でここまでの成果を残せていることを考えれば、その注目度の高さも当然といえそうだ。


夏場に飲み物を常時備えていた冷蔵庫



年末に出荷する製品の段ボールは、クリスマス風のイラストを掲載。扱うスタッフや商品を受け取る美容室の人たちが楽しめるようにしている


センター運営を担う大久保部長(右)と松丸氏

(藤原秀行)

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