大和ハウス工業・浦川取締役常務執行役員インタビュー(後編)
大和ハウス工業で物流施設開発の陣頭指揮を執る浦川竜哉取締役常務執行役員はこのほど、ロジビズ・オンラインの単独インタビューに応じた。
浦川氏は、国内の賃貸物流施設は新型コロナウイルスの感染拡大下でも需要が旺盛で、工事の遅れなどの影響もほとんどないと指摘する一方、東南アジアなど海外の開発事業は現地に渡航できないため着工済みの案件を除いて一時的にストップしていると説明。感染拡大が沈静化した後に仕切り直しをしたいとの意向を示した。
また、物流施設開発の有力な候補地として首都圏の1都3県を重視する姿勢を明示した上で、特に後背地の広い神奈川や埼玉に引き続き着目していく考えに言及。トラックドライバー不足や環境意識の高まりを受けたモーダルシフト需要拡大を踏まえ、JR貨物と組んで貨物ターミナル駅構内に物流施設を開発する案件を今後も展開していくことにも意欲を見せた。インタビューの後編を掲載する。
浦川取締役常務執行役員(19年4月、中島祐撮影)
ロボット導入の採算性向上が進展
――先ほど物流施設開発の在り方を変えていくというお話がありました。これまでは働きやすい環境を整備して貴重な労働力を確保するため、カフェテリアや休憩スペースなどのアメニティー施設を拡充する流れが続いてきましたが、自動化・省人化が進むとなると、そうした流れにも変化が出てくるのでしょうか。
「自動化・省人化に関しては、例えば負荷が大きい作業は機械が代行するとか、人間の目と手で細かく行うべき作業は人間に任せるとか、夜間の作業は機械の比率を高めるとか、そうした使い分け、棲み分けが進むということであって、今後一気に自動化・省人化へ突き進むというわけではないでしょう。一気にアメニティー設備が不要になるということでもありません。物流施設を完全無人化すれば話は別でしょうが、まだそれはちょっと厳しいと思うので、人間が手掛けるパートが存在している以上、多少そのウエートが縮小する可能性はあるとしても、アメニティー設備はこれからも当面必要であり続けるでしょう」
――物流施設の完全自動化は想定されていますか。
「もちろん、実現できれば素晴らしいことですし、中国では大手EC事業者の物流センターでほぼ完全自動化に近い状態に達しているようです。ただ、物流はうまく行かずに止まってしまったらそこでアウトなので、そういった意味では、作業が万が一詰まった時には人間の手助けで物流が止まらないようにすることがまだまだ求められると思いますね」
――自動化・省人化の話で言えば、御社は傘下のアッカ・インターナショナルなどと組み、物流施設へのロボット導入をかなり熱心にサポートしています。動きはありますか。
「実は最近もアッカがロボットを大量に導入して入出荷作業の自動化を図っているセンターがインターネット通販の取扱量拡大で増設するのに伴い、新たに当社の物流施設で業務を引き受けることになりました。ロボットもさらに活用する予定です。だいぶロボット導入により業務の効率化を進められるようになって採算も改善し、お客さまから『ロボットより人間にやってもらった方が早いし費用も安い』と言われるようなことがなくなってきました」
――新型コロナウイルスの感染拡大で経済情勢が悪化する中、物流施設の工事の遅れや入居の取りやめなどの影響は出ていませんか。
「工事の遅れはほとんどなく、総じて順調だと思います。もちろんゼロではないですし、施設によって進捗状況の程度などに違いはありますが、極端に大きく計画が遅れている案件はありません」
「新型コロナでECの利用が非常に伸び、需給が非常に逼迫しているところもあれば、逆にアパレルなどのようにコロナ禍で商品が売れず在庫が増しているために倉庫スペースを必要とされるところもあります。そうした2つの側面がありますが、物流施設の需要が旺盛であることは間違いないと思いますね」
――御社は国内に加えて海外も東南アジアで物流施設開発を推進しているほか、米国などでも参入を視野に準備を進めてきました。新型コロナウイルスの感染拡大で影響が出ているのでは?
「米国は計画がありましたが、コロナの影響で現地に行けなくなってしまったので、止まっています。既存のベトナム、タイ、マレーシアはずっと開発を進めてきましたので、こちらは今も粛々と建築中ですが、新たなことに関してはやはりコロナで現地に入れませんから、ちょっと今は動けません。感染が落ち着いてから仕切り直しですね」
――国内に話を戻すと、ECは確かに好調ですが、有力なテナント企業候補の中には先ほど言及していたアパレル業界のように新型コロナの影響をかなり受けているところもあります。
「アパレル業界はECに力を入れておられますが、確かにコロナが広がる中で在庫量が増えているのは事実だと思います。外出を自粛するのであれば服を買っても着ていくところがないですし、そもそも服を買う必要がないという感じになってしまっている。ただ、ユニクロさんは別格としても、例えば作業服大手のワークマンさんはレインウエアやクライミングパンツなどが好調ですし、結構業界の中でも優勝劣敗が鮮明になってきているように思えます。販売が好調な食品スーパーも同様の傾向があると感じます。自動車業界もコロナの影響で新車需要が落ち込んだりしていますし、各業界の物流施設に関する需給バランスの動きは慎重に見極めていく必要があります」
ロボットを積極的に導入している千葉県市川市の「DPL市川」(18年撮影)
地域の防災に貢献できる施設をこれからも開発
――個別の案件を見ると、最近の例で言えば今年6月、JR貨物の札幌貨物ターミナル駅構内で大規模なマルチテナント型の物流施設「DPL札幌レールゲート」を共同開発する構想を発表しました。貨物駅構内に物流施設を構えることで、保管から出荷までの業務を効率化し、モーダルシフトを検討している荷主企業などの多様なニーズに応えられるようにするのが狙いと説明しています。こうした独自性の強い施設開発は今後も続けていきますか。
「トラックドライバー不足や輸送時のCO2排出削減という面から考えると、モーダルシフトは有効な一つの手立てですし、意義は非常に大きい。チャンスがあればぜひ、今後もレールゲートブランドの物流施設として貨物ターミナル駅と連携した開発にチャレンジしてみたいと思います。JR貨物さんにもそうおっしゃっていただいています」
――千葉県流山市で大型物流施設4棟を連続して開発している件の進捗状況はいかがですか。
「これは順調ですね。最初に完成した1棟目は満床ですし、2棟目となる『DPL流山Ⅲ』はほぼリースアップが視野に入ってきました。3棟目の『DPL流山Ⅳ』は延べ床面積が10万坪ありますが、その半分でご利用いただけるテナント企業の姿がだいたい見えてきました。来年には最後となる『DPL流山Ⅱ』に着工します」
――デベロッパーの間でも先駆的だった、大規模な物流施設をエリア内に複数棟集中して開発するという手法は流山で受け入れられていると感じますか。
「そうですね。ただ、まだまだ全体が完成していませんし、道路の整備や労働力確保の問題もありますから、これからですね。流山は物流施設だけでなく、街づくりの側面から新たな住宅や商業施設などの開発も担っています。そうした取り組みは今後もさらに続けていきます」
――今後開発を手掛けてみたい注目のエリアはありますか。
「エリアは全部になりますが(笑)、やはり1都3県、その中でも特に神奈川、埼玉の両県ですね。神奈川や埼玉は後背地が非常に広く、その点で他の地域との違いが如実に出てくると思います。神奈川は横浜や平塚、戸塚といった利便性の高い地域で用地を取得できていますし、引き続き注力していくエリアです」
――マルチテナント型の物流施設は大型化の傾向が続いてきましたが、最近では大手デベロッパーの中に都市部でコンパクトサイズの物件を手掛ける動きが出ています。御社も対応されますか。
「当然そうした案件もお客さまが必要とされていますので、チャンスがあれば手掛けていきます」
――都市部と地方の双方で事業機会を創出していく流れは変わらないでしょうか。
「特に地方エリアは、先ほども申し上げた通り、デベロッパーの中でも手掛けられるところがあまりないですから、われわれが果たさなければいけない役割は大きいと痛感しています。例えば、今新たな案件を進めている岩手県花巻市では、地元の花巻市と地震などの災害発生時の協力に関する協定を締結しました。災害時に当社の物流施設を支援物資の一時保管や集積場所として提供することなどを盛り込んでいます。東日本大震災の時も、被災した仙台空港に代わり、花巻空港などが中心となって機能し、周辺の自治体に対する広域的な支援ができたということもあったようです。地域の防災に協力、貢献できるような物流施設をこれからも作っていかなければいけないと思っています」
「DPL札幌レールゲート」の完成イメージ(大和ハウス工業提供)※クリックで拡大
(藤原秀行)